2007年06月15日

檸檬のころ 66点(100点満点中)

京都の丸善に置いてある
公式サイト

とある地方校を舞台に、章ごとに焦点を当てる生徒を変えて書き綴られた、豊島ミホの同名連作小説を映画化。

映画化に際して、原作から『ラブソング』および『雪の降る街、春に散る花』の2エピソードを二本柱とし、それが交互に平行して進みながら、ところどころに他エピソードの要素が顔を出す、という構成とされている。

数ある章の中から、この二本をメインに持ってきた着想がまず上手い。『ラブソング』の白田恵(谷村美月)は便所飯一歩手前の独り者、『雪の降る街〜』の秋元加代子(榮倉奈々)は学校一の美少女で常に周りに誰かが群がってる、と、それぞれスクールカーストの最底辺と頂点の両極端に位置する人物であり、それでも両者共に音楽に深く関わり、自分の目的と現実のギャップに苦しみ、恋愛に悩む、対極にいながら内面は同様に描かれる、この対称画が面白い。

そして、同じクラスにいながら両極的存在なため、ほとんど交わらずに物語自体も乖離したままずっと進行していく、全体の構成からまず"交わらない平行線"とし、作品の根底テーマとして人間関係やストーリーにまでそれを反映させる、この狙いも成功しており、だからこそ、最初と最後に少しだけ交わる二人の場面が、より印象深いものとして残るのだ。

クレジット上では榮倉奈々の方が上に位置するが、作中で強く存在感を放ち観客を惹き付けるのは、もう一人のヒロイン、谷村美月の方である。

榮倉と谷村の演技力の差、というのも当然あるにはあるが、それはさして重要ではなく、監督の岩田ユキ、あるいは原作者の段階から美少女ヒロインよりも下層少女の方に強く共感し、思い入れたっぷりに扱っているからだと、作劇や演出から推測される。

それはまず豊島作品自体に常に顕著であり、本作中でも様々なバリエーションとして見せられる、恵の"思い込み"の強さの表現の数々が、鬱々たる感情を抱えて青春時代を過ごしてきた者特有のリアルさが、ほどよくディフォルメされて再現されている、監督の理解の確かさからも、その事はよくわかる。

こうして作り込まれた白田恵というキャラクターを、これまでもふてくされタイプの少女を多くこなしてきた谷村が演じる事で、そのキャラクター性は更に具体性を持って表現され、観客の共感を生み感情移入させ、あるいは見守らさせる、こちらに重点が置かれてしまうのは、ある意味必然と言える。

昼休みの教室で一人、楽しそうにはしゃぐ加代子を含めた生徒達を恨みがましく見渡し、ついに教室を出て一人で食事をとる場面、まずここで恵のネガティブイメージをわかりやすく見せつけ、その後で、イケメン男子生徒から優しくされた事を志摩ちゃんに話す際の浮かれポンチぶりとのギャップによって、キャラクターのインパクトを強め、そのどちらの側にも共感させる、これは原作者や監督の狙いに、谷村が的確な演技で応えうるだけの実力があって、初めて成立するものだ。

そこまでしてキャラクター的には盛り上げておきながら、物語としては決して劇的な盛り上げを行わず、クライマックスである演奏シーンにおいても、過剰な演出は押さえて観客に登場人物の心情をそれぞれに想像させ、そこから感動を生む、と、方向性を最後までブレさせずに通したのが素晴らしい。

と、恵側のドラマはありがちながら充分によく出来たものながら、もうひとつの主軸となる加代子側のドラマが、加代子だけでなく彼女に絡む男達にも視点が移行しているせいもあって、散漫で印象の薄いものに終わってしまったのが残念だ。

志摩ちゃん、席替えデブ、ドラム坊主と、恵側のドラマを彩る印象的なキャラクターに相当する存在が、加代子側には存在しなかった、という事も大きいのだろう。特に間違いなく男子には玩具扱いされ女子にはイジメられまくるだろうと簡単に推測される、志摩ちゃんの天然萌えキャラっぷりは、保健室の主である設定にハマり過ぎだ。

魅力的で面白い部分も多いが、全体的なバランス取りに問題が感じられる本作、出演者のファンでなくとも、青春映画好きなら観て損は無いレベルではある。機会があれば。


余談:
体型的な問題で仕方無いとは言え、それにしても榮倉奈々に制服は全く似合わない。なんだか逆に可哀相だ。



tsubuanco at 17:52│Comments(1)TrackBack(6)clip!映画 

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高校時代といえば「このままずっと高校生でいたい」と思えるくらい楽しかったはずですが、こと“甘酸っぱい想い出”とゆーコトになれば‥‥‥ 記憶喪失っぽいです。 記憶が欠落しているに違いありませんが“人に興味がなかった”よーな気もします。 こ...
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この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2007年12月22日 00:57
おじさんは、「便所飯」という言葉がわかんなかったので、wikで調べたら、とってもおもしろい解説に出会いましたよ。

http://b.hatena.ne.jp/entry/3014097

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