2007年09月02日

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 89点(100点満点中)

終わらない世界
公式サイト

10年ほど前、アニメファンのみならず一般サブカル層まで巻き込み大ブームとなった、庵野秀明によるロボットアニメの新作劇場版。当時のスタッフ、キャストが再結集し、四部作に分けての公開となる本作、劇場版Zガンダムの思わぬ興行的成功などに触発された企画であろう事は、想像に難くない。

オリジンとなる旧TVシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』は、"ガイナックス&庵野秀明が玩具化を前提としないロボットアニメをTVシリーズで制作"なる事前報の段階で、当時多くのアニメファンが大いなる期待を抱かされ、そして実際、ロボットアニメ、キャラクターアニメの王道のツボを的確に押さえた、期待を凌駕する良質の娯楽作品に仕上がっていた。

父親の作ったロボットに少年が乗り込み、基地を毎回あの手この手で律儀に一組ずつで襲ってくる敵を、知恵と根性と新装備を駆使してあの手この手で撃退する、このスタイルはロボットプロレスアニメのパイオニアである『マジンガーZ』が打立てた王道を意図的にそのまま踏襲したものであり、これは富野由悠季が『機動戦士ガンダム』にて『マジンガーZ』と同じパターンを意図的に用いた事例と同様。(マジンガーZを作ったのは父ではなく祖父だが)

敢えて"元祖"をなぞり、その上で自分の作品として新しいものとする、これは、クリエイターとしての自負、自信を確かに持っており、そして間違いなく結果を出す事が出来る資質、実力を備えた、選ばれし者達だけが成し得る偉業である。

そうした王道娯楽で視聴者を釘付けにしておいたからこそ、その世界が少しずつ侵され崩壊していく終盤の展開に、より一層の不安と期待の入り交じった感情を抱かされて更に目が離せなくなっていく、『新世紀エヴァンゲリオン』の面白さの核は、そこにあったのだ。

エヴァといえば判で押した様に、謎、内面世界、宗教性などのキーワードを並べ立て、それこそが作品最大の魅力であるかの様に語る人間が後を絶たないが、そうした要素はあくまでもトッピング、スパイスにすぎず、何よりもまず、王道娯楽作品としての出来が異常に良かった事で、まずアニメファンの絶大な支持を受け、それに追随する形でメディアに煽られた一般層、サブカル層などが先述のキーワードを並べ立て、まるで自分が高尚な存在になったかの様に、自分の言葉の様に語る、滑稽極まりない現象が"エヴァブーム"として認識されてしまう事態となったのは痛々しい限り。

もっとも、そうしたムーブメントが起こったからこそ、商業的な成功と定番化が進み、今回の完全新作映画化に繋がったのだから、一概に否定的になるのも大人げないとは思うが。

さて本作、完全新作、あるいはリメイクと称されてはいるが、実際に本編を鑑賞して、まず最初に気づかされるのが"旧シリーズの残滓"である。

赤い海と砂浜、巨人の跡が残った山肌、と、明らかに旧劇場版『まごころを、君に』のラストを想起させる映像から始まり観客を驚かせるも、そこから続くストーリー、映像が、今度は旧TVシリーズ第一話『使徒、襲来』と同じものである事で、また驚かされる事となる。

映画化に際して作画もアフレコも全てリファインされており、またエヴァのデザインも、初号機は緑、零号機は白の部分が多くなっているなど、全く同じというわけではない。むしろ、その"違い"こそがポイントであると刮目すべきなのだ。何故"同じ"ところと"違う"ところがあるのか。

冒頭の赤い海を思い起こせば、今回の世界は、旧映画ラストにおいてシンジが再生させた、新しい世界である、という仮説に、旧シリーズのファンであればすぐに到達出来る筈だ。一周したやり直しの世界、というギミックは、古くは『火の鳥 未来編』から、近年では『スティールボール・ラン』など、長編シリーズの定番なので、多くの作品に触れていれば、余計に自然と思い当たるだろう。

本作はソフト面とハード面での双方で、文字通りに"リメイク"なのだ。その作品意図を読み取れず、ただ「TVと同じ」としか感じられないのでは、もはやマトモに作品を語るに値しない。

敢えて同じ事を繰り返し、そこから少しずつ変えていく、これが今回『序』の作品構成であり、その"同じ"と"違い"がどこにあり、それぞれ何故そうされているのか、を注視していれば、いくらでも作品を楽しみ尽くす事は可能だ。

地下にいるのがアダムではなくリリスと最初から述べられている事、渚カヲルが月面に登場し「また三番目〜」と口にする事、シンジやミサトの人間性が幾分マシになっている事、「笑えばいいと思うよ」のシーンで、レイがシンジにゲンドウの面影を見ない事、等々、旧シリーズで明らかになった事はもう謎として引っ張らず、人物描写をよりポジティブなフィールドへ展開させる、新シリーズの方向性が如実に現われている描写、展開の数々を見れば、"同じ"部分もまた、全く違ったものに見えてくる筈だ。

映像的にも、動画がスムーズになり描画が丁寧になっているせいで、TVシリーズでは残念だった部分が補完される以上のものとなり、列車の重連並走場面の様に、CGを用いる事で作業の簡略化と見栄えの増加を両立させている部分もあり、新作として作られただけの意義は充分にある。

後半クライマックスとなるヤシマ作戦においては、かなりの新展開、新描写に置き換えられており、"新世界"である事が完全に明らかとなってくるのだが、特に使徒ラミエルのCGを用いた"変形"によって、その形態と音響で"意志"を感じさせる描写は秀逸に尽き、スナイプ対決の緊張感と高揚を一層に盛り上げる効果を果たしている。

