2007年05月08日

THE焼肉ムービー プルコギ 3点(100点満点中)

狂牛病の牛やりまーす
公式サイト

北九州の小さな焼肉店で働く主人公・タツジ(松田龍平)と、天才焼肉料理人としてメディアを賑わすトラオ(ARATA)の、二人の若き焼肉料理人の戦いを描いた作品。

なのだが、どうにも評価し難い、完全な駄作に終わっている。

この作品、見どころとなる要素のひとつは、『包丁人味平』の世界を実現させた伝説のTV番組『料理の鉄人』を模した、"焼肉バトルロワイヤル"と称する作品内番組での、様々な趣向を凝らした焼肉対決の面白さ、であろう事は間違いない筈だ。

だが、この種の料理対決ものを楽しむ上で最も重要となる、出来上がった料理の、何が、どの様に美味しいのか、を、全く説明していないのだから呆れる。対決番組を舞台に用いているのだから、当然に審査員が登場し、料理を食べているのにも拘らず、である。

「美味しい」か"無言"かの二元論でしか語られない"味"は、観客には全く伝わらない。伝わるわけが無い。『美味しんぼ』にしても、今川泰宏のアニメ版『ミスター味っ子』にしても、この料理の、食材の、何が、どの様に優れているのか、どんな味でどんな食感で、どんな感情が湧くのか、といった説明を、ウンザリする程に事細かにウンチクを述べ講釈し感嘆するからこそ、受け手側はその"味"を想像し擬似的に味わう事が出来るのだ。

また、舞台となる対決番組を最初からずっと大きく扱い、極端にディフォルメされたMC(竹内力と前田愛はバトロワ繋がりだね。ハイハイだから何?)や演出によって"対決"のインパクトを強めているにも拘らず、最後の主人公とライバルの対決においては、もっとも大きな盛り上がりを見せてひとまずのメリハリを与えるのに必須な筈の"決着場面"が丸々省略されているのも問題。

この、必要な筈の場面をあえて省略した事が、実は作り手の狙いである事はわかる。が、その狙いは完全な逆効果であり、ただでさえ盛り上がっていない観客のテンションは更に方向性を見失って途方に暮れるばかりである。完全な失敗でしかない。

劇中でも語られている通り、赤身肉の種類は普通に知られているが、ホルモン系の種類はよくわからない人が少なからずいる筈だ。だから、主人公がメインで扱うホルモンに関しては、まず最初にその種類と見た目と味を観客に教えておかない事には、その後の展開がよくわからなくなるに決まってる。

特に最初から最後まで重要な存在であるコプチャン(小腸)は、まず序盤で扱っていたものが何なのか、に関する説明が全く無い状態で、これ以降もずっと出てくるソーセージみたいな白い物体が一体なんなのか、知らない人にはずっとわからないままだ。

「コプチャンはまず下処理の絞り方が重要、続いて焼き方がポイント」と言っているが、その"絞り方"がどうすれば良いのか、悪いのかも全く説明なく、そもそも"絞る"とはどういった作業なのか、すら説明がなく全くわからないままで、だからどう美味しくなるのかもわからない。

大体、焼き上がりのタイミングが重要と言っておきながら、ジイサンが最後に焼いたコプチャンは、ライバルが口にした時と主人公が口にした時ではかなりの時間の開きがあり、主人公が食べた時点では明らかに焼きすぎな筈なのに、その事は完全スルーで「美味い」と言ってしまっている。コダワリを示す描写にコダワリが感じられないとは、本当に何も考えていないとしか思えない。

この様に、"焼肉を題材とした料理対決もの"としての最低限のものが全く欠けているために、少しも面白くないのだ。

更に問題なのは、料理を美味しく見せて食欲をそそるべき作品な筈が、やたらと食材や料理を粗末に扱う描写が頻出し、食欲どころか嫌悪感でいっぱいになり画面から目を背けたくなってしまう事だ。

これが、"敵の悪質さ"を表現するギミックとしてならまだ許せるが、そうではない、食材や料理にコダワリを持っている者達でさえ、料理の乗った皿を放り捨てたりと、何の救いもない惨状となっており、作り手の料理や焼肉に対する愛情は全く伝わって来ず、むしろ嫌いなのではないかとしか思えない有様にはウンザリする。

そもそも、タイトルがプルコギなのに、主人公の店名がプルコギなのに、劇中に全く料理としてのプルコギが登場しないとはどういうつもりなのか。作り手は焼肉=プルコギなどという素人以下の認識しか持っていなかったとしか思えず、やはり料理の事など本当は興味が無かったのだろう。だったらこんな映画作るな

