2007年06月08日

ルナシー 50点(100点満点中)

「魂のふるさとへ還れ!」「オロカモノメ」
公式サイト

チェコのシュールレアリズム芸術家、ヤン・シュヴァンクマイエルによる、『悦楽共犯者』『ファウスト』に続く実写映画。今回は普通に役者を演技させる劇映画である。

が、その進行するストーリーの合間合間に、ブタの臓物を用いたモデルアニメーション映像が挿入されているあたり、期待を裏切らないだけの用意はなされている。

この臓物アニメーション部分が、男女の性欲とそこから生じる創造と破壊を象徴し、現実ドラマとして展開する本筋に内包されたテーマの一つを如実に表すと同時に、主人公が何度も見る狂気の夢においても、シャツやタンスの移動がコマ撮りで撮影されている事で、それが現実ではないと観客に理解させる役割をも果たしている、この周到さこそが、シュヴァンクマイエルの持ち味の一つだろう。

映画が始まる前に自身が登場し、映画の方向性を語り解題してしまう構成は、これは親切心ではなく明らかに観客に対する嫌がらせだろう。これによって観客の鑑賞法を先に誘導しておいて、その実は別のところにも重きを置いているのだと、観終わった後に気づくはずだ。

とは言え、展開するストーリー自体は、特段に目新しいものでも、普遍的な面白さを持つものでもなく、本人の言う通りアラン・ポーの『タール博士とフェザー教授の療法』やサドの『悪徳の栄え』をベースとし『早まった埋葬』などのシチュエーションを引用して更なる狂気と頽廃を表現しているだけの、お話としては大して面白いわけではない。

メインの舞台となる精神病院での"正反対の二つの療法"もまた、本来の姿は独裁社会主義国家だったかつてのチェコを、自由が暴走している様は現在のチェコをそれぞれ暗喩し、どちらにも正義も幸福も存在せず、現在と異なる方が良く思えてもそれは幻想に過ぎない、と表現しているのだが、これは政治的メッセージがあからさますぎ、あまり感心は出来ない。

それでもやはり、ワンカットワンカットの画面構成の巧みさは目を見張るものがあり、主人公が覗き見る"狂宴"のシーンなどは特に、人間の根源的欲望におもねる行為を"悪徳"として表現しつつも"憧れ"をも内在させるべく、対称を意図的に用いた配置と画角の連携は、絵画的な完成度を感じさせるものとして大いに評価出来る。

文字通りの"絵画"を再現するシーンにおける、下から頭上の乳首を見上げて発情するくだりの一連の映像構成もまた、頽廃した愚かしさと美しきエロスとの対比が上手く表現されており面白い。

だがやはり、グロテスクさとコミカルさが共存するアニメーション部分の完成度の高さに比べ、ドラマ部の内容は陳腐にすぎ、これは意図的なものだが登場人物の誰にもマトモな魅力が無く、よって感情移入出来ないため、その推移に興味を抱く事が出来ないのは問題だ。

シュヴァンクマイエルのこれまでのアニメーションや実写映画が好きな人なら必見だろうが、そうでない人はある程度の覚悟が必要である。間違っても通常の娯楽作品ではない。グロ映像が苦手な人も注意。自己責任で。



tsubuanco at 16:46│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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