2007年07月29日

河童のクゥと夏休み 87点(100点満点中)

遠い海から来たCoo
公式サイト

木暮正夫の児童文学『かっぱ大さわぎ』を着想に、藤子アニメおよび『クレヨンしんちゃん』の監督で知られる原恵一によって作られた、家族向けアニメ映画。

原恵一と言えば、クレしん映画『オトナ帝国の逆襲』『戦国大合戦』にて、子供よりむしろ子供を連れてきた親を泣かせてしまったクリエイターとして名高いが、本作も同様、子供が観ても楽しめるが、やはり大人が観てこそその真価を充分に味わい感動できる一品となっている。

原作から用いられている要素は、河童が生き埋めで干涸びていた事とメディアに採り上げられて社会現象になってしまう事くらいで、物語そのものは原恵一によって大幅にアレンジされている。

が、その骨格自体は、現代社会に存在してはいけない筈の異端者と少年との出会い、その関係を壊す汚い大人、涙の別れ、と、藤子不二雄の『のび太の恐竜』を例に挙げるまでもなく定番中の定番ストーリーであり、また主人公の家族構成を見ると、クレしんの野原家と全く同じである。

これらは明らかに意図的なもので、監督の過去に対する自負と、それを踏まえた上でのオリジナル自作とする、決して安全パイではなくむしろ挑戦的な意志が感じられるものだ。定番だからこそ、本当に面白くするのは難しいのだから。

そうした姿勢は、本作のキャラクターデザインが、これまでの児童漫画的なディフォルメキャラクターではなく、目が小さく皺まで書かれるリアル寄りなものであったり、メイン人物を演じる声優陣が、いわゆるアニメ声優をことごとく外している事などからも容易に読み取る事が出来る。これらの措置は、子供向けあるいはオタク向けと表層的な面から取られる事を避ける狙いもあるのだろう。

非現実的な現象を描く物語ながら、そこで見せられる人間の心理は基本的にリアルを追求したものであり、その事をより観客に体感させるための、漫画っぽくない絵、自然な声質、大仰でない演技、によって、観客の理解、共感を得る事には成功している。

まず前半にて主人公一家を中心に、人間のポジティブな面に重点を置いて各人物の言動をリアルに描写する事で、観客を世界に導入させ、更に大人の観客は親の視点で物語を追うと同時に子供時代の思い出も想起させられ、オマケに空想上の存在であるカッパにも感情移入すると、あらゆる視点でリアルさと楽しさを得られる様になされている、人物配置、描写、構成は見事。

面倒を嫌がる母親、思わずワクワクしてしまう父親、憎たらしい妹と、誰にでも思い当たる、普遍的な家族の有りようを、その特徴をディフォルメしてリアルさを強調し、観客に共感させる手法は上手く、これはやはり、あえてクレしんと同じ家族構成にしただけの事はあると納得させられる。

特に妹のキャラクター設定、描写は素晴らしく、基本的に動画クオリティはあまり高くはないものの、画面の端々でいちいち細かい演技をさせていたり、アップになれば全くパターン化しない様々な表情で感情をよりわかりやすくリアルに表現し、その"憎たらしさ"を微笑ましく見させ、最終的には感動まで持ち込む、声の演技と併せて特段に秀逸なキャラクターとして強く印象に残る。

そうした楽しさが一転してネガティブな方向へと突き進んでいく後半部もまた、流れとしては定番ではあるが、想像力の欠如した"愚衆"の愚かしさ、悪質さを極端にディフォルメしつつ、実際に現実の報道などでも見られるリアルさも確かに表現し、「こんなバカにはなりたくない」とつくづく思わされる展開は、作り手の狙い通りに不快にさせられてしまうものだ。

これが藤子不二雄作品なら、そうした暴走を正論で諌めて引き留める"人格者"が登場し、受け手側を安心させるのだが、本作ではあえてそうした存在を登場させず(一応いるのだが人間とコミュニケーションが取れないので無力)、主人公一家においてまでも、その"愚かしさ"を露呈させていき、最悪の事態を引き起こさせてしまう、この意地の悪い展開こそ、本作がドラえもんでもクレしんでもなくオリジナルとして作られた最大の意義と言えるだろう。

最終的な救いの手が人間によるものではないという展開にも、その事は顕著に現われているが、それでもなお、「人間の友達ができた」とクゥに語らせ、"超越した存在"もそれを受け入れる、と、最後の最後にやっとエクスキューズを持たせられる事で、その感動は更に高められる事となり、これまた見事に作り手の狙いに嵌められてしまっているのが悔しい。

オッサンの死 → カラス爆発のくだりまでをネガティブの極地とし、そこまで来てしまったらと観客のほとんどが想像してしまう、よりネガティブで救いのない事態へと物語を展開させなかったのは、これは作り手の良心なのか、あるいは躊躇いなのかは不明だが、本作においてはそこで留めて正解だった筈だ。父河童を殺した侍にも、オッサンを殺した青年にも、何の報いも与えられない事も、過剰な物語性や善悪の二元論を安易に用いない意図があるのだろうし、だからこそ観客のやるせない気持ちは高められるのだ。

人間の表と裏、陰と陽のギャップと、それによって起こる悲劇をあらゆるシチュエーション、キャラクターの背景に用意して、作品の方向性を統一すると同時に、リアルな人間描写としている、シニカルで突き放した展開、動向に、いちいち心を捉えられてしまうのも、昨今の家族向けアニメにはあまり見られない特徴だろう。

イジメを始めとする無神経な悪意、昨日までの友達が加害者へと逆転する悲劇、あるいはその逆など、各々の人間関係、エピソードに相似した構図を用い、それが特別な事ではなく普遍的なものと示す事で、共感を生みつつ救われなさも加速させ、それが集約される"オッサンの最期の後悔"には、単なる悲しさだけではない感情に襲われ涙が止まらなくなる筈だ。

そうしたドラマを、泣かせよう感動させようと殊更に観客を煽る様な演出、演技は用いず、最後まで抑えたそれで通し、観客自身の心の内にあるものから感動を呼び起こさせるのも、先述の通りキャラクターデザインやキャスティングの狙いとして想定されているものである。

劇場映画としてはアニメーション映像の質に少し問題があり、また、東京タワーに登ってしまう展開が『オトナ帝国』そのまんますぎて醒めるなど、少し恣意的に感じられる展開、演出がいくつか気になりはするが、基本的には共感、理解、あるいは逆に不理解を生んで物語を楽しませる、周到な狙いはほぼ成功しており、構想20年の謳い文句は伊達ではないと感心させられる事しきりだ。

今後長きにわたって観続けられるべき、アニメーション映画の傑作と断言出来る本作、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』と冠されては引いてしまう大人にも、いや大人にこそが観るべき作品である。子供には時間が長過ぎて難しいかもしれない。機会があれば是非。



tsubuanco at 17:35│Comments(18)TrackBack(17)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by Qta   2007年07月31日 08:33
すばらしい映画さまだ
長尺すぎるのと、資金
おいら、これだけが問題だと思う

