2007年07月13日

イノセントワールド -天下無賊- 63点(100点満点中)

原作:桜井亜美
公式サイト

日本では『女帝 [エンペラー]』という恥ずかしい邦題の映画の監督として知られるフォン・シャオガンの、本国では2005年に公開された作品。これまた恥ずかしい邦題が付けられており、もはや何かの罰ゲームとしか考えられない。

人を疑わない頭の弱い若者が大金を抱えて移動し、その周囲の彼の知らないところで盗人達があの手この手で大金を巡り争奪戦を繰り広げる、というお話は、東西の昔話に頻出の定番ネタであり、それを敢えてヒネらずストレートに現代劇として映画化するとあっては、物語そのものよりも、ディテールや映像にどれだけの見どころを詰め込めるか、評価点はそちらに委ねられる事となる。

まず求められるのは、お宝の主であるバカ男の頭の悪さ、空気の読めなさから生じるイライラを、そうとは感じさせない様に眼を逸らさせるだけの、争奪戦の面白さであり、それを演じる盗人達に、各々キャラクターとしての魅力、個性がしっかり設定されている事だろう。

主人公側は、盗もうとする男(アンディ・ラウ)と止めようとする女(レネ・リウ)なる、お話の定番をそのまま配置し、一方の敵側には、厳格なボス、言う事を聞かず先走るバカな子分、エロカッコいい美女、と、これまた定番のキャラを揃えており、どこまでもストレートに古典の現代訳に挑戦しようと言う姿勢が見て取れる。正体を隠し同行する刑事も同様。

各人物のビジュアルも、一目でそれとわかる程にわかりやすいスタイルなのは、なんだかバカにされている気がしないでもないが、誰が誰かわからないよりはマシだろう。それにしても、主人公のヅラが途中で取れる事で、外見の変化によって内面の変化を表現した、という狙いはわかるが、タイミングがズレがちなせいで伝わっているのかどうかが不安だ。

ヒロインを地味な外見としたのは、敵側の美人スリとの対比のためだろうが、序盤の設定紹介シーンで美人局をさせているのは、この狙いとは相反してはいないだろうか。敵の女スリも、登場場面ではものものしく主人公との因縁を感じさせながら、結局どうでもいい様な退場となるのは半端に感じる。

メインの見どころとなる争奪戦は、舞台を列車内と限定する事で、大勢のギャラリーがいる中で、如何にして人目を盗んで金を盗むのか、という命題を設定し、攻防の面白さを見せようとしている。が、実際の映像として、中国映画の定番的にスローによって逆にスピード感を増す演出を多用しているのはいいが、アップを多用しすぎる事で動きの流れが掴みづらく、手練の技術を尽くした攻防の面白さが伝わりつらくなっているのはいただけない。

あるいは列車内という"狭い空間"を意図した狙いなのかもしれないが、劇中人物だけでなく観客にも何が起こったのかわからないのはダメだろう。もう少し見せどころを考えて画を作るべきだ。また、終盤に見られる、より狭い天井でのアクションにおいては、その極限の狭さを空間構成として活かせていたとは思えず、勿体なさを感じる。

これらの攻防のわかり辛さが、作品として良い方向に動いたのは、終盤のちょっとしたドンデン絡みくらいであり、そこにしても怪我の巧妙的な効果であり、やはり良くしたものとは言い難い。最近のアクション映画は東西問わず、近すぎて意味不明になる映像が多く見られ、いい傾向とは思えない。

バカ男のカバンから大金が出たり入ったりして本人は気づかない、と、まるでドリフコントの様なコミカルな展開から一転して、悲哀に満ちた展開となる終盤は、そのギャップによって観客を感動させる狙いなのだろうが、音楽で盛り上げすぎたりなど、どうにも過剰な演出が鼻につき、少々醒めがちになってしまうのが残念。そうした半端さは『女帝[エンペラー]』でも同様であり、同監督の悪いクセなのだろうか。

とは言え、お約束に終始しているおかげで安心して観ていられる、一定の面白さはあるので、観て損したと思う事はまずないだろうし、アンディ・ラウが出ずっぱりで振り幅の大きい演技を見せ続けるので、ファンなら必見だろう。興味があれば。


tsubuanco at 16:03│Comments(3)TrackBack(1)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

詐欺やスリで世間を渡り歩く恋人同士のワン・ポーとワン・リーだが、チベットの高原地帯で二人は仲たがいをし、怒ったワン・リーは車を降りてしまう。そこでワン・リーは、出稼ぎに来ている若者シャーケンと出会う。その後、彼女は列... 続き 中国のお正月娯楽映画も、ずい...

この記事へのコメント

1. Posted by 爽泉   2007年08月22日 16:27
卵の殻むき対決が「だが中国じゃ2番目だ!」みたいな感じで楽しかったです。
2. Posted by つぶあんこ   2007年08月22日 17:36
列車上の対決でトンネルに突っ込んで消えた主人公が、遠くから空飛ぶ車に乗って登場したら完璧ですね。

あと女スリは持田香織に似すぎです。
3. Posted by kimion20002000   2008年12月16日 19:54
いつも、公式サイトとか見ていると、興行側がなにを考えているのか、わからなくなるときがありますね。
邦題のつけかたもそのひとつですね。
映画ファンから、馬鹿野郎邦題や、不親切公式サイトのワースト欄金ングを作って、配給元に送りつけたくなるときがあります(笑)

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments