2007年07月27日

私たちの幸せな時間 82点(100点満点中)

爆笑問題田中「だから死刑はマズいって」
公式サイト

韓国映画『力道山』にて、孤独に苦しむ英雄の姿を描いたソン・ヘソン監督の最新作は、日本では蓮池薫氏が翻訳した事で話題になった、コン・ジヨン作の同名小説が原作となっている。

孤独な人間を描き最後に死が待っているのは『力道山』と同様だが、本作では、孤独を抱える人物が二人登場し、その出会いから変容を描く事で、人間の心理をよりドラマティックに描いている。

傍目からは恵まれている環境に育った女性ユジュンと、不幸のドン底な境遇に育った死刑囚ユンス、正反対に見えながら、共に死を見つめて孤独に生きている二人を、正対しつつもメンタリティを共有するものとして象徴的に描き、原作で丹念に描かれている二人の過去の経緯を、感動を後押しするためのスパイスに留めている事が、原作との大きな違いであり、本作の特徴と言える。

そして、展開されるストーリーが意図しているものをより明確とする、映像構築の巧みさには、かなりの計算とそれを現出する技術の高さが見て取れ、一瞬たりとも眼を背ける事が出来ない、完成度の高い映像演出となっているのが素晴らしい。

その中で、正対する二人とガラスの反射を用いた、映像とストーリーのマッチングに関しては、撮影監督の映画批評にて先に書かれてしまっており、同じ事を書いても仕方ないので、そちらを参照の事。

このガラスを用いた映像演出は、まず序盤の段階で、ユジュンが運転する車の窓ガラスに反射、あるいは透過して映るものによって、中と外を同時に描写している映像が見られ、これが面会場面における反射の伏線となっている。

ユンスの過去場面で登場する美容院の、鏡とガラスを様々に用いた演出であったり、ユンスが作ったガラスの十字架を、ユジュンが首にかけて鏡で見るくだりなどが、それを裏打ちするための描写として要所要所に用意されている事にも注視したい。

撮影者であるヒロインがガラスに写り込んでいる写真がクローズアップされる事で、それらが監督の意図していたものであると明らかになる、締めの演出は秀逸に尽きる。

その"反射"のギミックは、全体を通して用いいられている、光と影を殊更に強調した映像作りのひとつである、と、主人公の影が壁にクッキリと映り、主人公と壁に強く光(朝日)が当たって、その影とのコントラストがクッキリと浮かぶ事で、殺人現場の惨状よりも、光と影の強烈さの方にインパクトを持たせている、ファーストシーンの段階でまずハッキリと明示されており、最初から最後まで、狙いが一貫しているのが素晴らしい。

同じく、最初の面会室において、窓から強く陽が差し込んでいながら、当初は死刑囚ユンスの顔は影のままに通す事で、閉ざされた心を示し、月日が経ち、顔に光が当たっている様を見せる事で、この時は心を開いていると示すなど、状況だけでなく心理状態をも光を駆使して演出する、徹底された仕掛けには感心させられる。

ただ、これは原作の段階からの問題ではあるが、加害者の不幸を強調し、被害者は強欲な高利貸しババアとする事で(『罪と罰』を意識?)、題材である死刑制度に対する観点を偏向した方向に誘導する意図が隠しきれておらず、この物語単独では感動出来るものの、これを普遍的な事例とされては困りものだ。特に本作を日本で鑑賞する人の中で多数を占めているのが、現実とフィクションの区別が曖昧な韓流ファンのオバサン達なのだから尚更。

それでも、キリスト教徒が多数派である韓国の社会性を基盤とし、その宗教性を物語展開の中に絡めて盛り込んだ上で、自己の贖罪と他者への赦しという、これは普遍的なテーマを様々に描写し、単なるお涙頂戴に終わらない様に昇華させている、脚本、演出、演技、音楽の、仕事の確かさは大いに評価出来るものだ。

ティム・ロビンス監督の『デッドマン・ウォーキング』にも似た、キリスト教の観点で死刑を描いた本作、いわゆる韓流映画とは明確に趣を異とする、広く世界に観られるべき良作である。韓国映画だからと食わず嫌いせず、機会があれば是非



tsubuanco at 17:34│Comments(1)TrackBack(3)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2009年03月30日 12:47
光と反射をよく使った映像的暗喩は、見事だと思いましたね。
日本でも、死刑囚の執行予定者の名前が、発表されるようになったらしいですね。

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