2007年08月07日

怪談 78点(100点満点中)

沖縄怪談 逆吊り幽霊・支那怪談 死棺破り
公式サイト

落語家であり講釈師でもある三遊亭円朝による怪談噺『真景累ヶ淵』を、『リング』など新時代の和製ホラー映画の旗手である中田秀夫監督により映画化

主演に歌舞伎俳優の尾上菊之助を選ぶなど、鶴屋南北による歌舞伎としても古くから上演される事の多い本原作の大元を重視しつつ、タイトルの通り日本の怪談映画の復活および新生を意図して製作されたものと思われる。

かつて中川信夫などによって、70年代頃まで量産され続けていた怪談映画は、原作の有る無しに関わらず多くが時代劇である事は周知だが、これは筋立ての荒唐無稽さをオブラートに包む役割と、怪談に欠かせない"闇"を自然な形で作り出すのに有利であるという狙いもあり、それが上手く活用され、非現実とリアルの境界を曖昧にさせる映像、作劇を作り出していた。

これまでの中田秀夫の作品は、現代劇において"闇"の存在する場所を舞台に選び、そこから発生する生理的な恐怖、嫌悪を巧みに引き出して観客を震え上がらせてきたのだが、その彼が古典の定番ストーリーを原作として与えられ、時代劇を作るとなれば、これは様々に期待されて当然である。

のだが、その期待が間違った方向、例えば『リング』の様な圧倒的な恐さを求めて本作の鑑賞に臨んでしまい、実際とのギャップにガッカリする、という現象が起きてしまいがちとなるのは、ネームバリューが負の方向に進んでしまった不幸ではあるが、タイトルや原作を知っていれば、そこまで誤った期待は抱かない筈だ。

古典的な怪談物語は、まず無念を抱いて死んでいく人物の、そこに至るまでの幸福から不幸のどん底へ叩き落とされる悲劇と苦悩をしっかり描き、それが化けて出て恨みを果たす展開に至る事で、ある種の勧善懲悪的な筋書きを見せるものがいくつかあり、本作もそれに類したものと考えて問題ない。

これは、無関係な呪いに襲われる理不尽な恐怖を描いた、『女優霊』『リング』などとは全く異なるものであり、同じ方向性を望む方が間違っているのだ。

そして、そうしたパターンの怪談においては、一面的な恐怖よりも、その犠牲となる人物の悲哀こそがまず前面に押し出され、観客はむしろそちらの側に感情移入し、ために死者が化けて出て恨みを晴らす場面などには、恐さよりむしろカタルシスが強くなってしまいがちとなる。

その構造からくる歪みを上手く制御し、恐怖と悲哀のバランスを上手く取る事が出来た作品が、傑作と呼ばれる怪談映画として評価されるものとなるのだ。

そこで見せられる恐怖とは、単に怖い化け物が出てギャーッと叫ぶといった安易なものでは当然なく、前フリとして描かれたバックボーンを背負ってタイミングよく出現し主人公を追いつめる、その持っていき方こそが重要な事は言うまでもない。

もちろん即物的な驚愕、恐怖による演出も、使いどころさえ決まれば大いに有効な手法である事も確かで、怪談映画の定番演出、まず「来るか、来るか?」とじわじわ期待させておいて案の定ドン!と音響演出で驚かせ、観客の心的防御をひるませた上でおぞましい現象を視覚的に見せ、そのおぞましさを数倍に感じさせる、このやり口は中田秀夫も得意とするところであり、過去のホラー作品でも要所で用いられている。

今回も、駕篭の中でいきなり手を掴まれる描写など、これは『リング』で井戸の底でいきなり手を掴まれた描写と全く同一の手法で行われており、中田秀夫らしさを感じると共に使いどころの上手さに唸らされる。

そうしたショッカー的演出、および顔、表情を用いた描写もまた中田秀夫の本領であり、本作においても、死体となった黒木瞳の顔を見つめさせられるカットや、泣かない赤ん坊の顔など、人間の生理的な嫌悪感を刺激して居心地の悪さを感じさせる演出は秀逸だ。

