2007年08月13日

アコークロー 94点(100点満点中)

100万パワー+100万パワーで200万パワー!!

沖縄を舞台に、精霊キジムナー伝説を題材とした、オカルト・サイコホラー映画。

沖縄と言えば日本有数のリゾート地、楽園として知られるが、その一方で、日本の外れの孤島であり魔境である、という、陽と陰の双方の側面を対照的に描いている事が、まず本作の特徴と言えるだろう。

これは、沖縄で生まれ育ち沖縄の裏も表も知り尽くしている監督によって書かれたストーリーと、切り取られる風景によるものが何より大きく、スタッフのほとんどが沖縄出身、在住者で構成されている事もまた、その一因となっているのだろう。

基本として本作は、先述の"陰と陽"のギャップを用いた仕掛けによって、独特の雰囲気、衝撃、恐怖を演出する手法が多く用いられている。

それはまず、プロローグとして見せられる、本筋とは関係の無い"事件"のシーンで既に明らかだ。まず沖縄のビーチで楽しく遊ぶ若い女性を、長いカットでじっくり見せておいて、その直後に急転して"恐怖"の映像を登場させ、そこから一気に作品カラーはホラー映画になだれ込む。ここまでの展開させ方だけでなく、ホラー描写そのものの見せ方が上手い事に気づかされ、大いに期待させられる。と同時に、"謎の美女"をも登場させて興味を更に惹かせ、その言動で今後の展開を案じさせて一層に期待を膨らまされる。

プロローグの段階で確実に怖がらせられ、驚かされ、期待させられた作品としては、『リング』以来久々であると評して過言ではない、掴みとしてはほぼ完璧な出来だ。

そして期待は裏切られる事なく、主人公(田丸麻紀)の、登場してすぐに回想として見せられる交通事故シーンの、驚愕と絶望を観客に叩きつける映像構成、演出、音響効果の巧みさ。同じく中盤にまた登場する交通事故シーンでも、前フリの段階で事故りそうな予感を観客に抱かせておきながら、果たしてその通りになった時にしっかりと観客を驚かせる事が出来る、視点の確かさと演出の上手さには感服する。

冒頭のプロローグから通して、長めのカットを多用。カメラワークによる視点の誘導で観客の目を釘付けにし、カメラが動く先に何が待ち受けているのかと期待させ、役者の演技によってその世界にリアルに同一視させられてしまう、と、計算された映像構成と演出からは目も心も離す事が出来ず、ある程度予測の付くところで、その通りに展開しても、やはり驚かされ怖がらせられるとは先述の通りである。

一体いつ終わるのか不安で仕方なくなる、カマを振り回す乱闘シーンの、役者達の動きに合わせたカメラ移動の自然さ。"悪夢"を何度も何度も繰り返すくだりでの、同シチュエーションを微妙に変えていき恐怖につなげる、構成アイディアを活かす演出と映像の巧みさ。と、例を挙げればキリが無い、いちいち怖い、いちいち驚く、いちいちドキドキハラハラする、ツボを的確に付いた描写が連続する後半は、ホラー好きなら楽しくて仕方ないはずだ。

沖縄の"陽"を押し出した、前半部分における"日常"描写の楽しさ、癒しの場面が、ある程度長めに用意されている事が、そんな怒涛の展開への前フリとして有用に機能している事は言うまでもない。その"陽"の場面で用いられたシチュエーションや構図を移行して、"陰"へと変転させて更に恐怖や不安を煽る、狙い澄まされた構成は憎いほど秀逸。

沖縄の海岸の水平線と夕日、それを座り見るカップル、という美しい筈の構図の中に、"呪い"の本体が中央に映り込みながら、それが"異物"とはならずに構図の一員として風景に溶け込み、"沖縄の陰と陽"を象徴的に表現しているカットなどはその白眉であろう。

陰と陽の両方のシーンで流される三線によるBGMが、同じ楽器と音色ながら場面の空気に合わせて和やかにも恐ろしくもなる、ホラー定番のノイズや不協和音を用いた音響演出だけでなく、"沖縄映画"として独自の恐怖音を生み出している、この手法も印象深い。

その様に、沖縄の独自性を前面に押し出しつつ、そのものの基本構図は実は、日本古来の怪談物語に忠実なものである、というギャップに気づかされた時、また違った面白さが見えてくる。

本作に登場する"幽霊"(の類)は、祟りの対象に対して能動的なアクションを起こさず、ただボーッと立って見ているだけに過ぎず、対象者自身が勝手にそれに恐怖して自滅する構図は、これは明らかに怪談のそれである。その動きの無さが、生前の凄惨なアクティブさとのギャップによって恐ろしさを生んでいる。

その自滅の描写によって、プロローグで霊能者が述べた講釈のフィールドへと観客の予想を誘いながら、また違った展開へと持ち込んで更に興味を持続させる、最後まで手を抜かないサービスぶりは嬉しい限り。

霊能者が登場する点においても、オカルトとしての考証を入念に整え、それによって現実とフィクションの境界を狭め、観客を作品世界へ移行させる一助を担っている事も忘れてはならない。こうしたディテールに凝る事で、非現実的な作品を楽しめるかどうかが決まって来るのだ。

そんな監督の狙いを体現している、出演者達の演技も評価されるものだろう。不安感のあった田丸麻紀も問題なく、『コワイ女:鋼』に続いて異形の女担当の菜葉菜による、一面的でない狂気と寂寥を演じきったセンスと気合は賞賛に値する。(顔は酒井若菜に似ているが胸は似ていない)

残念なのは、プロローグのサイコホラー的な示唆と実際のオカルト的要素との整合、移行の段取りに不充分さが感じられた事と、子供が草むらでいきなり倒れている理由がわかりづらかった事くらいで、オカルト・サイコ・ホラーとして、小品ながら近年では格段に出来のいい作品と断言する。

オカルト、ホラー好きなら間違いなく必見。出来れば劇場レベルの音響設備での鑑賞が望ましいところだが。


tsubuanco at 23:46│Comments(1)TrackBack(1)clip!映画 

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1. アコークロー  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2007年09月16日 21:49
「アコークロー」とは沖縄の方言で、夕暮れ時。つまり「明るく暗く」が訛ったようだ。公式HPのurl見ると、「クロー」がcrowとなっており、カラスのように思えるが、確かにカラスも黒いが暗うとは違うだろ。

この記事へのコメント

1. Posted by 関東の貴   2008年07月14日 12:57
ようやく観ました。カマ振りかざしの場面では切り傷を負う描写に痛みを感じさせる迫力があり、「早く取りおさえろ!」と心の中で思ってしまうほど。

長回し、巧い役者、地味ながら不気味な演出に感心しきり。これからは沖縄旅行に行く度、この映画を思い出す事になるのだろう。。

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