2007年06月18日

ゾディアック 10点(100点満点中)

クラウンの首領
公式サイト

1969年の独立記念日にカリフォルニアで起こった殺人事件を皮切りに、暗号を使った犯行声明と連続殺人で世間を騒がせた、ゾディアックと名乗る犯人の謎を追う、カートゥン作家、ロバート・グレイスミスによって書かれたノンフィクション本『Zodiac Unmasked』を映画化。

これまでも『セブン』『ゲーム』『ファイトクラブ』『パニックルーム』など、映像はカッコいいが内容は底が浅く上滑りに終始する子供騙しの退屈な駄作ばかりを作り続けてきたデヴィッド・フィンチャー監督の最新作にして最低作である。

実在の有名未解決殺人事件を題材とし、当時のアメリカの空気を再現した男のドラマ、というジャンル的な近似から、ブライアン・デ・パルマの『ブラック・ダリア』と並べられたり比較されたりしがちだが、それはデ・パルマにあまりにも失礼すぎるというものだ。

ワーナーとパラマウントの、当時のロゴフィルムをそのまま再現した冒頭(これは日本でも『三丁目の夕日』などでやっているが)から始まり、確かに60〜70年代のアメリカ、カリフォルニアの風景、空気、といった、背景的な再現性は格段に出来がよく、色調に手を加える等の処理をせずとも、自然すぎる程にリアルな映像を作り出せている事は特筆に値する。数千万ドルとも言われる製作費の大半は、このCG、合成処理に費やされたのではないだろうか。

だが、見どころはそれだけである。しかも今回は、原作通りにノンフィクション風の作りを意識した、ケレン味のない映像を多用している事で、これまでのフィンチャー作品の様な映像的面白さはほとんど見当たらない。かろうじて、冒頭の花火シーンの横移動ショットや、同じく序盤の、走る車を真上から追いかけるTVゲーム的なショットなどに、その残滓が見て取れるくらいだ。

この映画、二時間半もの長尺をかけて、一体何をどう扱い、見せたかったのか、が、極めて中途半端で散漫に過ぎる事が何よりの問題。底が浅く上滑りなマイナス点に限っては大いに健在なのだ。

時間や場所をテロップで表示し、最初の事件の発生から現在までを再現ドラマ的な形式で構成された本作だが、事件の推移を見せたいのか、事件を追って人生を狂わされていく人間の情念を描きたいのか、事件にまつわる世間の動向を描きたいのか、どれに対してもツッコミが浅く、定型的で魅力のない描写の羅列でしかない。これで楽しめと言う方に無理がある。

前半に見せられる殺人場面では、緊迫感も何もなく、ただマヌケな人間が殺されるのを傍観させられるだけで、そこには情念も狂気も何ら描かれていない。無常観が狙いではないだろう。

主人公を始めとする、事件を追っていく男達の描写もまた、まず主人公がどういった人なのかさえよくわからないので、魅力を全く感じず感情移入も共感も応援も何も出来ないし、なぜ主人公がそこまでこだわったのかすら全く描かれていない。追う事で崩壊していく人生の描写もパターン的すぎて少しも面白くない。こんな奴が家族に捨てられたところで当然で、少しも同情出来ない。

積極的に事件に関わりすぎて身を持ち崩す記者にしても同様、最初はジャーナリズム魂で取り組んでいた、という事くらいは想像出来るが、その後の転落劇はあまりに陳腐に過ぎ、これまた何ら面白さを感じられない。

刑事に至っては、残業残業でイヤになる程に事件を追っていたのに、後から必死になった素人以下の捜査しかしていなかったと、単に無能なだけで何が面白いのか。まさか警察の無能さを皮肉る狙いではあるまい。時計のマークとか、容疑者の誕生日とか、小学生向けの探偵クイズ並のマヌケな展開には呆れる他ない。暗号が見せられてすぐ一般人に解かれたり、途中であまりに唐突に容疑者が登場したり、と、実際の流れだとしてもブツ切りの羅列では、作品として見せる意志がないと思われても仕方ないだろう。

人間を描きたい割には、事件が何も起こらなかった時期はすっ飛ばして話を進めるというのは本末転倒だ。つまるところ、事件そのものを描きたいのか、人間を描きたかったのかが最後まで中途半端だったのは、こうした構成の中途半端さによるものが大きい。

ノンフィクション風に作り込むため、劇的な展開や演出を意図的に避けているのか、といえばそんな事は全く無く、後半での劇場地下シーンの様に、急にサスペンス的な演出や展開を挟み込んだりと、方向性までもが中途半端でどうしようもない。

最終的に真相がウヤムヤ、という結末は、実際の事件を扱っているのだから当然の帰結であり、その事自体には何ら問題はない、が、そこに至るまでの全てが徹頭徹尾中途半端なのはいただけない。

これは、観客に考えさせるとか、想像の余地を残すといった高等手法ではなく、単に失敗しているだけに過ぎない。何もかも詰め込もうと必死に手を伸ばした挙句にどれも掴み損なった、といったところか。

結局、人間にも、事件にも、ドラマにも、何ら魅力も興味も感じられない、ただただ退屈なだけの二時間半が延々と続く拷問の様な映画である。この事件を元ネタにした映画『ダーティーハリー』や、作りの似た韓国映画『殺人の追憶』らを観ている方が、よほど有意義な時間を過ごせるだろう。

事件そのものに興味があるなら、ネットで調べたり本を読めば充分だ。むしろ、『世界仰天ニュース』などで見せられた、同事件を扱ったドキュメントの方が面白いくらいだ。


tsubuanco at 15:39│Comments(2)TrackBack(19)clip!映画 

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『セブン』は観てるときよりもラストに驚かされた、まさに驚愕!! 『ゲーム』は賛否両論だったけど、わたしは楽しめた派。 そして『ファイトクラブ』の展開にも驚き。映画の面白さが詰まった作品だった。 『パニックルーム』は、う〜ん{/ase/}だったけど、、、、 あ、デビ...
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19. ゾディアック  [ シネクリシェ ]   2007年07月14日 18:17
 デビッド・フィンチャーは『セブン』 『ファイト・クラブ』などの秀作を矢継早にリリースするかたわら、『ゲーム』 『パニック・ルーム』などややもの足りぬ作品も発表しており、かなりムラが感じられます。  

この記事へのコメント

1. Posted by いぬ   2007年06月25日 16:39
全く同感です。
フィンチャーはPV出身だから
短い尺
まあ3分ぐらいだったら
そこそこのモノ(ただし映像のみ)つくるでしょう
映画撮る力量はないと思います。
なにしろ人間の描写が浅すぎる。
これを著名な評論家がこぞってほめてるのが
正直笑えます。自分は5点でいいとおもいます。
2. Posted by つぶあんこ   2007年06月26日 14:05
高評価もですが、本当は自分はつまらなかったと思っているのに、そうした高評価にビビって中庸にとどめているヘタレの方が笑えます。この作品に限らず。

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