だが、これはやはり怪談映画である、という路線をあくまでも踏襲している本作において、『リング』や『女優霊』などの様な"逃げ場のない圧倒的な恐怖"は描かれておらず、あくまでも時代劇としての様式、情緒を重視した作風となっているのは、これは当然ながら狙い通りのものであり、それを指して「思ったより恐くない」などという評は的外れにすぎる。

一方、愛憎劇としてのストーリーが主軸となる本作において、こちらの面では残念ながら、表層的なお約束を描いているだけで、恋愛面における各人物の心情、感情を深く抉っていない事は、観客の理解、納得を阻むマイナス点とされて仕方ない部分ではある。ここをしっかり描いておかない事には、見せられる恨みも苦しみも、そういう話だからそうなのだ、と妥協してあげる他無いのだから。

そのドラマを紡ぐ出演者達だが、主役から脇まで総じて、ひとつの作品世界を構成し、観客をそこに誘うに充分な演技をこなす人材でまとめられているのは、大いにありがたい事だ。

が、演技はともかくとして、主人公を演じる尾上菊之助からは、出てくる女を次から次へと籠絡するだけの魅力があると、少なくとも本作からは感じ取る事が出来ない。どう考えても美男子ではないのに、「キレイな顔」などと言われても首を傾げるばかりである。オマケに黒木瞳と顔の大きさが違いすぎるので、哀しい筈のラストシーンで少し笑えてしまったのは残念だ。女優はキレイどころを揃えているだけに、男優の顔にも気を配ってほしかった。

一方の女優陣は、黒木瞳、井上真央、麻生久美子、木村多江と、各世代を代表するキレイどころをハズレなく配置し、その魅力を水準以上に映し出しているのは、中田秀夫の持ち味の一つでもある。

ホラーや怪奇映画の一流の作り手は、女優を美しく撮る事にも優れている事が多い。これはまず恐怖を描く上で人間の生理的な感情を知る必要があり、その延長線上にある性的なニュアンスにも自然と行き着くからであり、ダリオ・アルジェントなどを例に挙げるまでもなく、古今東西にそうした作り手は枚挙に暇が無い。

黒木瞳は貧乳なため、本来は熟女としての魅力に大きなハンデを背負っているはずながら、それ以外の面で欠点を克服しきっており見事。井上真央も子役出身でキャリアが長いだけに、時代劇の様式に違和感を与える事無く、それでいて変わらぬ美少女ぶりは健在と、アイドル枠的な起用ながら充分以上の存在となっている。麻生久美子や木村多江には多くを語る必要は無いだろう。

この種の作品には欠かせない柳ユーレイも出演している本作、過去の日本怪談映画の持っていたカラーを踏襲した上で、中田秀夫ならではの作風をも融合させた、まさに新時代の怪談映画と称して過言ではない作品に仕上がっている。映画好きならば観て損したと思う筈も無く、比較的長めの尺を長いと感じないままに見終えてしまえるだろう。機会があれば是非。



tsubuanco at 17:39│Comments(3)TrackBack(15)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by Qta   2007年08月09日 03:11
猛烈に面白かった
好き嫌いは分かれる映画だとおもうが、
これまた観てもらわない事には、良さを上手く伝えにくい作品だと思う。

毎度ながら黒木さんは絶品
しかし死体やらしても上手いのはすごいw
2. Posted by kame   2007年08月09日 09:41
私も良作だと思いました。あまり期待していなかったので、途中で「アレ、ここまで完璧だぞ!?」と失礼にも思ったほどです。
尾上さんの「キレイな顔」は確かに違和感がありますが(笑)、これほどの所作が出来る若手(美形)は・・・と考えると、キャスティングは最良かなとも思います。
例えば「さくらん」の菅野さんは確かに美しかったけれど、生まれた時から着物生活の、しかも作法も完璧を要求される花魁が、重要な場面で3回も4回も着物の裾を踏んづけていては、それだけで興ざめだったので。
すみません、長々書きました。丁寧に作られた映画らしい映画でした。
3. Posted by つぶあんこ   2007年08月09日 20:58
中田秀夫なのでハズレは無いと思ってましたが、ここまで怪談映画として作りこまれたのは意外でした。

こうなったら次は清水崇に四谷怪談あたりを撮らせてほしいもんです。

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