2007年06月20日

きみにしか聞こえない 50点(100点満点中)07-170

3万サイクル 音の笛〜♪
公式サイト

乙一による同名ライトノベルを映画化。最近たて続けに主演作が公開されている成海璃子が主演、監督は本作が初の劇場作品となる荻島達也。

孤独な男女が脳内の電話で繋がった事で起こるお話、という、星新一や藤子・F・不二雄を彷彿とさせる非現実的ギミックを用いた物語は乙一の得意とするところだが、挙げた様な先人達と比べると、どうにも冗長な上に考証に著しく欠けるため、今ひとつふたつ及んでいないのが残念。

さて本作、原作そのままではなく、主人公・リョウの相手役となる男性・シンヤ(小出恵介)側の設定が特に、原作と大幅に変えられている事で、単なる会話や電話と脳内電話との差異をより強調し、シンヤが主人公との電話をいかに拠り所としていたか、心情的な面での描写に説得力を持たせ、更にはクライマックスを単なるお涙頂戴のみでなく、基本アイテムである"脳内電話"の設定を上手く活かした展開へと進化させられている事は評価に値する。

彼の障害を表すための描写も、まず最初は説明がないながらもどこかがおかしいと観客に引っかかりを抱かせておいた上で、帰宅して祖母と"対話"する時点になって、二人のやりとりとして自然に観客に理解させる、こうした段取りの踏まえ方は上手い。

また、普通の映画なら手話の内容を字幕で見せたりなどする事が多いが、あえてそれは行わない事で、終盤の感動を盛り上げるための仕掛けに導くなど、改変を本筋に活かす工夫はそこかしこに見られ、変えただけの意味はあると感じさせられる。

一方で、そもそも原作から考証が一切ないギミックではあるが、映画版ではそれに一歩踏み込むかと思わせて、結局はやはり何も無し、という中途半端さを感じる点も存在する。

具体的には序盤に登場する玩具の携帯などだが、これは、まず最初に脳内電話が繋がるまでの過程を簡略化すると同時に、視覚的にわかりやすく観客に認識させるための意図と思われ、その狙いはいいとしても、作中への組み込みがどうにも適当すぎる。

最初だけ登場して出たり消えたりした挙句にその後一切触れられなくなり、つまるところ玩具携帯は脳内電話と関係あるのかないのか、すら不明なままに放置されているのはあまりに乱暴だ。これではただでさえ考証がなく都合優先と見られがちな設定が、より不確かになってしまうだけであり、良くした改変とは言い難い。

もう一人電話が繋がる相手である女性・原田(片瀬那奈)にまつわる描写、展開でも同様。そもそもこの脳内電話の端緒が一体誰にあるのか、が掴めないまま話が進むために、話を展開するため、オチで驚かせるため、が優先されて設定が曖昧なものとされている事を、クリエイターとしての逃げと感じてしまうのだ。

この原田の正体も、下の名前を言わない、大人、ピアノ、時間差、と情報が揃った時点で誰でも気づいてしまうレベルのもので、物語全体を支配する謎ギミックとして最後まで引張るのは無理があるだろう。

映像的な面において、景色のいいロケーションを使い、考証不足を誤摩化すべくファンタジックな方向性の映像を作ろうとしている事は一目瞭然だが、例えば、冒頭のプロローグにて、男女それぞれ離れた場所で展開する物語の、それぞれの舞台を交互に見せていく編集は、その時点では観客は舞台が二つある事を知らないので、今見せられている景色は当然、一つの地域の様々な風景なのだ、と思って観てしまい、作り手の思惑と乖離してしまう結果となる。これには当然だがある程度話が進んだ時点で改めて気づかされる事となり、もっと上手く出来なかったのかと改めて思わされる残念な状態となってしまう。

主人公の家は現代風で常に自然光が入りすぎて家族の顔すらマトモに映らない状態とし、シンヤの家は古い日本家屋で必要以上に明かりを消して常時暗い画面とする、この対比はいいとして、ではそれが物語展開やキャラクター描写に意味を持って活かされていたか、と言えばそんな事はなく、また原田の家の描写には差異を設けない点も、正体がバレやすい一因となっている。

こうした、やりたい事はわかる気がするが上手くいっていない、と感じられる部分が多いのは、やはり新人ならではの先走りや齟齬のせいなのだろうか。

だがそれでも、主演の成海璃子の存在感、表現力は、そうしたマイナス点を凌駕するだけの力を備えており、序盤とラストでは全く違った有りようを見せる彼女の変化を見るだけでも、充分な楽しみどころとなる筈だ。どう考えても片瀬那奈になるとは思えないが。

原作や出演者のファンならずとも、少なくとも観て損したとは思わない程度の出来ではある。だからこそ、もっと入念に作り込めば、もっといい作品となったであろうから残念だ。機会があれば。


蛇足:
主人公の家内部の映像が常に飛ばし気味ボカし気味なせいで、妹役の坂田梨香子の顔すらよく視認出来なかったのは可哀相かも。



tsubuanco at 17:00│Comments(0)TrackBack(11)clip!映画 

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