2007年05月16日

明日、君がいない 84点(100点満点中)

あしたって、いつのあしたよ?
公式サイト

原題は『2:37』、この時刻に学校内で発生した事件から遡り、そこに至るまでの一日を、学校に通う少年少女達の人間模様を通じて描いた青春残酷物語である。

学校を舞台に、とある事件が発生するまでの少年少女達の一日を平行して追う体裁は、ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』と酷似した印象を受けるが、俯瞰的な視点により事象を傍観させられる同作とは異なり、メインとなる少年少女達から選択された特定の一人を、各シークエンスごとに中心として描き、登場人物と観客との距離感を近づける手法が、同作との差異であり本作の特徴だろう。

一人の人物を中心とした一つのシークエンスを、その人物に寄り添うかたちで長回しで延々と追う事で、今は誰の話なのかを観客に対し明確にし、更に同じシークエンスを中心人物を変えて繰り返して長回しで追う事で、人物によって同じ事象が全く異なる受け止め方をされる事、一つの事象は一人が見えている範囲で完結する問題ではなく、世界に存在するあらゆる人物、事象が絡み合って進行しているのだと表現している。

この場合の"世界"とはもちろん"学校"の事であり、普遍的なテーマを身近な狭いコミュニティへ象徴させ、より大きいテーマを伝えやすくする狙いである。

メインとなる少年少女の全員を順に映し出してワンカットに収めた、序盤の長回しカットによって、その"世界"の概念をまずハッキリと観客に認識させる、この段階からもう、物語の焦点へ結実する"伏線"が用意されているのが素晴らしい。

そうして、一人一人が抱える肉体的、精神的な悩み苦しみをどんどん露呈させていき、プロローグの『2:37』時点で先に明かされた"惨事"に一体誰が到達するのか、との興味を大きく抱かされる事で、少年少女達が開陳していくどうしようもなくダウナーな苦悩を、辛抱強くひとつひとつ受け止めさせられる事となる。重い内容から目を背けさせず最後まで付き合わせる狙いは成功している。

少年少女達の表面的なキャラクター分けは、アメリカの学園青春ドラマにありがちな、単純に記号化された設定と意図的になされており、これによって誰が誰なのか、をまず単純に認識させておいて、その上で生々しい内面を描き、そのギャップによって更に生々しさのインパクトが強まり、オチへの期待度が高まっていく、こうした人物描写もまた上手い。(まあ、「オムツしろよ」とかのツッコミはあるが)

それぞれに興味深い描写を重ね、作品世界の意味を充分観客に認識させた上で、そこまでの蓄積を全て無駄なく活かしつつ全てをひっくり返すオチへと結実させる、このストーリー構成は素晴らしいの一言。特に終盤、最も救い難い悲劇と一見思われる事象を、先述の通り中心人物を変えながら何度も繰り返し執拗に盛り上げておいて、実は途中から"オチ"へ導くための描写へと変転している事に気づかされる、この転機となる部分の展開には衝撃を受けざるを得ない。

このオチ自体はさして目新しいものではなく、洋邦問わず一つのパターンとして存在するが、本作の評価点は、そのオチへ導くまでをしっかりと練り込んだストーリー構成にこそある。

映像として視覚化される事で、その構成の面白さが一層増している事は言うまでもない。特定人物をフォローしつつ背景の情報も見逃せない様にフレームに収める、各長回し映像のカメラワークの安定した上手さもまた、本作の完成度を高める大きな要因となっている。

ただ、合間合間に挿入される、インタビュー映像風の独白シーンは、その独白自体は作品を構成する上で不可欠であり、彼らが"自分の事"を語る際の希求性と、"オチ"に関して述べる時の表薄性とのギャップは、メインテーマにより深みを与えるものとして重要だが、映像形式としてノンフィクション風に撮られた映像は、誰が、いつ、何のために撮ったものなのか、という大前提が曖昧で、リアリティを高めるための筈が逆にフェイク感を生じさせてしまう結果となっているのが残念。ここは別のアプローチが求められるところだ。

作中にて描かれる、生き続ける者と死を選んだ者の分岐点こそが、本作の着想でもありメインテーマである事は間違いなく、人間の生きる意味はどこにあるのか、人は何故苦しみ悩みながらでも生き続ける事が出来るのか、を、回りくどい描写を重ねて最終的にはストレートに突きつける本作、監督は19歳で脚本を書き始め、2年かけて完成させただけに、若さ故の自己主張の強さが鼻につく部分もところどころにあり、全体的には手放しで評価するにあと一歩ではあるが、死ぬまでに観ておくべき一本と断言しても過言ではない作品だ。機会があれば是非。


余談:
オチの意味を考えると邦題はかなり的外れで、また配給会社の無能な仕事による残念なタイトルか、と興醒めする。作品に罪はないのに。



tsubuanco at 15:15│Comments(5)TrackBack(3)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by なつみかん   2007年05月31日 22:37
スタッフロールのスペシャルサンクスにガス・ヴァン・サントの名前があった気がします。エレファントを意識しつつも違いを出したのかもしれません。

最後がノンフィクション風に落ちているだけにケリーのインタビューシーンは要らなかったんじゃないかなって思います。無ければそれほどフェイク感を感じなかったかと。
2. Posted by ともだち   2007年06月02日 23:08
初めまして。
いつも映画選びの参考にさせていただいてます。

的外れな邦題といえば、もうすぐ公開の「プレステージ」。確か前は「イリュージョンVS」とかいう誰が考えてんというようなタイトルでしたね。好きな監督の作品だけにホント止めてくれ〜と心の中で願ってました。

その「プレステージ」のレビュー、楽しみにしてます。
3. Posted by つぶあんこ   2007年06月04日 14:32
インタビューで言ってる事自体は必要な情報なので、別のやり方で見せてほしかったですね。

邦題は公開中の『女帝 エンペラー』もヒドいですね。
4. Posted by ノイズ   2007年07月08日 00:53
こんばんは。「エレファント」は私も観ました。記事を見る限りはこの作品と似ているテーマや作風なのでしょうか?また「エレファント」に関してはどう思われますか?質問ばかりですいません。
「ボンボン」同様気になっていたのでコッチを観ようかなと思います。
5. Posted by つぶあんこ   2007年07月09日 17:28
テーマは違うと思いますけど、感じは似てますね。
観て損はしないと思いますよ。

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