2007年09月19日

題名のない子守唄 55点(100点満点中)

家政婦は見た!
公式サイト

『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』などで知られるイタリアの映画監督、ジュゼッペ・トルナトーレの、『マレーナ』以来久々となる最新作。

前作『マレーナ』では、大人の女性への憧れを男性視点で描いた物語だったが、今回は謎めいた中年女性を主人公として、彼女に感情移入させる方向性となっている。

倒錯したエロスによって観客をいきなり世界に引きずり込む、ファーストシーンの演出、映像は面白く、それとフラッシュバック的に交互に見せられる、疲れた中年女の映像によって、シーンの異様さは格段に増し、その二つの場面が一瞬で繋がって意味が判明する、仮面を外すカットでのタイミングと切り方は絶妙。

主人公が面倒を見る事となった少女に対する態度、優しさと厳格さとそれが暴走する狂気じみた行動描写には感情を強く揺さぶられ、過去の辛苦が回想として挿入されるタイミングも的確で、より観客を刺激する効果をあげている。

そうした、映像、演出的な見せ方で興味を持続させる手法は変わらず秀逸ではあるが、ストーリー的な仕掛け、構成に、今ひとつの練りの甘さが感じられ、全体的な完成度を下げてしまっているのは残念。

「結末は誰にも教えないでください」という主旨のテロップが最初に表示されるが、これが、普通に観てさえいれば誰でも途中で予想のつく程度の真相とオチでしかないため、最初に御大層なフリで期待させておいてこの程度か、と落胆させられる事が、まず問題の大きな一因である。余計な事をしなければよかったのに。

主人公が抱えている謎が、序盤から順々に披露されていく回想や、彼女自身の動向などから容易に想像出来る範疇に収まっており、意外性も驚きも無く、予想した事がそのまま正解なのだから困る。

コッソリ鍵を奪う描写を見せられたら、それをどうするのかは簡単に予想がつくのに、その通りの事を延々と続けられて意外な事は特に起こらない、と、そういった展開が非常に多い反面、サスペンス、ショックの描写自体は巧妙に作り込まれており、わかっている事でドキドキハラハラさせられようとしている状態に、どうしたものかと困ってしまう局面が多々見受けられてしまう。

身分証をコッソリ奪われる、大事な靴が片方無い、と、思わせぶりな描写であれこれ想像させておいて、そのオチが想像していたもの以下の陳腐さだったりと、いちいち物足りない。

観客にとっては早い段階から明らかになっている相関関係を、ご丁寧に長台詞で説明する終盤の展開も蛇足だ。

そうして先読みが出来すぎる、丁寧すぎる伏線と開示に終始する展開の中に何故か、どう考えても死んだと思っていた人間が実は生きているというくだりが二回も存在し、こちらはあまりにも乱暴すぎ、意外性どころではなくなっているのも大きな問題である。

実は幻覚だった、あるいは何らかのトリックなどがあるのか、と思いきや、本当にその人が生きていたそのままでしかなく、別の意味で驚かされて呆気にとられる他無い。丁寧に人間を描きながら、ジャンプ漫画並に有り得ない生存を堂々と見せる意味がそもそも不明だ。

これによって、作品世界を受け入れていた筈の観客は、このお話が作り物であると一気に引き戻されてしまう事となる、致命的な欠陥と言える。

実は死なない人が"死んだ様に見える"場面では、執拗にその顛末を時間をかけて見せ、その凄惨さによって観客を惹きつけておきながらの結果だから尚更だ。しかも"本当に死ぬ"描写はアッサリ一瞬で済ませるに至っては、明らかに選択が逆だろうと突っ込みたくて仕方なくなる。

冒頭で謳われている謎解き、ミステリードラマとしては完全な落第点。あまり映画を観たり本を読まない人ならともかく、これで驚ける大人がいるとは思えない。

が、人間の裏と表の心情や感情を、戯画的にドラマティックに描いてみせる手腕は秀逸で、そちらの観点ではかなりの楽しみを得られ、決して観て損はしない作品ではある。機会があれば。


tsubuanco at 18:00│Comments(3)TrackBack(15)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ノイズ(映画好き:ビギナー)   2007年11月05日 00:43
つぶあんこさんはこの作品以外のトルナトーレ監督作品は好きですか?既に観た作品に、普段の記事の様に採点して返事して頂けると嬉しいです。
2. Posted by つぶあんこ   2007年11月06日 19:10
観たのがずいぶん前なので、客観的な評価はあらためて観ない事には何とも。
3. Posted by kimion20002000   2008年06月25日 23:21
サスペンス・ミステリーの手法には、このスタッフたちは慣れていなかったのでしょうね。部分、部分は、ヒッチコックなんかの引用もしているのにね。
でも、人間ドラマとしてみれば、やはり、映像の作り方も、とても優れていると思いました。

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