2007年06月14日

絶対の愛 91点(100点満点中)

本当は目を縦にした時から嫌いだったの!
公式サイト

韓国の映画監督としては珍しく、ハズレのない傑作を撮り続ける天才、キム・ギドク最新作。今回も例によって、男女間における愛という名の欲望と執着を、戯画的な寓話として独自の作風で描いている。

現代の韓国を舞台にしながら非現実的で特殊なシチュエーションにてテーマを発露した前作『弓』から一転し、ごく普通の韓国の都会を舞台に、ごく普通ではない若き男女の恋愛劇が展開される今回、もちろんタダの恋愛劇で済むはずがない。

前作では可能な限り言葉が削られていたが、今回のヒロインはウザイほどに饒舌すぎるキャラクターとして設定され、最初から強烈なインパクトを与えられる。

当然このウザさは狙いであり、観客はまずこの理解不可能なヒロインに対し嫌悪感を覚えながら、話が進み構図が逆転していくにつれ、いつの間にか同じ人物に対し共感し、感情移入している事に気づかされる。

これは男の側も同様で、当初は男視点でヒロインを見る事で、男の側に共感、同情していたはずが、いつの間にやらヒロイン側の視点になってしまっている、と、展開によってどんどん印象を操作されるのも、キム・ギドク作品の毎度の仕掛けである。

全体的な構成としても、最初と最後がつながる円環構造において、最後に意味が判明すると同時に、その印象が最初とは全く異なったものとなって突きつけられる事となる。

その超常的な物語構成もまた、最初に整形手術の記録映像を生々しく見せ、"リアル"を観客に提示して、現実的な物語なのだとまず認識させておく事で、超常的な展開により強い驚きを与えている。何から何まで仕掛けが徹底しているのが素晴らしい。

そうしたストーリーを、観客の興味を惹きつけて楽しませ続けるべく計算しつくされた、映像、カット割りの秀逸さもこれまでと変わらず。

最もそれがわかりやすいのは、景色からして特殊である公園での映像であろう。

整形手術が題材のひとつとなっている本作において、人体、ビジュアルが、視覚的に重要な素材であり、だからこそ人体を様々に歪めたオブジェが立ち並ぶ公園を、舞台のひとつとしたのだとは、説明するまでもない。

単純な見た目だけでも絵になるそのオブジェを、そのまま映すのではなく、空間と人物を絡め、更に別のオブジェとの配置関係をも利用して、その視覚効果を何倍にも高める計算が緻密に施されており、目を奪われる。

もちろん公園の場面だけでなく、普通の街中の映像においても、常に空間、距離感、立体感、バランスを計算し、どのカットを切り取ってもそのままポスターとして使えてしまう様な、意図と狙いが最大限に活かされている絶妙な画作りを、全編通して堪能出来、映画好きなら画面から目を離すことは出来ないはずだ。地下鉄構内での追っかけ合いなどは白眉。

整形手術によって"自分が自分でなくなる"様を、監督の共通テーマである愛欲、執着を用いて"自分に嫉妬する"人間として描写し、より観念的なフィールドへと観客を誘導、超常的な物語にそのまま観客も移行させる。その狙いをより的確にサポートすべく、主人公二人の"顔"を使った表現の数々もまた、いちいち工夫されたものだ。

シーツを顔に巻きつける様を、前半と後半のそれぞれに、男女双方に同じ事を行わせ、構図の逆転を明確に表現したり、後半に強烈なインパクトを与えるシーンとなる"お面"を用いた映像、演出が見られるくだりでは、微妙にバランスの崩れたプロポーションと、固定されて動かない表情によって、外見と内面の乖離あるいは同一を表現すると共に、視覚的な不自然さによって観客の背筋を凍らせる、と、全ての感情を作り手の狙い通りに操作されてしまう事となる。

ストーリー、キャラクター、映像、演技、などは、ほぼ完璧と言っていい出来ながら、少し気になるのはダイアローグの問題である。

ヒロインは饒舌なキャラクターである事は先述の通りだが、その饒舌さが用いられる部分が、特に中盤の心理劇において、話すべき時と話さなくていい時のバランスが悪く、「そこまで言わなくてもわかるから、黙って表情や行動で見せて欲しいのに」と感じる局面がいくつか存在し、感情移入に水を差されがちとなってしまうのが残念に尽きる。