ストーリー展開としても、トウジとケンスケとの関係を短い時間の中に上手く配置し、シンジをあらゆる意味で追い込む要素の一つと認識させる事で、ヤシマ作戦は共同作業であると更に強調し、バトルの盛り上がりを王道的に支えている、上手い追加改変と評価出来る。

やはり、エヴァンゲリオンは面白い! と再確認出来る本作、ファンなら言われなくても観るだろうが、旧シリーズを観ていないが興味はある、という人は、旧シリーズを観てからの方が、より深く楽しみ尽くせる筈だ。


余談:
当然ながら初日に観たのだが、満席完売の場内は、だが上映中は誰も雑音を立てずむしろ普段の空いた状態の劇場よりも静かなくらいで、やはり"好きな人"は時間と空間を大切にするものだ、と改めて感心させられた。

誰もが当然の様に、場内が明るくなるまで席を立たないのも同様。エンドロールの後に流される"予告"には鳥肌が立った。完成が待ち遠しい。(1年は待たされそうだが)




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この記事へのコメント

1. Posted by 力薬   2007年09月03日 20:31
こちらもチケットと座席確保に苦労しました。

最後の予告はアイキャッチが入った瞬間に確信したお客さんも多いでしょうね
DVDレンタルの看板やミサトさんが携帯(手鏡?)をいじるシーンなど、背景や小道具にも目新しさを感じました(公衆電話やカセットがそのままなのは、携帯より融通が効くとか大切な品とか?)。

破の公開は2008年元旦らしいと聞きましたが、おそらく間に合わないでしょうね。
2. Posted by Ashe   2007年09月04日 10:29
開始直前に行ったら、チケット完売で待たされました。その待ち時間に「デス・プルーフ」を見たのですが、庵野監督はまさに「デス・プルーフ」的な構造を狙っているのでしょうね。本作でも、「デス・プルーフ」同様の爽快感溢れる終り方を願いたいものです。
3. Posted by ルークofルーク   2007年09月04日 14:46
このレビューを読んで、また期待感が増しました。

とても楽しみです。

>>エヴァといえば判で押した様に、謎、内面世界、宗教性などのキーワードを並べ立て、それこそが作品最大の魅力であるかの様に語る人間が後を絶たないが・・・

の件には激しく同意し、またよりいっそう好感を持ちました。
4. Posted by つぶあんこ   2007年09月04日 17:41
ミサトが「エヴァー」って言っちゃうのが健在で嬉しかったです。
5. Posted by suda   2007年09月07日 01:30
エヴァはエンタメじゃないですよ。娯楽作品として消費するのはかまわないが、それが資本主義を延命させる身振りであるということに自覚的にならないと、いつまでたってもこの無限ループから抜け出せないわけです。
6. Posted by つぶあんこ   2007年09月07日 01:39
そんな釣(ry
7. Posted by 黒猫   2007年09月07日 21:03
観てきましたー。
面白かったですが一本の映画としての評価はどうでしょうか?
この点数は予備知識ありでの点数ですか?
私はライトなエヴァファンですが知らない人が観れば大きな見どころはヤシマ作戦ぐらいになってしまうからかも・・・
8. Posted by たば   2007年09月08日 06:46
もうね・・・エヴァは好きとかいうレベルじゃないんですよ、自分は(笑)
崇拝っていうか、それ以上って言うか(笑)
なのでつぶあんこさんの高評価が何より嬉しいです!

>本作はソフト面とハード面での双方で、文字通りに"リメイク"なのだ。
その作品意図を読み取れず、ただ「TVと同じ」としか感じられないのでは、
もはやマトモに作品を語るに値しない。

そうそう、こういう人もいるから残念です。


あと、エヴァ旧作を知らない人は、このリメイクがいかにすごいかがわからない
のが残念です〜。映像はもちろんの事、「繰り返される物語」の真意とか。
9. Posted by つぶあんこ   2007年09月10日 17:30
スターウォーズの4〜6を観ずに1を観る様なものなので、わからないのは自己責任かと。
10. Posted by yama   2007年09月16日 14:37
冒頭の仮説、相変わらず冴えてますね〜
(やはり旧作をチェックしてからみるべきやったか・・・)

>エヴァンゲリオンは面白い! と再確認出来る本作

ですね。旧作を見てないと楽しみ半減以下でしょうね
11. Posted by つぶあんこ   2007年09月17日 23:52
『新劇場版』と銘打っている時点で、旧の鑑賞が前提な事は明白なわけで。
12. Posted by more   2007年09月24日 09:32
5  テレビ版のみしか見てなかったけど、
十分面白かったです。たしかに、謎は
多かったけどね。これから旧作を見て、隙間を埋めマース。
久々に「レイプ」じゃない、映画を
見ましたよ。
作り手の熱意と痒いところに手が届く
ような配慮、心遣い、練りこまれた、
手をかけたって感じに拍手です。
13. Posted by つぶあんこ   2007年09月24日 23:28
金を稼ぐために作ったのが実情なんでしょうけど、安易な焼き直しに逃げずに真っ向から作りこんだ姿勢は素晴らしいと思います。
14. Posted by わとそん   2008年10月17日 18:44
 エヴァ(ラストはTV最終回じゃなく、映画のほう)は好きだし、今回のリメイクの作品意図ってのもわかります。
 ですが、この第1作の時点では、その意図がわかったところで、正直なところそんなに面白くなかったなあ。焼き直しは焼き直しだなあという感じで結構退屈してしまいました。
 今後への期待度によってかなり点数的には変わってくるのでしょうね。

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