2007年08月29日

スピードマスター 38点(100点満点中)

中村俊介と中村俊輔を言い分ける方法
公式サイト

『最終兵器彼女』の須賀大観監督による、公道レースを題材としたカーアクション映画

『最カノ』では、撮影現場で色々揉めていたらしき話を聞いたり、本作もまた、どう考えても充分な環境を与えられていなかったりと、不遇な境遇が目立つ同氏、他人事とはいえ何だか心配だ。

ヒーロー:中村俊介、ヒロイン:北乃きい、敵:内田朝陽&蒲生麻由、おやっさん:大友康平、と、ひたすら地味な出演者陣を見た段階でわかる通り、低予算極まりない映画であり、もはや実写に見せる事を放棄したとしか思えずむしろアニメに近い、CG丸出しのカーレースシーンを見てもそれは明白である。

実写によるカーアクションを敢行出来ず、ゲーム紛いのCGしか用意出来なかった、その段階で既に、本作を真っ当に作る事自体に無理が生じている。実際に、見せ場である筈のレースシーンは、最初と最後の二回だけに留められており、それ目当ての観客からすれば、非情に物足りない状態だ。

ならばこそ、その間を繋ぐストーリーを工夫する事で、期待とは違う方向だが映画として楽しめる様にするべく、作り手の努力が求められて然るべきが、それもまた果たされていないのだから困ってしまう。

ストーリーは太古の昔から定番として存在する、流れ者ヒーローもののパターンを踏襲したものだが、キャラクター配置やストーリー展開の全てが完全にパターンそのままで何の意外性も無く、脚本家による創作が微塵も感じられないものでしかない。

その描き方にしても、ヒーローに何らかの秘密があって性格がひねくれているのはお約束だが、その謎解きが話を面白くするわけでも人間関係に深みを与えるわけでもなく、ただ上辺をなぞっただけで、明らかになった過去の問題も特に解決せず放りっぱなしで終わってしまっては問題だろう。最低限、最後のレース展開に何らかの波を与えるくらいはすべきではないか。

ヒロインの行動も、話を進めるために動かされている状態でしか無く、ライバルの見せる狂気もステレオタイプに尽き、ヘンなメイクのせいでギャグにしか見えない。蒲生麻由が演じる敵女ドライバーもまた、意図的にコスプレキャラ的にスタイリングする事で、浮世離れしたミステリアスな魅力を出そうとしているのはわかるし、実際に蒲生麻由自体が素で美人なためギャグにならずハマっているのだが、そもそもの存在意義が非常に薄いキャラクター描写、動向に終始し、結局のところ、いなくても構わない役どころに終わっていたのは勿体ない。

無国籍風に装飾された世界観は、画面に映っているいくつかの場所しかその世界には存在しない様な、箱庭的な構築しか出来ておらず、その場所と場所を繋ぐ道筋すら想像出来ない、"つくられたもの"としか受け止められない世界に、魅力を感じる事は難しい。

車が題材であり、走る道路が必須な筈の映画で、これは致命的だ。実写で道路を走る数少ない場面が中盤に登場するが、この時の撮り方、見せ方がどうにもつまらなく、"スゴイ車"であるはずのその車に、何ら凄みを感じられないのでは、描写として成立していないではないか。

そこ以外でも、どう凄いのか、どう違うのか、といった、車の性能などを観客に伝える手法が極めて乱暴で、一瞬の止め絵にテロップでスペック等を表示しているのだが、早すぎて追いきれないのだ。

特に読まなくてもいい情報なら、雰囲気の演出としてそれでも構わないが、物語の流れを考えるに、知っておいた方が良い情報である事は明白で、かなりの不親切さを感じる。

そのため、肝心のレースシーンにおいて、苦戦、逆転などの、技術的、性能的な裏付けを感じられず、攻防の変転に魅力を感じられなくなってしまう結果に陥ってしまっているのだ。

ターンやクラッシュなど、いくつかのシチュエーションではCGではなく実写に戻るのだが、この時の映像がやはり、迫力や臨場感に欠けるアングル、カメラワークに終始しており、敵の車が海に落ちたり、飛び出てきたにぶつかりそうになったりといった、本来なら見せ場になりうる展開も、少しも驚けずのめり込めない結果に終わっている。

もちろん、撮影環境などで想像以上の制約があったのだとは思うが、それなら脚本段階で、実現可能な範囲でのシチュエーション設定や展開を、もっと煮詰めるべきであるはずだ。

ただ、ドラマ部分での演出やカット割りなど、監督の持ち味を出しても支障のない部分では、それなりに凝った意図が見られる映像もところどころにあり、何もかもがダメというわけではないのが、却って勿体ない印象を強めてしまっているのが不幸か。上から下に画面を高速スクロールさせ、そこに同じく上から下にテロップを流す、エンドロールの見せ方が、面白かったりと、どうでもいいところが良かったりするのだ。

低予算であり脚本の出来が悪い事を念頭に置いた上で、出演者のファンならば、とりあえずはチェックしておいた方がいいかも、というレベルであり、無理して観るほどの作品では決してない。自己責任で。



tsubuanco at 17:23│Comments(3)TrackBack(5)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. スピードマスター  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2007年08月29日 17:44
【2007/08/25公開】製作国:日本監督:須賀大観出演:中村俊介、内田朝陽、北乃きい、中山祐一朗、蒲生麻由、鮎貝健かつて無敵を誇った走り屋の颯人は、バトルで友人を失ったことで速さを求めることに虚しさを覚え、ステアリングを置きあてのない放浪を続けていた。ある日彼....
2. スピードマスター(映画館)  [ ひるめし。 ]   2007年09月05日 12:23
その先に最速が見える
3. 【2007-122】スピードマスター(SPEED MASTER)  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年09月05日 20:13
1 人気ブログランキングの順位は? 『俺のラインを邪魔する奴は、誰だろうと潰してきた。 もし邪魔すのなら、お前も潰す。』 その先に最速が見える
4. 劇場鑑賞「スピードマスター」舞台挨拶付き  [ 日々“是”精進! ]   2007年09月08日 13:48
「スピードマスター」を鑑賞してきましたアメリカ発の「ワイルドスピード」シリーズ、香港発の「頭文字DTHEMOVIE」など、チューンナップされた日本車がストリートバトルを繰り広げるカーアクションムービーが世界中で大ヒットを飛ばす中、ついに本家本元の真打ちが日本か...
5. スピ−ドマスター 07222  [ 猫姫じゃ ]   2008年01月01日 18:22
スピードマスター 2007年   須賀大観 監督中村俊介 内田朝陽 北乃きい 中山祐一朗 蒲生麻由 大友康平 一応2007年度、見納め映画です。 いぁ、結構良かったですyo! かなり心配だったんですケド、、、 もっとレースの場面が多いと思っていたんだケドね....

この記事へのコメント

1. Posted by にしやん   2007年09月23日 00:58
>無理して観るほどの作品では

無理して観てきましたw
車好きや、本当の映画ファンには
かなり退屈な映画でしょうねえ。
ツッコミどころは満載でしたが。

ヒロインまひろちゃん目当てで観に行った私のような人が、結果的に一番満足できたのではないかと思ってしまいました(笑)。無理のある脚本でもいい演技をしていたのがかえって痛々しいぐらい><
2. Posted by つぶあんこ   2007年09月24日 23:26
蒲生麻由目当てで無理して観に行ったので惨敗でした。
3. Posted by 猫姫少佐現品限り   2008年01月01日 18:20
5 あけおめ〜!
ことよろ〜!
今年もTBさせて頂きます!

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments