2007年06月25日

転校生 さよならあなた 92点(100点満点中)

「早乙女愛よ、岩清水弘は、君のためなら死ねる!」
公式サイト

山中恒の児童文学『おれがあいつで あいつがおれで』を尾道を舞台に映画化した、大林宣彦作品『転校生』の再映画化。

横溝正史の『犬神家の一族』を市川崑が再映画化したのと同様、本作も再び大林宣彦自身が監督を務める本作、やはり"原作の再映画化"であるよりも、"旧映画のリメイク"としてのカラーを重視した作りとなっている。

のだが、『犬神家〜』がストーリーそのままであるのに対し、本作は転校生、男女入れ替わり、という基本設定のみそのままに、特に後半にかけてのストーリーが全く変えられている事が、まず大きな特徴だろう。

舞台が長野県に変えられている本作、転校してくるのが男の方であり、前は尾道に住んでいた、とされている事で、旧作ラストシーンで尾道を去った主人公・一夫がやって来たのだ、と錯覚させる狙いがあるのだろうが、これは単に旧作ファンに対するサービスであり、深い意味はないだろう。

旧作においてはあくまでも記号的な描写でしかなかった"性差"を、今回はその根源的な意味までを物語内に内包させ、"男女入れ替わり"というギミックにとって避けて通れない、セックスに関する衝動、感情を生々しく見せている事が、まず大きい。

それは、高橋名人にしか見えない旧作の小林聡美と、今回の、原田知世を少し縦に伸ばした感じの地味美少女、蓮仏美沙子との、主演女優の見た目の差異によるものも多分にあり、あっけらかんと小ぶりの胸を晒していた旧作より、大事なところは死守しているはずの今回の方が、顔だけでなく、見せられない制約ゆえシチュエーションに凝った事により、よりエロティックさが強まっていると断言出来る。

下着の上にパーカー一枚のみ着用で自転車に乗る一美をローアングル気味で撮ったり、一夫の手で一美の胸を直に押さえさせているカットなど、"着エロ"などと安っぽい形容では及ばない"性の匂い"を感じさせる映像には、全く衰えない大林宣彦のメンタリティの強さを感じさせられる事間違いない。

哲学的な論理展開をする一美の彼氏"ヒロシ"を(芸人のヒロシが登場したのは駄洒落か?)、旧作とは異なり重要キャラクターとして配置し、主として彼に"性"および"生死"に関する観念的なセリフを述べさせ、あまつさえキルケゴールの『死に至る病』まで主要キャラクターに読ませてしまう事で、作品テーマの一端をまずわかりやすく明示し、それを物語の展開と有意に絡める事で、説得力や必然性を増すと同時により感情移入を促し、感動へと導く、物語構成、キャラクター設定と配置がよく考えられている。

そして"性の交換"だけでなく"生と死"をストーリーに新しく持ち込む事で、単に入れ替わった面白さだけでなく、肉体と魂が持つ意味、それが入れ替わることで、誰が誰になるのか、誰のものとなるのか、といった、形而上学的なフィールドへと物語を展開させている事が、本作の最大の"再映画化の価値"であろう。

旧作では唐突に感じられた終盤の家出から復元の展開も、今回の様により大きな問題と直面させ、それに入れ替わりを絡めて問題を更に複雑化させる事で、より自然にしかも面白く、旧作を知っていても緊張感を保ったまま最後まで目が離せなくなる、この流れは秀逸の一言。

旧作の「さよならオレ」「さよならわたし」とは敢えて異なる「さよならあなた」の意味が明確となる、オカルティックな次元にさえ踏み込んでしまったラストシーンには身震いさえ覚えてしまう程だ。

この、おそらくは大人の事情で持ち込まれたと思われるファクターを、ただ凡百のお涙頂戴映画に堕してしまう愚行には決して陥らず、それをも貪欲に、作品を面白くする方向に活かしきっている、これまた大林宣彦の作劇に対する大きなコダワリが感じられる部分であり、それを見事に昇華しきった点は、映画鑑賞を常とするものならば、大いに評価できるに違いない。

旧作では基本的に一夫(人格)視点で終始物語が進んでいたが(それは最初と最後が一夫が撮影した8m/m映像である事からも明白)、今回は前半は主に一夫(人格)、後半を主に一美(人格)視点で描写されている。これは後半の展開を考えると必然であり、上述の形而上学的な混乱を観客に対しても混乱として与え、複数の人格に対する観客の同一化を逆に容易にする狙いとして大いに有用である。

終始一貫して傾いたカメラで撮影された映像も同様に、まず最初のタイトル画面で水平と垂直を強調するために長方形をしっかり認識させ、その水平線が傾いて本編の実写映像へとなだれ込む構成からも容易に見て取れる様に、観客の現実世界と作中世界を次元の異なるものとして分離した上で、ノスタルジックな風景やエモーショナルな演出によって世界の境界をなくし、観客を異世界である作中へと導入する、そしてエンドロールでは再び現実へと回帰させる、と、単に画面的な美しさやトリックに終わらない、旧作のモノクロ8m/m映像と同様、映画館で観る映画としての意味を活かした狙いである。

いまだ全く衰えないどころかパワーアップさえしている、大林宣彦のセンスとメンタルを味わい尽くせる秀作。作品としての完成度は旧作より上と言って何ら問題はない。

旧作を絶対的なものとして盲信するタイプの人以外なら、機会があれば是非。


蛇足:
ヒロインの蓮仏美沙子より、関戸優希高木古都の方が美少女度では上なんだろうが、雰囲気、存在感では蓮仏が頭一つ抜けているか。ちょっとだけカメオ出演した高橋かおりの方が可愛かったのは揺るがない事実ではあるが。



tsubuanco at 15:09│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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