2007年07月31日

ショートバス 50点(100点満点中)07-210

「ホモが嫌いな女子なんていません!」
公式サイト

性転換した男の孤独を描いた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督による最新作。

今回もまた性と孤独を題材<とした作品であり、実際に挿入や射精等を行っているセックス描写が売りとなっているのだが、メイン人物の半数以上がホモだったり、数少ない女はブスだったりと、それ目当てで観に来た人間は肩透かしを喰らって唖然とするだろう。

エロと笑いは両極の存在ながら一周して紙一重で隣接しており、当人が真顔で行っているほど客観視するとおかしくなる。冒頭に見せられる三種類の性描写の内、自慰青年とSMカップルは特にそれが顕著に現われているが、もうひとつの"通常のセックス"では、カップルの組み合わせ、容姿、大仰なリアクションといった部分で同じくおかしさを出そうと試みつつ、これは失敗しており、単に"使えないAV"にしか成り得ていない。(女の容姿があからさまにブサイクでしかも刺青までしていては、最初からどうしようもないのだが)

これは監督がゲイである事から、自身を含めたマイノリティ的性嗜好の描写においては、体験や理想を交えたリアリティを醸し出す事ができるが、いわゆる"ノーマル"に対してはそれが及んでいないのではないか、と推測されるものだ。が、どんな形態であっても結局は、男が射精したら終わりとなってしまう、現実的なセックスの有りようをまず最初に平行羅列してその事を印象づけ、そこから"イケない女"の話へと本筋を運ぶ狙いは見て取れる。

しかし、セックスをネタとしたコメディ描写には面白いものもあるが、鬱病の青年を中心としたネガティブな展開とのバランスが悪く、どこまで笑っていいのか悩んでしまうのが困りもので、またそのコメディ、ギャグなども、アナルに向かって国歌を歌うシーンの様に、作り手の旧態然とした左翼的ラブ&ピース思想が露骨なものも多く、素直に笑う事は出来ない。

よその国の事だからまだマシだが、これが日本国歌だと考えれば如何に下衆なやり口かよくわかる筈だ。そうした下衆な行為を普段から行って自覚が無い下衆な人達にはわからないかもしれないが。

セックスを明るくオープンとする、という思想もまた古臭いものだが、それが浸透しないのは、そんな事をしたらセックスの持つ魅力が大きく削がれてしまうからに他ならない。明るく楽しいセックスなど、見てもやっても少しも興奮しない。興奮=性衝動がセックスの根底に必然な限り、それを失っては快感も絶頂も有り得ない。「辛いだけがカレーじゃない!」などと、甘いカレーを作ってしまう様なもので、明らかに本質を踏み違えている。

そうしてオープンなセックスを推奨する一方で、ニューヨーク大停電をモデルとした仕掛けを劇中に盛り込んでいるのでは、方向性が不安定だ。停電で真っ暗になったから皆秘め事に勤しんだ、というネタは、オープンなセックスとは正反対のものだろう。

結局、相手のためではなく自分の気持ちが最優先されるエピソードばかりが積み重ねられ、それは愛欲であって愛とはまた異なるものではないのか、人間とは自分勝手なもので、自分が良ければそれでいいというのが実は本当のテーマなのか、とさえ思わされてしまう内に、いい音楽で誤摩化して"いい話"っぽく締められてしまい、結局どっちつかずに終止して作り手の主張は伝わって来ないままだ。

陳腐な思想と下衆な興味を惹くためのセックスと、本筋の部分はどうにも難点が多く、気楽に楽しむにもテーマを熟考するにも中途半端だが、舞台となるニューヨークを、実景ではなくチープなミニチュア的に再現し、自由の女神のアップからカメラを引き、高速でビルの谷間をすり抜けてグラウンド・ゼロへと到達したり、夜景から停電の暗闇、そしてまた明かりの復帰した夜景と、戯画的、幻想的なものとして見せる事で、物語そのものを戯画化、普遍化する狙いは面白く、映像的な作り込みの上手さは一見の価値ありだ。ニューヨークである事を多少強調しすぎ、それによって舞台がローカルに限定され共感を呼び辛くなってしまっている嫌いもあるが、本筋においてはあまり気にならない部分だろう。

性、愛、平和、自由、らの思想、主張を娯楽として見せる、日本漫画界では小池一夫あたりが何十年も前から量産していたスタイルには、何を今更、という感が強いが、無意味にセックスのタブーが多いキリスト教圏では目新しいのだろうか。

ともかく、宣伝で煽っているほどには斬新な作品でもなく、エロ目的ならもっとエロに特化した作品を観た方がいい事には相違ないが、先述の小池一夫や弓月光らの漫画の様な、ヌルいエロコメを楽しむ程度の気概で臨めば、それなりには楽しめるはずだ。自己責任で。



tsubuanco at 16:07│Comments(0)TrackBack(7)clip!映画 

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