2007年10月01日

ストレンヂア -無皇刃譚- 60点(100点満点中)

名乗る程の者ではござらん
公式サイト

チャンバラや伝奇を主目的とした時代劇アニメ、というジャンルは、古くは『どろろ』『忍風カムイ外伝』などから、現在に至るまで作られ続けているが、昨年放送された伝奇時代アニメ『天保異聞 妖奇士』の制作スタジオであるBONESによる劇場用アニメである本作もまた、その流れを汲む戦国チャンバラものである。

劇中で"明国"と語られる事から、時代設定が戦国時代あたりという事は想像出来るが、特に年代を特定する様な描写を敢えて行っていないのは、それによってリアリティを無視した荒唐無稽さへの違和感を軽減するためだろう。

動きは凄いが脚本と見せ方に難があると評されがちなBONES作品の例に漏れず、本作もまた、ビジュアル的な見どころは数あれど、肝心のストーリー、人物描写にはかなり難があるため、全体的な完成度としては手放しで評価出来たものには至っていない。

腕は確かな流浪のヒーローと、秘密を隠し持っているため追われる子供との道連れの旅、というフォーマットは、先に挙げた『どろろ』を踏襲したものであり、作品を構成する設定、図式のほとんど全てが、過去にどこかで見た様なものばかりで埋め尽くされ、新鮮味が全く無い

王道や定番といえば聞こえはいいが、それは基本的なお約束をしっかり踏まえた上で、独自色をもしっかりと出してこそ、独立した作品としての面白さが生まれるのであり、本作は単にありがちなアレコレに終始するのみで、ラストシーンすらお約束の極地の様な、パロディにすらなってしまいそうな展開でしかなく、作り手の狙う面白さは、ストーリー面においてはほとんど感じられない。

最初と最後にアクションを配置し、中盤はドラマで繋ぐという構成はありがちで、その場合は、最後に待ち受ける大アクションに到着するまで、観客の興味を惹き続けるには、中盤ドラマ部分こそが魅力的でないといけないのだが、本作では、無駄に多くの登場人物が意味ありげに出てくるため、肝心のメイン二人の心情、感情の変遷すら描写が明らかに不足しており、そうならないと話が進まないからそうなったのだ、と、観客に無理から思わせて脳内補完させないと成立しない事になってしまっている。

これは、メイン二人に限定した場合でも、見せ方の配分に難があるためで、序盤の二人の噛み合わないやりとりが無駄に長く観客をイライラさせていながら、その距離間が徐々に縮まっていく、次の段階のドラマがただ台詞による説明の応酬に尽き、互いの心情的な理解や疎通、あるいはその逆が演出、描写として充分ではない事が原因である。

ために、終盤の展開からエモーショナルな盛り上がりが欠落しがちとなり、確かに動きは凄いが展開としてはベタなお約束に終始するだけとなってしまうのだ。ベタな展開は心情的なバックボーンがあってこそ初めて王道として成立するのだが、本作にはそれが無い。

名無し(長瀬智也)の過去のトラウマが徐々に明らかになる事と、ストーリーの盛り上がりとが今ひとつシンクロしていない事もまた、燃えや盛り上がりを低減させる一要因だろう。"子供を救う"結果に結実させる狙いはいいとしても、そこに至るまでの逡巡や葛藤、克服が何一つ描かれていないのだから、これまた"ありがち"に尽きてしまっている。

仔太郎(知念侑李)の連れる犬が名無しを慕い守ろうとする描写などは、何故そうするのか、という背景が全く描かれていないため、ヒーローだから、と、ストーリーさえも記号化さてしまう象徴的な存在に堕してしまっており、作品の質を大いに下げている。何かほんの少しでも、観客に暗示を与える様な描写が一つでもありさえすれば、記号から脱するだけでなく、人物や物語に深みを与え、作品に独自性を持たせられていた筈なのだから、こうした部分は決して手を抜いてはいけないのだ。

あるいは、意図的にベタなお約束、記号的な描写に終始して、その空虚さを終盤の死屍累々で嘲笑するといった狙いがあったのか、とすら考えさせられてしまう、人物や物語描写の底の浅さや投げっぱなし使い捨て度合いは酷い。重郎太の死亡フラグなどは笑いを堪えるのに必死になる程だ。

アニメーションとしての映像的な見どころにおいても、冒頭のシーンで見せられる、明の一団と盗賊との乱闘シーンの一連のアクションシーンが、ここだけ他とは違う人間が作画を担当したからか(伊藤秀次によるもの)、やたらとアップの画面が多く、それを激しく動かしてスピード感と迫力を出そうとしてはいるが、映像構成としての前後のつながりが散漫になってしまっているために、両勢力が明確に色分けされていながら、どちら側の視点からの描写なのかすらわかりづらい状態となって、実写も含めた近年のアクション映像の悪い方の典型でしかないものに終わっている。

真っ先に観客の目を引いて、作品の魅力を伝えなければいけない筈のファーストシーンの出来が一番悪いせいで、今後の展開に期待出来なくなてしまう状態は非常に問題だ。これは人選を行った人間の責任であり、現場で気づけなかった監督にも責任はある。

