2007年06月02日

女帝 [エンペラー] 43点(100点満点中)

ダッシュ1号
公式サイト

シェイクスピアの『ハムレット』をベースとし、五代十国時代の中国を舞台に、愛と憎しみと野心が交錯する、チャン・ツィー主演映画。

基本的なストーリーや人物構図は『ハムレット』とほぼ同じだが、王子ではなく王妃を人間関係の中心として主人公に配置し、主として彼女の視点で物語を進める事で、見た目だけでなくストーリー的な印象も違ったものとしようとの狙いが見て取れる。

のだが、この事により、本来『ハムレット』の評価点であったはずの、王子の内面的な確執やその変遷といったドラマが大きく削られてしまい、一方でメインに祭り上げられた王妃においても、そうした内面的な描写はあまり見せられず、それぞれの人物達の様々な思惑が食い違ってカタストロフへ到達する、原作の面白さが全く活かされていない結果となっている。

何故この人はここにいてこうしているのか、など、理解に必要な筈の情報がほとんど示されず、原作を知る者は「とばしすぎ」と感じ、知らない者にとっては「誰が誰だか、何が何だかよくわからない」ままにストーリーだけがどんどん進行し、誰にとっても受け入れ難い、作った人だけがわかっている有様である。これで面白くなるわけが無い。

何より、主人公である王妃に、全くと言っていいほどキャラクターとしての魅力が感じられないのは致命的だ。あるいは"底の見えなさ"を表現しているのだとしても、それならそれで、「一体何を考えての行動なのか?」との興味を観客に抱かせ、推移を見守らせなければいけない筈が、単に情報不足で良くわからないだけなので興味が持てないのだ。これで楽しめるわけが無い。

ただ、主として王子関連の場面に用意されている、ワイヤーワーク特撮を多用した殺陣の数々は、他の武侠映画と比較しても遜色の無い出来の良さで、しっかり斬られ刺されたところから血が流れる事で、あり得ない動きと生々しい反応のミスマッチにより、より激しさが強調され、数少ない楽しみどころとなっているのは幸い。

だがその戦闘シーンも、そこに至るまでの描写や説明が明らかに不足しているため、やはり感情移入は難しく、面白い映像を客観的に楽しむ、というレベルでしか楽しみが得られていないのが非常に勿体ない。

同様に、視覚的な要素として力を入れられている美術もまた、確かに出来はよくスケールも大きいが、ストーリーの情報不足により、その良さが効果的に活かされているとは言い難い結果に終わっている。

主演のチャン・ツィーが思わせぶりに演じるエロティックな場面も、毎度の事だがエロいカットになると顔の見えないボディダブルに逃げている有様で、ちっともエロスを感じる事は出来ない。女優として脱いでみせる覚悟がないなら、エロい役を引き受けるべきではない。

結局、ハムレットとしては台無し。それを気にせずともストーリーもキャラクターも散漫で中途半端。殺陣は面白いが他に無いものが見られるわけではない。エロスはガッカリ。と、これといって特筆すべきところが何一つ無い、中途半端な作品でしかない。

まあ、題材や出演者に興味があれば観ておいてもいいかもしれないが、期待ゼロで臨んだ方がいいだろう。自己責任で。


余談:
マトモな大人なら「エンペラーじゃなくてエンプレスだろアホか!」とツッコんでしまう邦題、配給会社側の言い訳が、これまたアホ全開で呆れ返ってしまう。
(参照リンク:洋画の邦題 苦心の産物(読売新聞記事)
どうして日本の配給会社はこんなにレベルが低いのか? それとも国民はバカばっかりだからこれでいいと思っているのか? いい加減にしてほしいもんだ。



tsubuanco at 15:58│Comments(2)TrackBack(11)clip!映画 

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憎しみにくちづけ、愛に刺しちがえる。
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人を瞬時に殺める猛毒を ご所望なれど 人の心に勝る劇薬はありません シェークスピアの悲劇 「ハムレット」がベースで古代中国の宮廷を舞台に大胆で 絢爛豪華な愛憎劇を再現  チャン・ツィイーの真っ赤な衣装は女の復讐と愛に燃える心の象徴 ダイナミックなワイヤ....
10. チャン・凛子  [ Akira's VOICE ]   2007年12月12日 12:26
「女帝[エンペラー]」 「図鑑に載ってない虫」
11. 女帝 エンペラー  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年05月15日 21:08
 『憎しみにくちづけ、愛に刺しちがえる。』  コチラの「女帝 エンペラー」は、シェイクスピアの「ハムレット」をベースに、中国の宮廷で繰り広げられる愛と欲望の交錯する復讐劇を描いたヒストリカル・ロマンスです。  主演は、”アジアの宝石”チャン・ツィイー。そ...

この記事へのコメント

1. Posted by みかん。   2007年06月08日 17:37
映画とは全然関係ないですが、タイトルの下の青字が毎回笑えます。(最近は80年代後半系か…)
「ナウシカ」に見られるようにアメリカのアニメ配給会社も一時はひどかったものですが、日本の映画配給会社も生硬でセンスのない翻訳と、一部の映画の身勝手なタイトル改訂に関しては、同レベルのまずさだと思います。
(その上そもそも体質を改善しようとする気が全くない気が…。)
2. Posted by つぶあんこ   2007年06月11日 17:12
本来「ジャパニメーション」という呼称は、当時の、勝手にムチャクチャにされて質が低く見られていた日本製アニメに対する蔑称でしたからね。

最近は向こうのオタク層が「原理主義」を貫いてる様で、ヘンな事にはなってないみたいですけど、日本ももっと何とかしてほしいもんです。少しはマシになって来ている様ですが。

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