2007年06月28日

パラダイス・ナウ 89点(100点満点中)

超偉人伝説はナイトスクープからパクりすぎ
公式サイト

パレスチナ人監督とイスラエル人プロデューサーの主導により、欧州各国の協力の元製作された、パレスチナ人テロリストによるテルアビブでの自爆テロを題材に、それを行うテロリスト本人を主人公として描いた映画。

主人公サイードと、その親友ハーレドの二人の、それぞれの動向と心情を、それぞれに寄り添うかたちで描写している本作、無駄な台詞を極力抑え、映像、演出の表現にて彼らの内面を伝える事で、終始客観視点で見せられながら、観客の主観に強く訴えかけ、つかず離れずの状態で推移を見守らせられる事となる、狙い済まされた距離感が絶妙。

序盤に客と揉めるシーンにて、長回しの固定ショットで奥に主人公達、手前に沸き立つコーヒーを配置し、ハーレドがキレた瞬間にあわせてコーヒーを吹きこぼれさせて、人物の言葉や動きではなく抽象的にその感情を表現し、今度は後半においてサイードの動揺を表現するために同じくコーヒーを用いるなど、その場限りに終わらず同じ事物を利用して表現を重ねて観客の理解をより深める、こうした工夫がそこかしこに見て取れる。

サイードとヒロインの関係性を、内面的にも形態的にも表すために、車のカギや時計、あるいは殉教者と裏切者のビデオなど、小道具を交えながら展開させる手法も同様。

正反対に評価される父親を持ち、自身はそれと正反対の指針で生きる、サイードとヒロインの対称構図は当然意図されたもので、そのアイロニカルなドラマ展開は悲壮感をより盛り立てているが、サイードとハーレドの関係性と推移においても同じく対称は用いられており、コーヒーのシーンなどで最初に提示されたキャラクターとその後の展開、そこから観客が推測する両者の内面を上手く誘導し、終盤にそれを逆転させてやるせない悲劇へと繋げていく、こうした"差異"、"ギャップ"を利用して物語を転がしていく設定、構成は秀逸。

それは当然ながら、パレスチナとイスラエルの対立構造や、ともに被害者と加害者の両側面を併せ持っている性質など、作品世界の舞台設定のみならず現実における構造をそのまま個人単位に象徴させたものであり、何事も正義や悪の二元論で括れはしないという根源的テーマを、徹底して主張するために張り巡らされた仕掛けである事は間違いない。

声明ビデオの撮影シーンの緊張と緩和のギャップ、そこから生まれる微妙な空気感や、サイードが奔走するナブルスの街並と、終盤に見せられるテルアビブの街並と、そこに歩く人々との、圧倒的な差異、それに圧倒される者と決意を固める者、と、やはり言葉の説明を用いず、目に映るものによって全ての意味を示唆し、意図を理解させる、演出、演技、映像の完成度は特段に高い。(北野武の映画を意識している様に見受けられる表現も多々)

終盤の「帰る、帰らない」の一連の流れでは、そられが一気に集約され、口で言っている事と心に決めている事が、同じ、あるいは異なって、"結果"へとなだれ込む、いちいちに意外、皮肉なその進展に、観客の感情までも二人の間を揺れ動いて留まらない様に誘導されてしまう事となる。

作戦の段取りや人物の過去など、どうしても言葉による説明が必要な段においては、それを語らせるのに最適な状況、人物をしっかりと設定する事で、必然性と説得力を与え、わざとらしい説明臭さを抑えるだけでなく、ドラマを盛り上げる方向へと利用している、脚本段階から考え尽くされている、あらゆる構成、仕掛けが素晴らしい。

中盤のすれ違い劇が恣意的すぎるとか、時間差テロを行うのなら、同じ服を着ているのはマズいのではないか、など、気になる点もあるのだが、全体的な完成度はかなり高く、大きなマイナス点とはならない筈だ。

イスラエルとパレスチナの関係を、一般常識程度に知っていれば問題なく理解出来るレベルに作られている事、特定思想の持ち主による独りよがりなオナニー的自己陶酔の押しつけではない、広く大衆に観てもらう映画であるとの意志がしっかりと感じ取れる作品となっている事も、本作の評価を高める大きな要因となっているだろう。

映画好きなら絶対に観て損はしない良作。機会があれば是非。



tsubuanco at 17:08│Comments(1)TrackBack(2)clip!映画 

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パレスチナゲリラの自爆テロを実行する青年達の物語、「パラダイス・ナウ」(原題Pa
2. mini review 08289「パラダイス・ナウ」★★★★★★☆☆☆☆  [ サーカスな日々 ]   2009年02月12日 17:26
イスラエル占領下の町ナブルスを舞台に、自爆攻撃に向かう二人のパレスチナ人青年の苦悩と葛藤(かっとう)を描いた問題作。第78回アカデミー賞では、自爆攻撃の犠牲者遺族が外国語映画部門ノミネートから外すよう抗議があったなど、世界各国で上映され論争を引き起こした。...

この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2009年02月17日 17:00
僕も、良作だと思いました。
「自爆」と言う構造はなんなのか、決して宗教的なヒロイズムだけじゃないんだな、と改めて考えさせられます。

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