2007年06月09日

プレステージ 70点(100点満点中)

バットマン vs ウルヴァリン in メメント
公式サイト

19世紀末のロンドンを舞台に、若き二人のマジシャン、アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール )の対決を追う、クリストファー・プリーストの小説『奇術師』を、『メメント』『バットマン・ビギンズ』のクリストファー・ノーラン監督により映画化。

同監督の出世作『メメント』では、観客を混乱させる時系列構成が話題を呼んだが、今回もまた、プロローグとして見せられる"事件"以降の物語、二人の因縁の始まりからを描く物語、物語のクライマックスを構成するための重要ファクターにまつわる、前二者の中間に位置する時間の物語、の、3つの異なる時系列が平行して進む構成が取られている事が、互いに互いの手記を読むかたちで進められる原作とは異なる、映画化における大きな特徴と言えるだろう。

カラーとモノクロで二つの時間軸を分け、ファーストシーンを逆回しで見せる事で、時間軸を逆に辿っていく構成とまずわからせた『メメント』とは異なり、本作では当初から何の説明も無くバラバラに進められるため、かなりの混乱を来す可能性があるが、これはある程度は作り手の狙い通りであり"トリック"である事は言うまでもない。

普通に観ていれば、ある程度まで進んだ時点でこの3層構造には気づくだろうし、先に"結"を見せておいて、後からその"起承転"を見せて観客を頷かせる、という仕掛けは、『メメント』と同様のパターンである。

こうして、わからなかった事がわかっていく気持ちよさこそが、本作の楽しみどころの一つである事は間違いなく、プロローグの段階ですら"事件"をメインで見せながら、その実は3つの時間が平行して見せられていたと気づかされる終盤の展開などは、世界にハマる事が出来ていたなら、その構成の計算の巧みさに大いに感心させられるはずだ。

一連の仕掛けと謎解きのそれぞれが作品中に配置されている、その的確さが本作の完成度を高めているのだが、それだけではなく、各登場人物が発する台詞に注目すれば、誰一人として"ウソをついていない"事に最終的に気づかされ、冒頭で講釈される"目に見えるところにあるタネを、観客は見ていない"との概念が、ドラマそのものに用いられている"トリック"にもまた、更なる驚きを覚えさせられてしまう。

そうした"タネ"から目を背けさせ、誤った予想を立ててしまうべく用意されている要素の配置もまた上手く、特に中盤に登場する替え玉などに顕著な、ヒントを見せると同時にミスリードさせる、後から気づかされる仕掛けの上手さは良くしたものだ。

仕掛け、トリックではない本筋の部分においても、主人公二人の意地の張り合い、プライド、求道、復讐、妄執、などあらゆる情念が交錯する対決ドラマは、一つの事に文字通り人生の全てを賭ける男の生き様を、観客は「二人とも大人げなさすぎ(笑」と思いながらも、そうするに至るに納得の行くだけの"情念"を、主演二人の演技力、表現力によってまざまざと見せつけられるため、グイグイ引き込まれて目が離せなくなり、歪んだ情念が行き着く様の恐ろしさに震えさせられる事となるのだ。

アンジャーが最終的に用いる装置の真相が、少しだけ原作と変えられている事によって、その"情念の恐ろしさ"がより強調され、結末の後味を悪くしている事は、いい改変と評価すべきだろう。序盤に見せられる鳥のマジックが伏線としてより活きている事も同様。

最後のオチまで観たて、「何だよ、そんな事かよ!」とガッカリする観客も中に入るだろうが、奇術とは本来そういうものだ、と劇中で何度も語られている事に気づけば、そうした思いすらも作り手の狙いである事は自明の理。

この様に、脚本構成や役者の演技などは大いに評価出来る反面、同監督のマイナス面の特徴が作品の評価に影を落とし、相変わらず残念な結果を生んでしまっているのが勿体ない限りだ。

意図的にわからなく、ややこしくしているのは、監督の狙いではあるが、その狙いとは違い単にわかりにくく理解の阻害を生じさせる映像構成のマズさこそが、ノーラン作品につきまとう、そのマイナス面であり、人物の動きと、それに対する反応を、画面内においての観客の視点を誘導し、どれをどの様に見せ、観客にどう思われたいのか、の狙いが散漫にすぎる画面構成とカット繋ぎは評価出来るものではない。

これは『バットマン・ビギンズ』で特に顕著に露呈し、同作内にて、"わけのわからない存在にわけもわからずやられてしまう"事を表現したと思われる、バットマン誕生すぐのアクションシーンと、クライマックスの見せ場としてのアクションシーンの構成がほぼ同じ、どちらも"誰が何をしているのかよくわからない"ものとしてしか映像を組み立てられておらず、面白い映画の残念どころとして評価を下げざるを得なかった。

今回、そうした格闘シーンなどは無いため表出し難くはなっているが、舞台上でマジックを行うマジシャンの動作、それを見る(劇中の)観客の反応、舞台裏のスタッフの動向、など、どういった構成で見せれば最もわかりやすく、あるいは意図的にわかりにくく伝わるか、という計算が感じられず、狙いとは別の意味で"わかりにくい"点を増やしてしまっている事は、ありありと伝わってしまっている。

それはラストカットにおいてさえも顕在しており、ために画面に映っているものの何に対してどの様に驚けばいいのか、が散漫で伝わり辛い結果となってしまっている。「結末は誰にも言うな」と最初に言ってのける程に大切なラストで、この失態は残念にすぎる。

面白い原作をベースにしているためストーリーは間違いなく面白く、また、この種のトリッキーな構成の映画が好きなら必見ではある。

過剰な期待をかけて臨むとガッカリしてしまうかもしれないが、観て損したと思う事はまず無いはずだ。オチを知らずに観た方が楽しめるタイプの映画なので、映画好きの友達が多い人は早めに観ておいた方がいいだろう。興味があれば。


余談:
スカーレット・ヨハンソンの、何もしなくても巨乳なのを更に寄せて上げて大変な事になっているはずの胸もまた、散漫な映像のためにあまり楽しめない結果に終わっているのも勿体ない。



tsubuanco at 16:48│Comments(3)TrackBack(8)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ルークofルーク   2007年06月11日 18:14
待ってましたw
「プレステージ」は珍しくも初日に観た映画だったのでつぶあんこさんがいったいどうゆう風に感じるのか気になっていました。

僕は、ダメでした
2ちゃんねるなどでも「アノ機械」の事は重要ではなく、「主人公とファロンの位置付けがクライマックス」だ。
と、言われても、どうしても「なんじゃそら」と思ってしまう。

まぁそれでもいろいろな人の評価を観ている内になるほどなぁ・・・と思う事はあるのですけど^^;

やっぱり最初からSF要素が少しでも「ある」と感じるような宣伝方法を用いて欲しかったです。 あくまでもトリックであってマジック&サイエンスだとは思っていませんでしたからね。
2. Posted by つぶあんこ   2007年06月11日 18:52
映画の宣伝はウソと思って見る方が正解ですから。

本作を受け入れられない最大の原因になるであろう発明品ですが、テスラという歴史上の実在人物が、交流電気の父であり、低電圧スパークの中に人が入っても大丈夫な装置を作って交流電流をアピールした事実や、ワイヤレスで電力を伝送する発明を考えていた事、晩年は引きこもって怪しげな発明ばかりしていた事、などの史実、および、当時の科学や魔術に対する人々の考え方などを知っていれば、実は違和感は少ないはずなんですよね。

平賀源内を知っているアメリカ人が少ない様に、日本ではテスラはあまりメジャーではないという事を配給会社は認識した上で、それを隠すのではなく啓蒙する方向の宣伝をすべきだったのかもしれません。
3. Posted by ルークofルーク   2007年06月11日 19:14
テスラは知っていましたw
ですが、どうも常識という概念を持って観すぎたようです(これについては本当に反省orz)

いくらテスラでも・・・という先入観がありましたからねぇ・・・いや、でも今考えれば最初ほどこの映画に対しての嫌悪感はありません。

ある意味宣伝に乗り、まんまとGAGAのトリックに引っかかった・・・負けです。

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