現在日本で食べられているタイプの焼肉は、戦後の日本で始められたものだから、序盤の対決シーンで言われている、「祖父の代から100年受け継いだタレ」とか、「韓国伝統の味」というのは間違いである。こんな事は少しでも近代料理史を知っていれば常識であり、映画の最初から間違いではどうしようもない。

とりあえず美味しそうに映ってさえいれば、ストーリーが多少マズくとも問題ないのだろうが、まずその大前提が全くダメで、同様にストーリーも全くダメとくれば、もうどうしようもない。

主人公は気の弱いダメ男という設定だが、描写が全く徹底していないせいでそれがわかりにくく、言動の方向性も一貫していないので余計にわからない。しかも結局最後までダメなままなので、全く感情移入も共感も応援も出来ないこんな男に、何故ヒロインは想いをよせるのかすらわからず、主人公とヒロインだから結ばれるのだ、と無理から決めつけているだけに過ぎない。

ライバル側の女性関係も、才能ある女性料理人を見出して助手に抜擢した、という展開が、その後のストーリーに何の影響も与えておらず、これでは何のために登場させたのかすら不明だ。

倍賞美津子の店の場面も、物語の中で何の意味も無くバラバラに挿入され、そこ単体で見ても、なぜ買収や妨害に負けなかったのかすら語られず、場面自体の存在意義が全く無い

終盤の回想シーンの説教は、その場限りではそれなりの感動を与えそうな雰囲気ではあるが、その後のオチに全く結実していないどころか、それまでの流れを全否定しており、実は全てを台無しにしているだけだ。

更に言えば、冒頭の過去シーンを母と兄弟の食事場面で始めたのだから、終盤の回想も同様のシチュエーションで説教を語らせれば、説教の内容は同じでも主人公とライバルの関係性とよりシンクロするかたちとなり、描写が無くとも今後の進展を観客に想像させる事が出来た筈だ。何から何まで、物語構成も人物設定もあったものではない

分不相応に豪華な出演者陣も、内容やキャラ設定、演出がゴミレベルなため、ほとんどが無駄遣いとしか感じられない、出演者自身にとっても不本意な結果に終わっている。田村高廣に至っては、こんなのが遺作とされてしまい、心の底から気の毒でならない。

そんな中で、それなりにキャラクターを発揮して持ち味を出せているのが、桃井かおりと前田愛の両者だろうか。桃井かおりは普段の天然キャラそのままのカラーを自然に押し出して、つまらない映画に数少ない安心感を与えており、前田愛も、一歩間違うと寒々になり易いディフォルメされたハイテンションなキャラを、かつての天才子役ならではのセンスによって絶妙なバランスでウザ可愛い立ち位置を確保し、同じく見ていて安心出来る存在となっている。

逆にテンションのコントロールに失敗して寒々になってしまっているのが、敵側キャラの田口トモロヲだ。彼は変人や狂人の演技を得意としているが、演出家が方向性をきっちり定めて制御していかないと、いくらでも暴走して作品から逸脱してしまいがちなのだ。特に本作は、主人公もライバルもテンションの低いキャラなので、そのギャップが悪い方に目立ってしまい、余計に寒々しい事になってしまっている。

結局、見どころは桃井かおりと前田愛の安定した演技と、山田優のエロい肢体くらいしかない、芯からどうしようもない最底辺の大駄作である。焼肉が好きな人が観たら間違いなく激怒するだろうし、出演者のファンでも観たらガッカリするだけなので、こんな作品の存在は全人類が完全無視して構わないだろう。


tsubuanco at 17:57│Comments(4)TrackBack(3)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by sheep   2007年05月28日 17:00
いつも読んでます。気持ちの良い書きっぷり、リスペクトです。自分もこの映画見ましたが、途中退場への気持ちを我慢しながら見た初めての映画でした。
坂井真紀はこの映画なんかに出たことを悔やんで、「赤い文化住宅の初子」ではお尻丸出しなんてやってのけたのではと、邪推してしまいましたよ。
2. Posted by つぶあんこ   2007年05月28日 19:08
高級食材をひっくり返して踏みにじる映像が散在してましたけど、出演者も名だたる面々を揃えておきながら、ひっくり返して踏みにじった惨状でしたよね。勿体無い。
3. Posted by 名無しさん   2007年05月30日 12:57
四万十川料理学園の先生みたいですね。
4. Posted by つぶあんこ   2007年05月30日 15:22
これをね、こうやってドーン!

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