2007年08月21日

キャプテン 66点(100点満点中)

クツシタくさいイガラシ記者
公式サイト

代々受け継がれる野球部キャプテン達を主人公とした、ちばあきおの名作野球漫画を実写映画化。過去にアニメ化もされ一般的な知名度も高く、根強いファンもいまだ多く存在するこの作品を手がけるのは何故か、バイオレンスVシネをメインフィールドとしている室賀厚。(菅田俊が出演しているあたりにバイオレンスの名残が)

この、どうにも不可解な人選、そして、母ちゃん以外に女っけのない原作なのに、アイドルタレントが二人もメインどころとして出演するという前情報を聞くにつけ、「また原作レイプ映画か」と肩を落とした原作ファンも少なくなかっただろう。(自分もだが)

だが本作、蓋を開けてみると意外な事に、与えられた環境の中で可能な限り原作を大切にした、作り手の良心が感じられる作品に仕上がっており、何とも嬉しい誤算だ。

ストーリー、キャラクターには、いくつかのオリジナル要素が追加されているのは、凡百の漫画原作映画と変わらない。だが、今回の映画で扱われているストーリー『谷口編』の主軸である、谷口の転入から青葉との決戦までの流れを、単なる早送りやダイジェストにならない様にする、そのためにオリジナル要素が活用されている、この事が、本作が駄作化しなかったに重要なポイントであると言える。

岩田さゆり演じる新聞部員、これは実は原作にも数ページほど登場する名無しキャラクターなのだが、今回の映画版においても、彼女を物語上の"ヒロイン"とせず、あくまでも客観的に野球部を見守る存在とし、学校新聞によって結果や進展などを見せ楔とする事で、ダイジェスト感を軽減させる役割を果たしている。もちろん恋愛要素など皆無なのがありがたい。

小林麻央が演じる野球部顧問は、これは原作には登場しないオリジナルキャラだが、彼女もまた、無意味に物語に介入させて話の腰を折る様な事をさせず、原作の良さを台無しにするバカ監督なら挿入しそうな恋愛エピソードも無く、谷口の成長、野球部の成長をより明確に伝えるために、彼女の顧問としての成長を要所要所にコメディ的に挿入し、画面に彩りを添えると同時に同じく楔の役割を果たしている。何より小林麻央自身が備えている天然系のビジュアルとキャラクターが、そのまま画面に反映されているため、あくまでも添え物に留まる彩りとしての効果は大きい。

もう一人、重要なオリジナルキャラクターとして、大工の父ちゃんの弟子が登場するが、彼を元野球部員とする事で、原作における父ちゃんとの個人特訓が持っていた漫画的な荒唐無稽さを軽減し、特訓に説得力を持たせている。そしてそれ以上に重いウエイトは置かず、やはり傍流のキャラクターに留める事で、本筋を乱していないのは前2キャラと同様。

ストーリー的にも、谷口がもともと青葉にいた事をより活かし、青葉の選手との因縁を深めて短い時間でわかりやすく対決を盛り上げる様なされていたり、父ちゃんが突貫作業をする、完全オリジナルのエピソードを挿入する事で、諦めない事、自らが率先して一番頑張るから皆が付いてくるのだという事、など、原作のテーマ、要点を、これまた短い時間でわかりやすく伝え、谷口の心境変化、行動指針の根拠とするなどして、不要な改変、追加と感じられ無いどころか、物語をまとめるために有用なものとしている。

こうして、原作の持つカラーを極力壊さない様に留意して、物語を整理しメリハリをつけ、理解、移入を促す、脚本段階での仕事ぶりは評価出来る。

また、「野球を楽しむ」という言葉に込められた意味を、最初と最後では全く違う意味に変化させ、それによって谷口と野球部の成長を見せるといった、一本の映画としてのまとまりを考慮した構成も感じられる。(この変化に気づけないなら、観ていた意味などないだろう)

キャスティングに求められる、原作イメージの再現性は、谷口、丸井、イガラシ、そして菅田俊が演じる青葉の監督あたりは、少なくとも見た目に関してはハマり役と評していいだろう。

だが谷口役の子役は完全な素人の新人であり、その演技には常に不安がつきまとうものであり、手放しで褒められるものでは決して無い。が、序盤で彼が見せた照れる仕草は、明らかに"ちば的"なそれを意識したもので、監督の意図的な演出なのだろうが、それをやってみせ、原作ファンを驚かせた彼を評価したい。

一方で、物語の起点となる重要な場面、美人顧問に「がんばってね」と言われて思わず「はい」と答えてしまうくだり、その流れが観客には上手く伝わり辛く、ためにその後の展開での、「一度引き受けた事はやり通すのが男だ」に繋がり辛くなっており、これは演技の理解不足および演出の徹底不足によるものであり、そうした物足りなさが、全編の端々に散在している事が残念なところだ。

無意味に雨が降っていたり、中学生が夜に公式試合していたりと、どう考えても予算や時間、環境的な面において小規模にも程がある事は画面からもありありと伝わって来るが、そうしたハンデを乗り越え、出来る範囲で原作を大切にし、出来る範囲で良心的な作品に仕上げた、その結果からは、室賀厚監督の『キャプテン』に対する思い入れが単なる"お仕事"レベルではない事は明白である。よってこの人選は、この環境においては正解だったのだ。

何が何でも原作通りでないと認めない、というレベルの頭のおかしい人は観なくていいが、普通の判断力を持った原作ファンなら問題なく楽しめ、感動も出来る筈だ。原作を知らなくとも、スポーツもの、少年ものが好きなら楽しめる一品であり、これを機に原作に興味を持つ子供が増えてくれでもしたら嬉しい限りだ。機会があれば。


蛇足:
『キャプテン』と言えば「♪わっかいっ日〜はっ♪」の主題歌が浮かぶだろう。今回、この歌をアレンジした挿入歌が流れる場面があるが、J-POP風にアレンジされているのは仕方ないとして、歌い方が「♪わかい日ーは♪」と抑揚が無いのはどうにかならなかったのか、オリジナルの終始弾む様な歌い方によって、スポーツや青春といったイメージを内包させていた狙いを、まるでわかってないのだろうか。



tsubuanco at 17:30│Comments(0)TrackBack(3)clip!映画 

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1. 映画「キャプテン」  [ 日々のつぶやき ]   2007年08月30日 12:14
監督:室賀厚 出演:布施紀行、小川拓哉、中西健、岩田さゆり、筧利夫、小林麻央、宮崎美子 原作はコミックで、かつて大人気だったそうですが・・原作知りませんでした。当時の野球ものと言えば「巨人の星」とか「ドカベン」くらい・・その後は「タッチ」とかしか・・
2. 『キャプテン』  [ アンディの日記 シネマ版 ]   2007年09月05日 16:47
感動度[:ハート:][:ハート:]        2007/08/18公開  (公式サイト) 泣き度[:悲しい:] 笑い度[:ラッキー:][:ラッキー:] 青春度[:よつばのクローバー:][:よつばのクローバー:][:よつばのクローバー:] 満足度[:星:][:星:][:星:]   【監督】室賀厚 【脚本...
3. 『キャプテン』 Q-AX  [ たーくん'sシネマカフェ ]   2007年09月15日 12:52
ここ数年、少女漫画が映画界で席巻してましたが野球漫画も静かに良質な作品が出てきています。【渋谷Q−AX】の会員になりました!ここは年会費300円のみ。毎月9日は千円なので鑑賞♪+併設のショップでコーヒー無料サービス♪(鑑賞しなくてもOK) (C)2007ちばあ...

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