2007年07月20日

コマンダンテ 86点(100点満点中)

音楽製作:あんだんて
公式サイト

社会派の題材を実際には通俗的な興味本位で描いた作品を作り続けるオリバー・ストーン監督による、キューバの最高指導者フィデル・カストロへのインタビューをメインに構成された、同監督初のドキュメンタリー映画

"コマンダンテ"という呼称は、通常は軍内の一階級を示すが、特定国内に置いては特定個人を指す点において、北朝鮮における"将軍様"と同様だが、一緒にするのは失礼すぎるか。

自身の銅像や肖像、伝記の製作を国内法で禁止しているカストロを、ここまで密接に記録した映像作品という、まずそれだけで、本作の歴史的、資料的価値はかなり高い。

もちろんその事と映画としての面白さは別問題だが、本作、カストロあるいはキューバ革命とその後のキューバ史に関して、知っていればいるほどそのディテールまでをとことん興味深く楽しめる様に作られている、かなりの奥深さ、密度の高さがある事がまず評価点である。

そしてそれだけでなく、カストロ自身の持つ、いい意味で特異なキャラクター性を多面的にピックアップする取材手法と、興味を惹く内容の配置構成の巧みさによって、あまり詳しくなくとも最後まで飽きずに観続ける事が出来、あまつさえ更に良く知りたいと、題材に対する興味を大きく持たされる作品に仕上がっているのは、監督の得意とするやり口が上手く題材とマッチした結果によるものだろう。

何よりオリバー・ストーン自身がインタビュアーを務める本作において、そのインタビュー内容や取材姿勢が、あまりに通俗的でありメディアの嫌らしい一面を強調しているかの様に見えるのは、それによって建前以上のカストロの"素"を引き出そうという狙いなのかもしれないが、それにしてもあまりにレベルが低すぎ、スクリーン越しでさえ見ている方がヒヤヒヤさせられるのだから困りものだ。

それでも、アメリカの喉元に位置し東西冷戦の狭間で大きく揺れ動いた同国の独裁者だけが答え得る言葉が、当のカストロ自身の口から語られる映像は、やはりそれだけで圧巻であり、その内容もいちいち真意を推し量りながら聞いていれば興味は尽きず、何回も繰り返し観ないと、本作を、いやカストロの言葉を味わい尽くす事は困難である。

それほど情報量が詰め込まれた本作にて、あまり詳しくなくとも興味を持てるのは、キューバ危機に関するインタビューとチェ・ゲバラにまつわるインタビューの双方だろう。

特にゲバラに関するあれこれは、カストロのみが知りうる謎がいまだに多く残されている事項であり、公開を前提とした建前の言葉とはいえ、やはり現在(2002年)のカストロがゲバラの事を長々と語る、それだけでお腹一杯であり、様々に勘繰らされると同時に、もっと単純に、"二人の男"の関係をドラマチックに夢想して勝手に感動する事も可能だ。

アメリカではいまだに公開されていない本作、題材に興味があるなら間違いなく必見であり、観て損したと思う事はまず無い筈。わかりやすい語り口なのでカストロ入門書としてもオススメ。続編も早く日本公開してほしいものだ。



tsubuanco at 21:56│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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1. 「コマンダンテ COMANDANTE 」映画感想  [ Wilderlandwandar ]   2007年08月16日 21:18
月に一度の映画の日なので、レイトや割引のない単館系の物でコマンダンテを見てきまし
2. コマンダンテ  [ レンタルだけど映画好き ]   2008年03月20日 22:53
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