一方、終盤に展開する凄惨な戦闘シーンの描写は、序盤のそれに比較するまでもなく、動き、見せ方ともに段違いに出来がよく、ここに至るまで内容の無いお話を延々と我慢させられていた不満はほぼ解消される。

特に、崩落する砦の瓦礫の描写や、火矢が無数に発射され飛び交う映像など、人物以外で戦闘の激しさを表現するパートでの、画角と動画のセンスは一流だ。(金子秀一よる作画らしい)

レイティングの関係で、直接的な残酷描写を控えがちなため、それが見せられるシチュエーションとそうでない時との、明らかに感じられる"配慮"には若干醒めもする。両勢力の弓使いの最期などは、ハッキリ見せない見せ方として、画面移動のスピード感とシンクロさせる事で上手い演出と感じられるが、一方では鞭使いの死に方などは、ベタで冗長すぎて面白味に欠ける。何故負けたのかの説得力が薄いため尚更だ。

また、一番盛り上げないといけない、この終盤のアクションシーンにも拘らず、延々と同じ音楽が鳴り続けているのは手抜きが過ぎるだろう。エンドロールまで同じ曲なのはどういうつもりなのか。

劇場アニメでは毎度の様に取沙汰されるタレント声優に関して、"主人公"である仔太郎を演じた知念侑李の、棒読みの酷さと役柄とのそぐわなさは尋常ではない。もともと生意気なガキという印象を与える役どころなのが、ヘンな声と下手な演技のせいで本当に鬱陶しいだけになってしまい、こんなガキは助からなくても構わないとすら思わせてしまうのだから最悪である。出来もしない人間を押しつけたジャニーズが完全な悪だ。

一方で"名無し"を演じる長瀬智也は、キャラクターデザイン自体が長瀬智也っぽい事も加味し、全く違和感のないキャラクター演技をこなしており、大いに評価出来る。ドラマでもマンガ的なキャラクターを演じる事が多かった経験が活きているのだろう。前者との演技力のギャップの余りの大きさは、可哀相になってくる程だ。

敵が明国人なため、彼らは基本的に中国語で話し、日本語字幕でその内容が表示される様になっているが、いきなり流暢な日本語で会話をする場面があったりと、仲間内での会話は日本語に変換しているのかと思いきや中国語同士の会話もあって、切り換えの意味が明確でない事が、終盤で羅浪(山寺宏一)が片言の日本語を話す場面の持つ意味合いを薄めてしまっているのは残念だ。狙いは面白いのだから、徹底してほしかった。

喰いつけない序盤、出来の悪い脚本、と、大事なところでのマイナス面が大きい事も確かだが、終盤アクションシーンの映像的快感に大いに救われるため、鑑賞後感は決して悪くない本作、アニメーション好きなら観て損はない一品ではある。機会があれば。


tsubuanco at 16:51│Comments(8)TrackBack(4)clip!映画 

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4. ストレンヂア  [ ケントのたそがれ劇場 ]   2007年10月28日 16:48
★★★☆  平安時代か鎌倉時代か、しかし鉄砲があるところをみると、もっとあとの時代なのか。余り時代考証にはこだわりがなさそうだが、とにかく戦乱の時代劇というところか。 はじめ少年仔太郎は、もしかして女の子ではと思った。だが入浴シーンで、男の子であることが判

この記事へのコメント

1. Posted by 爽泉   2007年10月02日 15:33
羅狼が使っていた剣はいわゆる倭刀ですね。
2. Posted by つぶあんこ   2007年10月03日 17:38
直刀でしたからね。
3. Posted by 力薬   2007年10月07日 18:53
原画陣にアクションカットで名を馳る人が多いと聞いていましたが、一応私めには大体期待どおりでした(もうちょいがんばってほしかったとこもありますが)。
動画配信サイトで冒頭5分だけ無料配信てなことをやってたみたいですが、あれはむしろ失敗でしょうね

あとこれの演技において知念氏は実写ハットリより劣化してるような気がしないでもないです。
4. Posted by つぶあんこ   2007年10月08日 23:23
声だけの演技はまた別ですからね。
5. Posted by ケント   2007年10月28日 16:53
こんにちはTBお邪魔します
それにしても完璧な解説には脱帽いたします。
ストーリー展開は「どろろ」で絵は「カムイ外伝」という感じがしますね。
6. Posted by つぶあんこ   2007年10月29日 17:58
いやあ、抜けが多くて困ってます。
7. Posted by わとそん   2008年10月20日 22:53
 WOWOWで見ました。
 思ったより悪くなかったです。面白い絵空事を見せてもらいました。
 アクション面でのつぶあんこさんの感想は妥当ですが、その他の面での指摘はちと辛いように思いました。
 この作品の場合、理屈付けもしすぎるとうっとうしいので、批評してやろうとかあら捜しをしちゃろうとか思いながら見ない限りはキャラ描写や展開的にもあれでまずまずではと感じました。
 それにご指摘の面での完成度を上げてもさほど「面白さ」のレベルアップにつながる類の作品でもないと考えます。
8. Posted by うどん   2011年04月27日 14:44
4 知念君の棒読みっ振りが酷過ぎるせいで
話に集中出来ないっていうのはどうだろう。
ゲオで¥50で借りて観たからそんなに腹は立ちませんでしたが、映画館で観たら怒っても良いレベルですね。

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