そうそう、うちらの劇場
これ観にいったら「きゅうりのキューちゃん」って漬物もらっただ
おいしかっただ
みんなももらったのけ?
2. Posted by つぶあんこ   2007年07月31日 17:42
こちらでもキューちゃんいただきましたが、裏の原材料表示で「中国産」を見てしまったので、食べようかどうか悩んでます。
3. Posted by Qta   2007年07月31日 18:07
うちらもそれは話題になって、気になったけど
クゥに思いを馳せつつつい手が出てしまっだ
きっとクゥみてなかったらただの漬物なんだろうと想う
4. Posted by つぶあんこ   2007年08月01日 17:44
本編中に漬け物を食べるシーンでもあれば良かったんでしょうけどね。
5. Posted by ゴルゴ33   2007年08月03日 11:04
枕にニヤリとしました。懐かしい。
6. Posted by kame   2007年08月03日 11:14
素晴らしい映画でした。
平日真昼間で満席、しかも半分以上子供という状態で、さぞ騒がしくなるだろうと覚悟して見ていましたが、どの子供も感心するくらい大人しく(もちろん笑うところは笑っていましたが)、集中して見ているのでビックリしました。良い物は子供にもちゃんと伝わるんですね。やっぱり手を抜いちゃいけません。
ところでキューちゃんの原材料は中国産だったんですか。それは食べるかどうか迷うところですね・・・・(でも多分食べるけど)
7. Posted by Qta   2007年08月04日 02:01
うんめぇ〜
ってほどではなかっです(予断、失礼…
8. Posted by つぶあんこ   2007年08月07日 18:00
満席というのが信じられませんが(笑)、子供にも受けてる様でよかったです。
9. Posted by Qta   2007年08月27日 23:08
ついに地元での上映は終ってしまった。
この夏最後の河童を堪能してきた。
結局四回も観に行ってしまった。
昨今これほどリピートしてもまた観たいと思う作品は思いつかない、なんかえらくはまってしまった

驚いたことに最終回は75席と小さなスクリーンであったが、なんと満席だった事だ、夏休み終盤ということも有るだろうが、口コミで面白さが伝わってるならうれしい限りだ
10. Posted by つぶあんこ   2007年08月28日 12:37
最終日に満員という事態は、地味な話題作に起こるみたいですね。
11. Posted by miyukichi   2007年09月03日 21:15
 私もこれ、大人こそが観るべきだと思いました。
 とてもいい映画でした。
 DVD買いたいくらいです^^
12. Posted by つぶあんこ   2007年09月04日 17:43
でもオトナは観ないんですよねえ。
13. Posted by 涙目   2007年12月10日 18:18
どうしてこんなに涙が出るのか、ワロタ。
キジムナーみたいに生きたいものです。
14. Posted by つぶあんこ   2007年12月10日 19:15
ゴリのヘタウマな演技が絶妙でしたね。
15. Posted by BAKABON   2008年02月09日 17:59
5 観てきました。良作!!
人間の絵柄(昔日テレでやってた「週間ストーリーランドのよう)がちょっと苦手かな、と思っていたのですがすぐ慣れました。
エピソードの充実度がすごい!これでも物凄く削ったのだろうな〜きっと。

泣きに泣いて泣きまくりました。
2時間半だったけど全く飽きなかったな。
要所要所の笑い所も子供たちにしっかりうけていたし、脇役も一人一人すごいキャラ立ってたし、声優(本業でない人含む)もいい仕事してた

次いつ観に行こうかを考えています(笑)
16. Posted by つぶあんこ   2008年02月11日 17:57
深夜アニメみたいな萌え絵で描かれても一般客が来ないでしょうから、リアルよりの絵柄は正解かと。
17. Posted by BAKABON   2008年02月12日 02:49
5 ついに3回観た
うんめぇ〜!ありがとうごぜえやした!

後ろで観ていた子供(4歳くらい?)が
東京タワーのくだりで声出して泣いてました(電車が出てくると「西武線だ!」と叫ぶような子だったのだけど)。
個人的にはクゥが東京タワーで「自殺」をほのめかしたのが結構衝撃。

子供いっぱい来てたけど、ぐずって泣き出したり駄々こねたりする子、一人も居ませんでした。

自分が子供の時に観ても絶対嵌っていただろう映画だろうな

DVD発売が5月下旬とは、遅いのではないかなあ
今自分にできることはレビュー書きまくっていろんな所で喧伝することかな
18. Posted by Qta   2008年09月27日 09:04
5 今年もクゥと過ごした夏が終わってしまった。
来年の本作を楽しみにしつつDVDケースを閉じた。

出来ることならもう一度スクリーンで出会いたいものだ・・・

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