2007年07月21日

ピアノの森 62点(100点満点中)07-200

上戸彩がスラングを叫んで神木隆之介と共演する映画
公式サイト

青年向け漫画誌『週刊モーニング』に連載中の、一色まこと原作の同名漫画をアニメ映画化。原作における"小学生編"のエピソード、1〜6巻までのストーリーで構成されている。

監督は同原作者の『花田少年史』のTVアニメシリーズも担当した小島正幸、製作スタジオは同監督がメインフィールドとしているマッドハウス、と、作画や演出などに対しては観る前から心配しないで済む布陣なのがありがたい。

二人の天才ピアニストの半生を描く大河ストーリー漫画を、一部とは言え短い時間の映画にまとめるにおいて、エピソードやキャラクターの取捨選択再構成を如何に上手くこなすか、が、この種の作品においてはまず重要となる問題である。

そして、原作が青年誌に掲載されている一般向け漫画だが、興行的には夏休みの家族向けアニメ映画であり、当然ながら、主人公・海の出自や生活環境に関するネガティブな面は、かなりソフトに抑えられているのが、まず最初に気づく原作との相違点だろう。

ガキ大将が海に対し投げかける罵倒や、海が夜の酒場で酔客から受ける乱暴など、性に関する表現がことごとくカットされているため、作品の大前提となる、海と修平、二人の主人公の究極の対称形までもが緩いものとなってしまっているのは、原作の面白さを幾分か損なってしまっており、観客層を広げるためとはいえ残念に感じる。

ために、二人のキャラクター設定の説明のために物語が進められる映画前半部において特に、各人物が抱える負の感情、負の特性がしっかりと描かれる事がなく、ただ類型的なキャラによってお約束通りに話が進んでいるだけとしか感じられないのが辛い。

それ以上に大切な筈の、タイトルとなっている"森のピアノ"と海の関係においても、説明や情報が不足しているのでは、と思わされてしまうのは問題だ。何より、どうして海だけが森のピアノを"普通に"演奏出来るのか、普通のピアノを弾く事との違いは具体的になんなのか、といった疑問に対し、観客の納得が行く様な回答がなされないままに海のピアノが上達していってしまうのは乱暴だ。これでは師の教えと自身の才能の融合であるべきラストの演奏にまで、明確なビジョンが得られないではないか。

が、修平が海に対して抱いている、憧憬と嫉妬が入り交じった感情描写に関しては、省略されながらもポイントは押さえて配置されている事で、どちらかといえば観客の感情移入が容易である修平に観客を共感させ、"超越者"である海の凄さを作中視点で観客に体感させる、そうした狙いは原作の意図通りに行われており、省略のためにどちらか一方のみに視点を限定してしまうといった措置が取られなかった事はありがたい。

コンクール審査員の描写をスッパリとカットするなどは、今回限りで話をまとめるには上手い省略である。審査結果も理由も、敢えて説明せずとも観客には理解できる
筈だ。

また、映像化、映画化に際して最も重要とされるのは、まず漫画では不可能な音楽の音響的表現と、それによって生まれる感動をさらに増幅すべく煽り立てる、視覚的表現の相乗効果である事は間違いない。これが失敗したら作った意味すらないのだから。

小学生でも知っているメジャーな曲目を、一流のピアニストに演奏させる事、それを劇場の音響設備で鑑賞出来る事、によって、聴覚面での楽しみは充分に得られる筈、その音を載せる映像は、極めて定番でストレートな画角、カット割りによって構成され、これは当然、曲よりも前に出てしまわない様に配慮された結果である事は言うまでもない。誉子の脳内イメージ映像が陳腐なものに留められているのも意図的だろう。

そうした仕掛けによって、後半からのコンクール場面は盛り上がりを見せ、観客はそれなりの満足を得て鑑賞を終える事が出来る筈である。修平の来訪から映画を始め、去って終わる構成も、定番ながら気持ちのいいまとまりではある。

いろいろと不安材料に感じられた"タレント声優"陣だが、海役の上戸彩は、かつて金八で"性同一障害の少女"を演じた経験からか、ガラの悪い少年の演技にほぼ違和感は無く、予想を大きく上回る好演と評価出来る。

が、一方で、『インストール』コンビそのままに上戸と共演する、修平役の神木隆之介はかなりいただけない。明らかに変声期を過ぎた声質がまず小学生役にはそぐわず(周りが女性声優ばかりだから余計に)、オマケに棒読みがヒドくガッカリである。『のび太の恐竜2006』と言い、アニメ仕事には恵まれてない様だ。

誉子役の福田麻由子、怜子役の池脇千鶴なども少し下手に感じる部分もあったが、出番が少ないので気にしている猶予が与えられず、逃げ切った感がある。

阿字野を演じた雨上がり宮迫は、これまでもドラマやアニメなどで"演技"が出来る事は周知されており何の不安も無かったが、今回も全く問題なく与えられた役をこなしており、芸の確かさを証明している。

プロ声優である筈の松本梨香が演じたガキ大将役に違和感を大きく覚えてしまうのは、これはキャスティングの失敗であり彼女を責めるのはお門違いだろう。むしろ神木と入れ替えればスッキリする筈だ。

と、なんだかんだ言っても、出来のいい原作の良さを、上から与えられた環境の中で可能な限り殺さずに再現すべく、製作現場からの良心が感じられる作品である事は間違いなく、この映画を観て原作に興味を持つ人が増えれば、原作ファンとしても嬉しい限りだろう。興味があれば。

というか原作の進行ペースが遅いのを何とかして下さい。



tsubuanco at 15:29│Comments(2)TrackBack(17)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 咲太郎   2007年07月25日 22:37
隔週連載ですものねえ。

神木くんと松本さんの入れ替えか!
そうか、それはいい考えです。
今からでも・・・(笑)!
2. Posted by つぶあんこ   2007年07月26日 17:08
ただ松本梨香でもワンパクすぎて、修平にはどうかとも思いますけどね。

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