2007年06月01日

ザ・シューター/極大射程 70点(100点満点中)

ヘッドマスターJr. レスキュー指揮官
公式サイト

スティーブン・ハンターの小説『極大射程』を映画化、なのだが、"狙撃"というファクターにこだわり抜いて、緻密な描写と蘊蓄を重ね好評だった原作とは異なり、ベタベタなハリウッド的アクション映画として、完全に再構築されている。

このため、原作に深い思い入れを抱くファンにとっては、大いに違和感と不満を感じる事となるだろうが、あくまでも小説を着想とした別アプローチでの作品と受け止めれば、単純な娯楽性の高さは評価に値するレベルにある事は間違いない。

主人公は長距離射撃のエキスパートであり、普通の銃撃戦とは異なり離れた距離で静かに進行する殺し合いの緊張感や、距離だけでなく環境や動きを読んで計算して撃たないと当たらないなど、題材をしゃぶり尽くすディテールの細密さをアッサリと省略し、様々な人間の思惑が複雑に絡み合って二転三転する陰謀ドラマの顛末もまた大きく省略され、徹底した単純化が図られている。

ストーリーや人物の省略は、長い原作を二時間程度の映画にまとめるためには仕方ない事ではあるが、題材のキモである狙撃をも削ってしまっては、本末転倒の様な気がしないでもない。

だが、その替わりに用意されている、前半の逃亡アクションや中盤クライマックスの特殊部隊との対決などは、いい意味でベタなアクション映画として、その展開の流れを丁寧に作り込み、映像的にもしっかりと、主人公が敵をブッ殺す様をいちいち丁寧に描写し、カタルシスと凄惨さのバランスを上手く取っている。

こちらの攻撃はバンバン当たるのに、敵の弾は一向に当たらない、コマンドーもかくやの都合のいいヒーロー性も、明らかに意図的になされているものであり、理想的に気持ちのいい殺戮アクションを、気持ちよく観ていればいいのだ。

一方で、あまりにも単純すぎる展開とはならない様に、脱出劇でも戦闘でも、単に銃火器を振り回して勝ってしまうだけではなく、武器ではない普通に手に入るモノを利用し組み合わせて兵器やトラップ、あるいは治療具とし、ピンチを切り抜け敵を追い込む、そうした工夫の楽しさ、面白さも用意されており、これまたハリウッドアクション映画の王道を、面白くなる方向にしっかり貫いている。

この一連の展開や、ラストの処刑シーンなど、これはもはや原作を完全に逸脱し、MARVEL COMICの『パニッシャー』や望月三起也のガンアクション劇画の世界に到達しており、そうした作品を好むファンにとっても、このスタッフで同コミックを実写映画化すれば、結構面白いものが出来てしまうのでは、と思わされるほどに、理想的に楽しめる娯楽作となっている。

監督、アントワーン・フークアの過去作『ティアーズ・オブ・ザ・サン』を彷彿とさせる、冒頭の戦場シーンの描写、展開における、観客が理解出来る部分と、描写はあるがこの段階では意味がわからない部分の構成バランスも上手く、終盤で意味がわかってきてうなずかせる、作り手の狙いは果たされているだろう。

一方で気になるのは、やはり省略による単純化のマイナス面である。

キャラクターを単純化したせいで、ただ話を進めるためにだけ登場したとしか思えない人物がいくつか存在し、FBIの女性キャラなど、結局どういう人なのかよくわからないまま、最後もいつの間にか登場しなくなっている適当ぶりで、そのマイナス面が顕著に現われた例だろう。

主人公が無実を証明する、物語内で極めて重要となるはずの場面も、そこまでの段で、銃器に対する様々な蘊蓄がほとんどないせいで、そのタネ明かしの唐突感が強く、印象も薄くなりがちで勿体ない。

プロローグ、クライマックスの戦闘、終盤の取引と逮捕劇、と、ヘリコプターが登場する場面が3回あるが、最初のヘリが破壊される様をハッキリ見せないまま思わせぶりに気にさせておきながら、その後登場するヘリの顛末とは特に関わらないなど、せっかく用意されている要素を整理しきれていない点もまた、単純化されている故に目立ってしまっている。

ただ、そういった点を差し引いても尚、単純娯楽として作り込まれたアクションの連続は気持ちよく、主人公の超人的な活躍を楽しんで観ていられる事は確実である。

やたらとセクシーさを無駄にアピールしているヒロインキャラも、存在の必然性はさておき楽しみどころの一つとして作用しているだろう。敵に捕らわれてどうなったかをハッキリ明示せず、立場が逆転した際の逆上の様子で観客に理解させるなど、思った通りだが単純化しすぎない工夫も見られる。

原作の忠実な映画化を臨む層には残念な結果だが、そうでない一般層なら普通に楽しめる、よく出来た娯楽映画。機会があれば。



tsubuanco at 15:56│Comments(2)TrackBack(5)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by more   2007年07月05日 15:50
4  新手の007か、ランボーかセガールか?でも、それくらいな痛快アクション映画としては楽しく見ました。今、
原作が気になって読んでます。あまりの
無敵っぷりにも、少年誌好きな俺には
全然問題なしでした。
 個人的には・・・・マータフ警部には
いい人でいて欲しかったかなぁ・・。
2. Posted by つぶあんこ   2007年07月06日 00:50
映画のラストは必殺シリーズの第一話的ノリでしたよね。

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