2007年07月24日

街のあかり 54点(100点満点中)

モロッコで性転換手術
公式サイト

市井の冴えない男を主人公とした映画を多く手がける、フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキの最新作。『浮雲』『過去のない男』に続く、敗者三部作という括りがなされているらしい。

のだが本作、前二作に増して主人公を取り巻く状況は余りに悲惨で救いがなく、また、その救いのなさの多くが、社会構造の歪といった外部的なものよりも、主人公自身の有りようから生じている事で、より救いのなさを強めており、まさに救い様もない。

果たしてこんな愚かで自分の見えない男に共感できる者などいるのか、と首を傾げるほどに戯画化された、徹底したダメ男、負け犬っぷりは呆れるほどに愚かしい。

彼を襲う"不幸な境遇"が、ことごとく自業自得、自縄自縛に終始しながらも、作り手は最初から彼に対し"救い"を用意しておき、その事に一向に気づかないどころかむしろ避けている主人公の愚かしさに対してもまた、呆れ返るほかない。

意図的にスパッと断ち切られるラストシーンはその究極であり、主人公のここまでの動向を見ていれば、どうせまた同じ過ちを繰り返して負け続けるのだ、と安易に予想がつく、このラストが彼にとって"救い"である筈もなく、最後の最後までダメ男のダメッぷりを見せ続けられ、いい気持ちになるはずもない。

劇中で彼にとっての"救い"として設定されている、ソーセージ屋台の女性にしても、彼女が何者なのか、といった事が語られないのは、意図的に記号に特化されたキャラクターを配置して物語を進める手法には必要ない情報だからいいとして、主人公に対しひたすら愛情を寄せ続けるだけの理由付けがなされておらず、ディフォルメされた物語とはいえあまりに都合が良すぎ、共感や感情移入を阻害する要因となっているのは評価しがたい。

主人公を騙す、もう一人の女性キャラクターの外見が、誰がどう見ても不細工なオバハンでしかないのは、主人公の愚かさを強調する仕掛けとして、それ単独だけ見ればおもしろいが、ボスとの関係であったり、ソーセージ屋の女性の方が化粧っ気はないながら相対的に綺麗に見えてしまうなど、物語を受け入れる上で障害となる事も多く、演出意図の不徹底が大きく気になってしまうところだ。

心情を言葉で説明する事無く、人物の表情も大きく動かさず、画角の捉え方やカットつなぎのテンポによって人物の心情を観客に慮らせる、カウリスマキの特徴である作劇は、よく計算された映像作りの巧みさによって興味深く観ていられるが、一方で、無駄な台詞が無い事から却って、状況説明的な台詞の多さが気になってしまうのは皮肉。そうした点まで計算が周到されていないのは片手落ちだろう。

ただ、全体的な見せ方として、どう見ても負け犬である主人公を、彼自身はそう思っておらずむしろ前向きに生きているつもりにさえ見せる、シニカルなユーモラスさを感じさせる描き方は、さすがカウリスマキであり、本来ならもっとも悲惨な境遇であるはずの刑務所内において、外での生活よりもむしろ平穏で楽しんでいるのでは、とさえ感じさせる様な描写を重ねているのは興味深い。無表情な人物が数少ない笑顔を見せているのも刑務所内であり、房内でも作業中でもタバコ吸い放題な刑務所に、刑罰としての意義があるのかとすら感じさせ笑わされる。

主人公と女性キャラの間に、"目を合わせる"演出がなされていない事によって、今回のテーマである"孤独"を象徴させているのも面白い。二人の女性と主人公の、視線を投げかけ外す関係がそれぞれ正反対であるのも同様。だけに、この二人のビジュアルの差異が効果的ではないのが残念。

カウリスマキ作品が好きなら間違いなく必見だろうが、仕事や人間関係が上手くいっていない、どちらかと言えば負けぎみな人が観ると、希望や元気どころか絶望して自殺するおそれがあるので注意が必要。自己責任で。



tsubuanco at 17:33│Comments(3)TrackBack(5)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 名無しさん   2007年09月04日 17:48
マフィアのやることが一々セコくて微笑ましいですな。
確かにボスは天才です。
2. Posted by つぶあんこ   2007年09月05日 17:11
ボスのチクリは「お前が言うな」状態ですよね。
3. Posted by kimion20002000   2009年02月27日 17:35
なんか、街中でほとんど煙草を吸う事が犯罪人扱いされるなかで、刑務所ではおいしそうに煙草を吸えるというのは、アイロニカルというか・・・。

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