だがそれでも、キム・ギドクの変わらぬ非凡さによって至福の時間を過ごさせてくれる事は間違いなく、映画好きならば間違いなく必見の一本である。映像的な作りこみを堪能するためにも、劇場での鑑賞を推奨。機会があれば是非。



tsubuanco at 00:10│Comments(2)TrackBack(10)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 真・映画日記『絶対の愛』  [            ]   2007年07月07日 22:40
3月10日(土) (前の日からのつづき) 朝6時過ぎに居酒屋「村さ来」を出て、解散。 少し寝たいので「ロサ会館」4階にあるマンガ喫茶へ。 フラットシートの席を取り、寝る。 8時半に重い体を起こし、 店を出る。 JR山手線から渋谷へ。 9時15分に「ユーロス...
2. 絶対の愛(3/17公開)  [ 第八芸術鑑賞日記 ]   2007年07月08日 09:42
 4/1、ユーロスペースにて鑑賞。7.5点。  目下のところキム・ギドクの最新作である。『グエムル』が韓国内で大ヒットした折の論争の過程で彼からは「引退」発言が飛び出したが、まだまだ観たい監督である。これまでに作られたどの作品も、俺にはまだ完成に達していないよう...
3. 【2007-94】絶対の愛(TIME)  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年07月08日 23:40
3 人気ブログランキングの順位は? あり得ないほどに激しい究極の愛の物語 Super Ki-DUK Love Story (スーパー・キドク・ラブストーリー) 時とともに薄れゆく愛への 劇薬の処方 奇想か? 愛の深淵か。 「整形返し」? 永遠に、あなたと愛しあいたかっ...
4. 絶対の愛  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2007年07月10日 01:57
キドク映画は弓も見逃したので、初スクリーン体験になります。 それにしても巷で言われるメロドラマ主体の韓流と違って、やっぱり面白いわ。
5. mini review 07035「絶対の愛」★★★★★★★★☆☆  [ サーカスな日々 ]   2007年07月23日 13:23
カテゴリ : ラブ・ストーリー 製作年 : 2006年 製作国 : 韓国=日本 時間 : 98分 公開日 : 2007-03-10〜 監督 : キム・ギドク 出演 : ソン・ヒョナ ハ・ジョンウ パク・チヨン ソ・ヨンファ 交際を始めて2年になる男性ジウを深く愛しながらも...
6. Super KI-DUK Love Story 絶対の愛  [ 銅版画制作の日々 ]   2007年07月25日 12:42
究極の愛とは???? 7月1日、京都みなみ会館にて鑑賞。昨年、キム・キドクの映画「弓」を鑑賞して、彼の作品に魅了され・・・・・。新作「絶対の愛」はぜひ鑑賞したいと思っていた。あまりにも恋人を愛するがゆえ、心が離れはしないか?という不安から、とった行為は何...
7. 絶対の愛  [ シネマ de ぽん! ]   2007年08月20日 12:31
絶対の愛公開中ストーリー ☆☆☆映画の作り方☆☆☆☆総合評価  ☆☆☆完成度 
8. 映画『絶対の愛』  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年05月14日 01:20
原題:Time 韓国での美容整形手術をテーマにした映画と言えば全身整形の「カンナさん大成功です!」、「絶対の愛」では顔だけながら、理解を超えた深すぎる愛の形・・ セヒ(パク・チヨン)とジウ(ハ・ジョンウ)は幸せな恋人同士ながら、付き合いはじめて2年も...
9. 絶対の愛  [ しぇんて的風来坊ブログ ]   2008年08月17日 23:04
名古屋映画館の良心、名古屋シネマテークに表題のキム・ギドク監督作品を観に行きました。 異端の作家うんぬん言われてますが、これまで観た作品はどれも個人的に好きなもので、この新作は楽しみにしていました。 狂気と愛、贖罪、痛い肉体と痛いココロ・・・・そういった...
10. 絶対の愛  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2009年03月05日 21:02
 コチラの「絶対の愛」は、韓国の鬼才キム・ギドク監督が、美容整形が一般化している国として知られる韓国の社会事情を背景に、壮絶な男女の運命を描いたラブ・ストーリーです。キム・ギドク監督の13作目の作品。あたしが観るのはまだ7作目なのだけど、う〜ん最新作の「悲...

この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2007年07月25日 00:34
直感的な、空間造形と色彩感覚は、ギドク独自のものですね。韓国に根ざしながら、インターナショナルです。
2. Posted by つぶあんこ   2007年07月25日 17:18
というか韓国ではあまり受けてないみたいですよね。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments