2007年06月06日

監督・ばんざい! 85点(100点満点中)

こんな えいがに まじになっちゃって どうするの
公式サイト

前作『TAKESHIS'』にて"俳優の記号化"を模索した北野武が今回、"監督の偶像化"を意図したと思われる最新作。

"偶像化"を表しているのは文字通りの人形そのものだが、これを、芯材を浮き立たせた様な造形として、ハリボテであると意図的に強調している事から、その狙いは容易に見て取れる。

その見た目と、冒頭の検査シーンに人形を用いる事で、"逃避"の手段としての存在意義を明確に提示。"偶像"と"逃避"と、一見相反する要素が実は同じ対象として行えるものだ、という主張を最初にわかりやすく説明しているあたり、前作に比べてかなり親切な作りと感じられる。それが顕著に露呈するのが、後半にて燃やされて芯だけになった人形が逃走する場面だろう。

これは全体的な構成も同様で、新規路線を試行錯誤する前半部では、バラエティに富んだ映像をテンポよく見せ更にナレーションまで被せると、これまた親切すぎるくらいにわかりやすく、普通に楽しんで観る事が出来る様になされているし、ストーリーとしての大筋「いろいろ考えているうちに壊れてしまった」というオチもまた、最後に医師の台詞として言わせて観客に教えている。

ちなみにこの、「得意の路線が行き詰まって、新しい方向性を模索している間にクリエイターの精神も作品もぶっ壊れた」という展開は、例えばメタ漫画『サルでも描けるまんが教室』でも使われているなど、メタの手法としては特段に目新しいものではなく、見せたいところはそこではない事は明白。

挑戦からも逃避したのかとすら一見思わされる親切さは、前作に対する「意味がわからない」との意見があまりに多かった事を意識したのかもしれないが、そうしたわかりやすさに配慮しても尚、本作に込められた本来の狙いがスポイルされる事は無く、北野武の能力の高さを痛感させられる事しきりだ。

前半の"失敗作"の数々、やろうとしたけど上手くいかなかった事を表すために、意図的にぞんざいな撮り方をされているのだと"小津風映画"や"ホラー映画"を観れば思わされるが、一方で、シチュエーションの見せ方が秀逸に感じられるものもあり、このあたりは、北野武の得手不得手がそのまま現われてしまったのか、とも考えさせられる。

例えば恋愛映画として作られた二本、最初に時間をかけて見せられる女性は実はヒロインではなく、そこからカメラが移動して本当のヒロインがフレームインし、ドラマが開始される、という構成は導入部として上手く、それを二例とも繰り返している事で、明らかに狙いとして計算している事もわかる。

忍者映画の映像でも、本人が演じる忍者の不格好さにも関わらず、あまりにも巧みなカット割りによって、出来のいい殺陣に見える映像を創り出している、この映像構成の上手さは相変わらずだ。

「最近流行のノスタルジック映画を作ってみたが、題材がヒドすぎてダメだった」と否定させている筈の『コールタールの力道山』などは、その題材が極めて魅力的で、少しだけ展開するストーリーもキャラクターも興味深く、これを本気で撮ってしまえば『三丁目の夕日』を凌駕する傑作が出来上がるのではないか、と思わせる程だ。

こうした流れから結果的に、北野武が抱いている映画像と、観客のそれとの乖離が想像され、意図的な狙いではない面にしても、この事が前半の面白さを深めているのではないか。

だが、誰にでも楽しめる様に作られたこの前半は、あくまでも釣り餌に過ぎず、北野武が今回本当にやりたかった事は後半にある。これは先述の通り、前半やオチは親切さが感じられるのに対し、後半からは全くそれらが消え去ってしまっている事からも明白だ。

その後半で展開される内容は、かつての深夜番組などでビートたけしが行い続けていた、「くだらない事をバカバカしくやりとげる」路線そのままである。ラーメン屋の場面は「こんなラーメン屋はイヤだ」のシチュエーションコントの映画版であり、その後の様々なシチュエーションも、「こんな○○はイヤだ」の羅列を映画としての映像で作り込んで繋ぎあわせたもの。

空手道場の場面で枝豆が太鼓をお題として連発するベタなボケの連続も、たけしの定番ネタとしてあまりにメジャーなものだ。そこに今回のテーマである偶像と逃避を織り込む事で、単なるコントに終わらせず映画としての体裁を保ち、尚且つ、行き当たりばったり投げっぱなしに見せかけて、その実は伏線と収束を考えた構成として、いちいちオチがついているなど、やはり映画として作り込まれている事は確実なのだ。

後半の終盤に大暴走する井出博士などにそれは顕著で、まず研究所でのやりとりをネタ振りとして用意しておいて、それを忘れた頃に井出博士を再登場させ、変装ネタや潜水艦やロボットなど、フリで意味も無く見せたと思われていたものが意味を持って再登場し、更にロケットの顛末においては、先にギャグとしてのオチを見せた後に、もう一度発射のシークエンスを繰り返し、今度は本当に落としてしまうと、ベタな笑いの構成をこれでもかと練り込む事で、ベタを極限までベタとして強調する狙いが見て取れる。

つまるところ本作は、北野武およびビートたけしの現時点での総括的作品として、ファンのために(あるいは自分のために)作られた映画であり、いくつかの"親切さ"を紛れ込ませる事で却って一般人をケムに撒く狙いまで込められている、まぎれもない"たけしの映画"に他ならない。

『座頭市』の様な、比較的メジャー向け作品しか知らない人が、これを観たら呆気にとられるだろうが、『みんな〜やってるか!』や『TAKESHIS'』を知る者なら、笑いこそすれ怒る事にはならない筈だ。

ともあれ、やはり"映画"としての質は変わらず高い事は間違いない。興味があれば。


tsubuanco at 15:54│Comments(0)TrackBack(13)clip!映画 

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