2007年09月15日

ミス・ポター 41点(100点満点中)

愛…、知りそめし頃に…
公式サイト

イギリス発の人気キャラクター、ピーター・ラビットの原作者である、ビトアリクス・ポターの半生を描いた作品。『ブリジット・ジョーンズの日記』のレネー・ゼルウィガーが、ビアトリクス役として主演。

監督が『ベイブ』のクリス・ヌーナンであり、実写映像内にてアニメーションで動くキャラクターを印象付ける予告編の作り方からも、"ピーター・ラビット誕生秘話"的な物語を予想していたのだがそうではなく、ビアトリクス本人の、主に恋愛を中心とした人生模様を追う内容となっている。

また、作品内で提示される事物、人物にまつわるあれこれには、かなりの創作、改変が加えられており、これを"伝記映画"と称するにも多少の無理がある。梶原一騎の『男の星座』の様な類いの、あくまでもフィクションであると認識した上で鑑賞した方がいいだろう。

だがフィクションドラマにしては、彼女の人生の何に重点を置いてドラマティックに見せたいのか、の狙いを散漫に感じ、といってそれを「実話だから」と擁護するには、創作改変の多さからも無理がある。全体の構成と方向性が中途半端に感じる、どうにも締まりのない作品に終わっている。

当時のイギリス社会における、階級や性別、年齢などの諸問題と、それに対する主人公の動向、今で言う腐女子的な中年女性の恋愛模様、あるいはサクセスストーリーや成功後の自然保護活動など、いろいろとビトアリクス・ポターに関する要素を盛り込みながら、どれもにも的を絞りきれず、結果としてあらすじをなぞった様な、総集編を見ている様な印象を受けてしまう事となる。

一応は、仕事と恋愛がまず順調に進んでいくくだりを"起承"とし、そこからの急落と再起を"転結"とする、物語の組立ては行われてはいるのだが、"転"によって変移する図式が余りに唐突な上、そこまでのドラマをなかった事にしてしまう様な流れとなるため、余計に視点が散漫となってしまうのだろう。

"転"の悲劇によって、彼女は精神的にドン底に陥ってしまうのだが、仕事部屋に籠る主人公が、自ら創作したキャラクターの幻影に苦しめられる描写で、悲しみのあまり作家としても駄目になってしまう、としたまでは良かったものの、そこから作家として再起するに至るまでに、どの様な苦悩、確執、克服があったのか、といった、今後の展開に必然とされる筈の段取りが欠落しており、ために終盤の締まりのなさがより強まっている。

そもそも、「こんなところにいては駄目だ!」と言われて仕事部屋を放棄したのでは、再起につながりようがないとしか思えない。ここはやはり「おれの恋人は漫画や!」と叫んで机に向かう満賀道雄のごとく、逃避せず正対して人生を昇華する様を見せつけてくれない事には、観ている側も入り込めないのだ。

自ら作品を出版社に持ち込み、親にもいちいち反論するなどの"芯の強さ"を前半では表現していたのだから尚更である。スッパリ忘れて切り捨てる事で"強さ"を表現したのでは、まさかないだろう。

仕事上のパートナーから人生のパートナーへと視点が移行する、という、内に籠って働く女性が陥りがちな勘違いを、コミカルな恋愛ドラマとして描いてみせた前半の展開は、特定のモデル関係なく普遍的な図式を見せ、それなりに感情移入して楽しめる様には作られており、そのままの方向性で最後まで進めてくれさえすれば、後味はもっと良いものとなっていたかもしれない。

また、いくらそれが主眼ではないとは言え、「売れない」と思われていた作品が何故ヒットしたのか、当時の他の作品とはどんな風に違って消費者が魅力を感じたのか、といった、最低限の成功理由くらいは触れておかないと、物語の基点にそもそも納得いかないだろう。

アバンタイトルにおいて、水彩画のテクニックを見せる映像展開にしても、そこから何かの絵が出来上がるわけでも、その後のシーンにつながるわけでもない、単なるイメージの羅列でしかないのでは、必然性にも面白みにも欠けるものであり、最初の時点から設計の不備は露呈していたのだ。

退屈こそしないが、興味深い実話を元にしながら、それを充分に活かしきれなかった感が強い本作。キャラクターや作者に興味があるならとりあえずは要チェックだろうが、レンタル待ちでも充分か。自己責任で。




tsubuanco at 23:45│Comments(0)clip!映画 

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