2007年08月03日

22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語 87点(100点満点中)

「葉堀りってどういう事だッ! ナメやがってクソッ! クソッ!」
公式サイト

大林宣彦監督による、昭和フォークソングをモチーフとした映画の第二弾。前作『なごり雪』に続く今回は、伊勢正三の『22才の別れ』を標題、題材としている。

近作『転校生 さよならあなた』とほぼ同時期に撮影されたと思しき本作、斜角が映像の基盤となっているのもそれと同様であり、現実世界を描きながらも現実そのものではない、メンタリティのリアルを象徴的に描く作品の方向性を、まず視覚的な点で観客にハッキリと提示し、世界を構築する一因としている事も『転校生〜』と変わらず。

雷雨を背景とした診察室のシーンで始まる冒頭、切り返しのカット割りにて傾きを交互に変えて対面を強調しつつ、横一方向から当てられる照明によって、その対面を更に強調し、視覚的なインパクトによってまず観客を世界に引きずり込む、最初からアグレッシブな語り口は絶品。

そうした"荒れた"場面を先に見せておく事で、続くコンビニ内のシーンでの寂寥感とのギャップを持たせ、"出会い"をより印象づける様になされている。

ここで主人公(筧利夫)が出会うヒロイン(鈴木聖奈)の、意図的に野暮ったくスタイリングされたビジュアルを見て、それをどの様に受け取るかでまず、本作を楽しめるかどうかが大いに変わってくると言って過言ではない。

三人登場するメインの女性キャラクターを、着飾らせず地味な外見に留めているのは当然ながら意図的なものだし、それでも尚、いやそれだからこそ、本来備えている素の魅力が引き立っている、これは監督が好んで用いるやり方であり、その点でのキャスティングは的確である。

回想編でのヒロインである中村美玲もまた、時代を感じさせる、説得力あるビジュアルが素晴らしく、ハマり役だ。

そして、この二人が、主人公の過去と現在の人生において重要な基点となる、その存在意義と、後に明らかになる人物設定の意味とが、見た目の段階で既に周到に設定されているのが見事。時代の違いを反映させつつ共通項を潜ませておく事で、ヒントの提示と同時に、第一印象の時点で観客に特殊な感情を発生させる仕掛けとして、有効に活きている。

名前、誕生日、ロウソク、あるいはタクアンなど、何気なく見せられているあれこれが全て意味を持ち、主人公とヒロインの全てが象徴されている"Lycoris(曼珠沙華)"も含め、それらの持つ意味が徐々に明らかになっていくに連れ、意味がわかった気持ちよさと、その意味に込められた主人公達の想いを慮ってのやるせなさが入り乱れ、どうしようもなく感情を揺さぶられる、その構成は上手い。

その感傷をより増幅するのが、題材としての音楽であり、監督が好んで用いる、地方の街の風景描写の巧みさである。

曲は言うまでもなく、ギターによって演奏されるメロディが流される度に、卑怯なくらいに感情を揺り動かされてしまうし、風景描写も、石灰石が剥き出しになった山肌の映像や、後半での、狭く曲がりくねった道を車でねり進み、主観と客観を交えて時間をかけて見せていく、現実に存在する地形や街並を使いながら、現実とは異なる印象として世界観を表現する手法は相変わらず秀逸。

その集大成とも言えるのが、臼杵の名物・竹宵の情景を単なる景色に終わらせず、ストーリー展開の主軸と絡めてテーマをも視覚的に象徴させてしまう、終盤の展開、映像に尽きる。単なる見た目の良さ、美しさではなく、内包される魅力によって感情、感傷を引きずり出す事をいちいち狙いすました映像は、終始目を離せないものだ。車絡みの合成映像がチープなのが欠点だが。

あらゆる登場人物を意図的に抽象的に描写しているのは、観客がそこから自身に共有出来るものを見出し、感情移入させるための狙いであり、ターゲットとして想定されている層の観客にとっては、それはズバリヒットしてしまい、いちいち共感、理解を深めさせられる事となる。

回想編での少年少女の心理描写、想っているのに前に踏み出せない気持ちと、それが辛くて逃げてしまう悲劇などが、現在の場面でも同じ構図として投影され、思い当たる節がある観客は完全に術中にハマってしまい泣くしかなくなってしまう。

が、現在も過去も、人間のあり方は変わらない、とする基本姿勢はいいとして、過去の自分と現代のワーキングプア青年を同一視し、重ね合わせてしまうくだりは、物語展開として少し浮世離れしすぎ、一気に現実に引きずり戻されてしまい残念に感じる。いくら夢物語とは言え、現実を生きている観客が納得できるレベルのリアリティは必要な筈だ。上と下それぞれの世代に対するコンプレックスは上手く描けていただけに尚更である。

と、いくつか気になる点がありつつも、エンディングでの名曲に聞き惚れてすっかり感傷的な気分になった直後、意表を突いて見せられるヒロインの仕草は締めとして完璧であり、最後まで手を抜かず楽しませてくれる本作。大人だけどあえて感傷的になってしまいたい気分の、そんな時そんな日には、大林宣彦のロマンチズムが最高に心地いい筈だ。機会があれば是非。

ただ、この種の作品の常として、別れた直後には観ない方がいい事は言うまでもない。


tsubuanco at 18:00│Comments(0)TrackBack(6)clip!映画 

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映画「22才の別れ」を観ました!!2007年の第11作目です。あ〜なたにのフレーズでお馴染みのフォークソング、懐かしいですね〜
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