2007年05月26日

しゃべれども しゃべれども  58点(100点満点中)

「じっと手を見る。汚れとるアルな」
公式サイト

古典落語を題材とした佐藤多佳子の同名小説を映画化。監督と脚本は『学校の怪談』シリーズでもコンビを組んでいた、平山秀幸と奥寺佐渡子。主演はTOKIOから長瀬智也に続いて落語家役を演じる事となる国分太一。

芸に伸び悩んで行き詰まっていた主人公が、美人だが愛想の悪すぎるヒロイン(香里奈)との出会いから落語教室を始める事となり、ヒロイン、関西弁の小学生(森永悠希)、口下手の野球解説者(松重豊)の3人の生徒と主人公の、落語を媒介としたそれぞれの成長と人間模様を描いたドラマである。

落語を題材としているだけに、全編通じて大小の笑いが絶えないストーリー展開とキャラクター配置は、原作の出来がいい事も手伝って面白い。

キャラクターに関して言えば、笑いが題材なのに仏頂面で、喋りが題材なのに無口なヒロインと解説者、東京下町が舞台なのに関西弁の少年と、極端にミスマッチな人物を投入してインパクトを与え、そこからの変化、成長をより興味深く追わせる意図は成功しており、その上で、人を笑わせる筈の落語家なのに、その本分に気づかず自分が喋る事にしか頭に無い、これまた目的と手段が逆転している存在を主人公に据える事で、互いにある種の反面教師な様を見出して自らの糧とする、ストーリーを上手く進めるために必然とも言える、メイン人物の設定と配置は良くしたもの。

これは、本来の江戸、落語を記号的に象徴している、師匠(伊東四朗)や祖母(八千草薫)の存在が、メインの"おかしな人物"達との対比として背後に控え、作品世界の基盤を安定させているからこその、極端なキャラ立てである事は言うまでもない。

そうしてまずキャラクターがわかりやすく配置されているおかげで、それによって動かされるストーリーもまた、わかりやすく受け入れ易いものとなっている。

主人公の成長ドラマで言えば、落語家として客を笑わせる事と、男として女を笑顔にする事の二つを、相似形の平行ストーリーとして同時進行させ、最終的に大団円とする、このメインストーリーの狙いと構成は、わかりやすく面白くまとめられており上手い。

その基点ファクターとなる演目『火焔太鼓』の扱いも、まず師匠の噺を最初に見せ、これを観客に"基本形"として認識させ、それを自分のものとした主人公の噺によって、一皮むけた彼をわかりやすく表現するとともに、それを見るヒロインの表情を、序盤にて初めて主人公の噺を聞いた時の表情と対比させ、ヒロインの心的変化を表現。そして最後に、ヒロインの噺によって、先程の表情の意味を完全に表現する、と、やはりメインの構成は上手く紡げているのだ。少なくとも脚本的には。

一方で、傍流となる少年と解説者、特に解説者に関しては、悩みや葛藤の描写があり、いくつかの示唆もありながら、その解消となる展開まで物語が至っていないせいで中途半端さが気になってしまう。そのため、彼に絡むエピソードとしての、少年の野球勝負とその相手との問題もまた、引きずられる形で中途半端な印象を与えてしまうのだ。少年の枝雀師匠のモノマネが印象的で面白いだけに、構成の弱さが勿体ない。

だが本作の問題は、ストーリー面よりも映像的な部分に多く見られる。

複数の人間の会話のやりとりでストーリーが進められる本作において、画面上に人物を平坦には配置せず、手前、中、奥と、奥行きのある配置で構成される画面によって、長回しを多用する事自体はいいのだが、その際に、言葉そのものと同様に重要となる、それを言う、あるいは受ける表情の機微が、被写界深度を絞って観客の視点を限定している割に、誰の表情をどのタイミングで見せれば良いのか、の意図と、実際に映像として見せられる結果が、どうにも食い違っているとしか思えない。

中盤に多く見られる、主人公宅にて手前に少年、中程に主人公、ヒロイン、解説者、奥に祖母、といった配置でのFIXのグループショットで見せられる、ボケとツッコミの会話劇にそれは顕著で、人物の立ち位置、会話、アクションと、ピント送りによって誘導される観客の視点が噛み合ずに、せっかくの面白さが幾分か損なわれがちとなってしまっているのだ。

焦点ではなくカメラ位置による問題で、同様の伝わり難さが生じているカットもいくつかあり、序盤の、"話し方教室"を中座したヒロインとそれを追う主人公との会話場面で、手前にヒロイン、奥に主人公の配置での長回しによって、主人公の一言によってヒロインがキッと睨みつける動作をさせており、これではヒロインが後ろを向く事となり、"美人だが表情が恐い"というヒロインのキャラ設定のキモが伝わらないのだ。

基本的に動きの少ない会話劇を、少しでも見続けさせようとの狙いなのか、移動ショットが多用されてもいるが、クライマックスとなる主人公の高座において、一番盛り上がっているところで主人公の回りをカメラが大きく回り込むカットがあるが、これが、主人公の顔は後ろ向きになって見えないわ、観客席は暗くピンボケでよく見えないわで、一体何をどう見せたいのかが全く伝わらない結果となっている。これでは動かさずに正面から撮り続ける方がマシだ。

また、先述の通り物語の最初と最後を支配するヒロインの表情だが、仏頂面を通すからこそ、ラストシーンの笑顔が生きてくるのに、中盤の浴衣を繕うシーンにて、既に笑顔を見せてしまっているのだ。"怒った顔"だがそれでも間違いなく"骨格からして美人"とまで評されるヒロインに、まさにピッタリと断言出来る香里奈をキャスティングしておきながら、これは勿体ない。他の場面での彼女が良かっただけに尚更だ。

彼女以外も、主人公から脇役まで、キャスティングに関してはバッチリ嵌っており、メインストーリーも面白いだけに、上述した様な、それを妨げてしまう点が散在する事が非常に勿体ないかぎりだ。

と言っても、細かい事は気にせずに気楽に臨めば、ホンワカと笑って楽しめる事は間違いない。機会があれば。


蛇足:『タイガー&ドラゴン』もそうだが、TOKIOメンバー主演なのに主題歌がTOKIOではないのは何故だろう。TOKIOと関係ないアニメ主題歌は歌うのに。



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