2007年09月10日

サッド ヴァケイション 78点(100点満点中)

石田えりの流出動画ください
公式サイト

浅野忠信主演映画『Helpless』(1996年)の10年ぶりの続編であり監督・青山真治の最新作である本作、同監督による『ユリイカ』(2000年)からもキャラクターを登場させ、九州を舞台とした青山真治映画の世界観が、今回でひとつに融合する事となる。

『Helpless』から浅野忠信他、『ユリイカ』から宮崎あおい他の人物が、そのままの過去を背負って登場し、二人の"その後"を二本柱として進行するストーリーだけに、その二作をあらかじめ観ておく事は必須事項である。

一応、『Helpless』の大まかなあらすじは冒頭テロップで説明されるが、本当に大まかでしかなく(そもそも青山作品において、あらすじは重要ではない)、主人公・健次(浅野忠信)とヒロイン(?)ユリ(辻香緒里)の特異なキャラクターを知らない事には、今回での変化、あるいは変わらなさを感じ取る事が出来ず、『ユリイカ』に至っては、後半になってホンの触りが梢(宮崎あおい)の口から語られるだけで、観ていない事には彼女の存在の意味も、彼女を捜してドツキ漫才をする二人の男の意味も、完全に意味不明だ。

当然だが、全二作を観ていない事が理由で「わからない」事があっても、それは観ていない自分が悪いのであって作品の責任ではない(宣伝の責任はあるかもしれないが)。観ていない事には、どうこう言う資格すらないのだ。

さて本作、ロードムービーの体裁をとっていた前二作とは異なり、健次も梢も、少なくとも作中ではひとつところに留まって定住する、正反対のかたちが取られているのは、意図的なものだろう。

『Helpless』で文字通り暴走を見せた健次が、10年経った今回では、冒頭の"仕事"シーン及びその後の自転車シーンなどで、その暴走が影を潜めている事が観客に伝えられる描写によって、最初からその事は明確である。

"裏稼業"に従事し、道路を二輪車で走る、前作と相似した描写、映像を用いつつその顛末を異なったものとして、健次の(表面的な)変化を見せられ、10年の歳月を観客もまた背負わされる事となる。

そうした"善良"然とした振舞いとは裏腹に、その表情や仕草によって"内面"を推し量らせ、徐々にあらわになっていくギャップの正体に、やはりコイツは『Helpless』の健次なんだ、と改めて認識させられる終盤の展開には、複雑な想いを抱かされる事は間違いない。

あっけらかんとした外面に対し、悪魔が潜んでいる様な内面をそれとなく提示していく、健次とその母(石田えり)の両者の演技、演出の、狙い通りに観客に予想、期待させておいて少し斜め上を行って気持ち悪くさせる、監督の得意とするやり口は今回も健在。

同じく監督が好んで用いる、執拗なまでの長回しもまた、今回も大いに多用されて観客の目を惹きつけているが、それとは正反対に、テンポの速い単純な切り返しをも、あまり重要でない場面に挿入する事で、そのギャップによって長回しの持つ意味を更に深め、観客の感情をより引き出す様なされている仕掛けが秀逸だ。

画面を固定しない長回しによって、人物が動く先を敢えて見せず、その先にあるもの、起こりうる事を観客に悪い方へ想像させて感情を煽ってから視点を先へと振る、この手法も10年前と変わらず効果的に用いられ、大いに心臓に悪い作品となっているのが嬉しい。

(シーンとシーンの繋ぎ目にて時系列を交錯させるなどの映像演出に関する事項は、撮影監督の映画批評に詳しく書かれているので省略)

ただ、前二作の両方に別の役で出演している光石研を、今回は『ユリイカ』側のキャラクターとして出演させた事で、『Helpless』側にて彼が演じたキャラクター(ユリの兄)の方がインパクトが強かったせいもあって、視覚的な違和感が常にまとわりついて離れず困ってしまう現象が生じ、これはそうならない様に考えて出演させるべきだった筈だ。片方の顔を映さなければいい程度では済まされない。

まるで浅野忠信とダブル主演の様な宣伝をされているオダギリジョーは、あくまでも客寄せ的なキャスティングでしかなく、ひとつところを動かない本作にて、ロードムービー的映像を見せるための場面を用意され、また、梢と絡む事で彼女自身の成長を表現する役割にもなってはいるが、やはり本筋にはあまり関係ない位置づけに終わっており、大人の事情を感じさせるものだ。

が、浅野忠信とオダギリジョーのツーショットには、ミニシアター系日本映画における主演俳優の世代交代的な意味合いが感じられ、別の意味での楽しみは得られはする。

宮崎あおいからすっかりオーラが抜け落ちているのは、過去を乗り越えて"普通の人"になろうとしている役柄を表現してのものかは不明だが、キャラクター位置的には適していると言って問題ないだろう。

石田えりが浅野忠信の母親にはとても見えないのは問題だが、そもそも40代後半にして尚エロエロな美熟女フェロモンを振りまいている彼女は、年齢差はさておき"恐ろしい女"としての役どころにはハマり役ではある。近年の青山真治ながら誰も脱がなかったのは大きな欠点だが。

また、観賞後の後味を良くしようと考えたのか、それまでの空気を一変させて拍子抜けさせる様なラストシーンは、これは本当に拍子抜けさせられるので失敗ではないだろうか。

『Helpless』『ユリイカ』が気に入った人なら当然必見であり、知らないが出演者などに興味があるという人は、先に前二作の予習は必須だ。青山真治による演出と、出演者達の表現を堪能出来る本作、映画好きなら観て損はない一作ではある。機会があれば。



tsubuanco at 17:21│Comments(4)TrackBack(4)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 名無しさん   2007年09月19日 18:10
銀河鉄道999にキャプテンハーロックが出てくるようなもんですか?
2. Posted by つぶあんこ   2007年09月20日 17:50
大甲子園に真田一球が出てくるようなもんです。
3. Posted by たば   2007年09月22日 10:56
『Helpless』の続編って聞いてましたが、『ユリイカ』のキャラも出てくるんですね〜。
自分は『ユリイカ』サイドのキャラの行方が気になります。
まぁ近くではやらないからいつか必ず見ますです!

>宮崎あおいからすっかりオーラが抜け落ちている
んですか!!?残念だな〜。
以前に比べてずいぶんとテレビに出るようになったからですかねー。(逆説的に)
4. Posted by つぶあんこ   2007年09月24日 23:25
青山作品は自宅鑑賞だと集中力を要求されがちなので、頑張ってください。

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