2007年08月01日

石の微笑 86点(100点満点中)

君を知ったその日から 僕の地獄に音楽は絶えない
公式サイト

イギリスのサスペンス作家、ルース・レンデルの同名小説を原作とした、フランスのベテラン映画監督、クロード・シャブロルの最新作。

誰もが『氷の微笑』を想起させられるこの邦題、危険な女に溺れて人生を踏み外す男を描いたサイコ・サスペンス映画、という側面は似ていなくもないが、バーホーベン監督作品の様に、わかりやすい娯楽性を前面に押し出したものでは当然なく、ヌーヴェル・バーグの名残が色濃い、味わい深い作品である事がまず本作の特色だろう。

冒頭の高速横移動ショットにて物語世界へと導入される強引さ、言葉によるやりとりの多さとは裏腹に、その言葉の中に本当に必要な情報は限られ、それでいて、どの言葉が重要なのかは画面から漂う空気から感じ取る事が出来る、全編に渡って制御されている、映像と内実の絶妙なシンクロには、目を奪われてしまう。

兄妹がテレビを巡って揉めるファーストシーンにおいて、主人公をテレビ画面の前に立たせ視覚的な障壁とし、主人公の性格の一端を的確に表現している画面構成や、車内にいる主人公の、背景の階段に立って静止している店員の立ち位置と姿勢の配置の見事さなど、その画面を通じて作り手が観客にどう感じさせたいのか、の狙い通りに操られてしまう、映像、演出の作り込みの徹底には驚嘆する他ない。マーケットに入ってきた、疲れた中年女性の様子に対しては何らフォローをしないながら、実は物語展開の一因となっている場面なども同様。

オチの意外性や謎解きがメインではなく、強い偏愛を持つ者同士が惹かれ合い堕落していく様こそが見どころであり、主人公とヒロインのやりとり、駆け引きを、一方の視点に寄らずに描写し、観客が知る事が出来るものと、そこから想像されるものを混同、混乱させ、予想通りに話が進んだとしても落胆を感じさせない様に考えられた視点転換は秀逸。

だが一方で、主人公の偏執的な性質は冒頭のTVに関するやりとりでわかり、石像に対する執着、偏愛の描写も要所に効果的に配置され、展開に対する不安を増幅させてはいるが、何故そこまで石像を偏愛しているのか、および、石像とセンタを同一視してしまった、という、物語の基点となる部分が伝わり辛く、それによって、物語に対する理解が、特に序盤では遅れがちとなってしまう傾向がある事も否めない。

物語を支配する謎の女・センタを演じるローラ・スメットが、客観的に見てあまり美人ではなく(控えめな表現)、それに従い彼女に似ているとされる石像も、美しさという観点からは評し難いものとなり、余計に理解が阻害される事となっているのが残念だ。

日本で言えば松たか子の様な、親の威光で美人という事にしてもらっている女優である彼女、ヨーロッパ女優の例に倣い脱ぎっぷりは潔いが、それだけで魅力を補うのは困難であり、演技が上手いほど却って引いてしまう結果となる。主人公の二人の妹が共に美人な事も、その欠点を引き立たせてしまっているのではないか。

とは言え、クロード・シャブロル監督による、非の打ち所のない演出、映像が堪能出来る作品であり、映画好きなら必見の一本である事は間違いない。機会があれば是非。


tsubuanco at 17:22│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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