2007年07月26日

天然コケッコー 88点(100点満点中)

島根は出雲を中心とした神の国
公式サイト

レディコミ作家、くらもちふさこの同名漫画から、中学生編の1〜6巻までを実写映画化。

監督は『松ヶ根乱射事件』に続き田舎を舞台とした作品を手がける事となる山下敦弘だが、田舎のネガティブな面をディフォルメした『松ヶ根〜』とは真逆に、田舎の陽の面を随筆的に採り上げ描いた作品である事が面白い。(原作からそうなのだが)

脚本を執筆した渡辺あやの指名による監督人選らしいが、これはおそらくは女子高生達の飾らない"ハレとケ"を描いた『リンダ リンダ リンダ』を観てのものであろう事は想像に難くない。

実際に本作、原作の性質上『リンダ〜』の様な"ハレ"こそ無いが、中学生を中心とした"飾らない人間"達による日常を、監督一流の手法で描ききっており、山下敦弘の若手として飛びぬけた実力とセンスが強くうかがい知れる一品となっている。

映像的な作り方として例えば、序盤に主人公・そよ(夏帆)がパンツを洗うカットにて、画面手前で洗うそよの奥に、ピンボケのまま二人の"首から下の男"がフレームイン、それに気づいたそよが咄嗟にパンツを隠し、もう一方の手で蛇口を閉じる、と、画面構成と動きのタイミングがピッタリ最適なマッチングを見せ、意味を伝えるだけ以上の興味、感情を観客に持たせる、計算されつくした作り込みの巧みさは、これまでの山下作品と変わらず嫌味なほど絶妙だ。

ラストシーンの長回し横移動ショットなどは、映像的にもストーリー的にもまさに集大成というべき収束点として配置されており、画面の移動と日光の変化のシンクロによって時間と季節の移ろいを表現し、観客に万感の思いを抱かせておいて、移動終わりに窓の外から覗き込むそよが移った瞬間、戸惑いと同時に感動を爆発させる、最初から最後まで仕掛けが用意されており、飽きる猶予など無い筈だ。

そうした作り込みの基盤となる、漫画の実写化に求められる"ビジュアルイメージの再現"が、まず徹底して行われている事も、作品の質を高めている重要なポイントと言える。

撮影地となる島根の風景、学校も家や店も田園風景も海沿いの線路も、原作の風景をかなり忠実に再現しており、校舎の外観が映るファーストシーンの時点で、原作ファンでも、いや、だったら余計に、違和感無く作品世界へと没入させられてしまう再現度の高さが嬉しい。

登場人物のビジュアルも同様、主人公カップルのみならず、子供から年寄りまで、イメージを崩さないキャスティングの徹底ぶりには感心する。特にシゲちゃんは似すぎて気持ち悪いくらいだ。斉藤暁にヅラを被らせた篤子の父親などは、(これは原作に反して)敢えてそれに触れなかった事でおかしさが増している。

海でのエピソードで重要な意味を持つはずの、そよ、伊吹、篤子の三人の体型差が再現されなかった事が残念なくらいで、そよの脚が太いあたりまで狙ったのでは、と思わせる、ぴったりのキャスティングには、やはり原作ファンなら感謝せずにはいられないだろう。

見た目だけでなく、原作のキャラクターを再現しつつ、生身の人間としてのリアルを追求した、演出、演技の素晴らしさも見逃せない。先述のシゲちゃんの"空気の読めないウザさ"はもとより、転校初日の帰り道における、カッちゃんの細かい演技のリアルさには、思わず本筋より目を惹かれてしまい、これまた最初から作品世界の構築の巧みさに唸らされた次第だ。

人間だけでなく、猫の"にゃんこ"までもが原作通りのビジュアルを見せ、あまつさえ観客を魅了する"演技"をこなし、それをしっかりと画面に収めている、隅々まで行き届いた再現性と現実性のバランスの良さが秀逸。

これはまず、原作のエピソードに余計な手を加えず、忠実な再現を目指した脚本段階から方向性は示されており、監督はその意図を汲んで見事な仕事を行った、その結果である。

ただ、主人公そよの主観によって描写され、その心理動向、感情がモノローグとして丹念に描かれ、それによって読者が主人公と同一化して作品世界の住人となる原作とは異なり、そうした少女漫画的内面描写を用いず、あくまでも目に見えるもので各人物の内面を表現し、観客には客観視点でそれを推し量らせている事が、原作との大きな相違点であり、そこに不満を抱いてしまう原作ファンも少なからず存在するかもしれない。

だがこれは、劇中でそよのモノローグが前面に出る、東京での耳鳴りの場面の演出効果を、ひとつのクライマックスとしてより強調するための狙いであるとも推測され、海に行く道程での耳鳴りの描写が、原作よりも大きく長く採り上げられ、前フリとしての存在をしっかり強調されている事からも、そうであると考えて問題ない筈だ。もちろん、そうした手法を得意とする監督である、という大前提は、過去作からも明らかではあるのだが。

また、漫画の中に漫画や絵画を描くキャラクターが登場した場合、その人物が作者の投影である事はほぼ相違なく、本作における篤子もまた、ひとつの理想である主人公カップルを、現実的な立ち位置から羨望の混じった視点と感情で見る役割を、原作では果たしていたのだが、映画化される事でその役割が大きく薄れ、特異性、優位性を失ってしまった事もまた、原作ファンにとっては残念な結果ではある。仕方の無い事だが。

とはいえ、ここまで原作を大切にして尚且つ一つの作品としても丁寧に作りこまれた、作り手の良心が強く感じられる映画は、商業映画としてはかなり貴重な存在と評して問題ないだろう。原作未読であっても、映画で描かれる世界の魅力はそれぞれに感じられる筈だ。機会があれば是非。原作も面白いので同じく機会があれば。



tsubuanco at 01:42│Comments(5)TrackBack(28)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 咲太郎   2007年08月14日 09:48
色々な人のレビューを読んで気になってはいましたが、原作そんなに面白いんですね。
是非とも読もうと思いました。

あ、下から三段目、上から二行目
強調するため(の)狙い
「の」が抜けてるみたいですよ。
2. Posted by サスケ   2007年08月15日 01:39
5 漫画原作映画なので見るのをためらっていましたが、大事にしてることが伝わりました。楽しめそうですね。
漫画原作を読んでから映画を味わってみようと思います。
3. Posted by sheep   2007年08月15日 04:29
やはり原作未読のまま行きましたが、今回の高評価は意外でした。
個人的にはキレイな風景や人間関係には引き込まれるところがあったものの、ストーリー的には「で?」という感想が抜けず、こりゃ役者見るためだけの映画だなと判断しとりました。
原作モノの難しさを楽しむ年ですな、今年は。
4. Posted by つぶあんこ   2007年08月15日 13:54
好き嫌いが別れそうな絵柄ですけど、原作は傑作ですよ。短命な女性向け漫画界で14巻まで続いただけの事はあります。最終巻は読みながら「世界の終わり」を痛感させられて、読みたいけど読みたくない状態で唸りながら読んでました。

先に原作を読んでからの方が楽しめる、珍しいタイプの映画ですね。
5. Posted by kimion20002000   2009年02月12日 17:01
>作り手の良心が強く感じられる映画

おじんではありますが、こんなに気持ちよく見れた映画はなかなかないですね。
久しぶりに、本棚から原作コミックを取り出してしまいましたよ。

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