2007年08月17日

トランシルヴァニア 44点(100点満点中)

リサリサ先生、タバコ逆だぜ
公式サイト

ジプシー(ロマ)を題材とした映画を撮り続けている、トニー・ガトリフ監督によるフランス映画。

トランシルヴァニアといえば吸血鬼ドラキュラ発祥の地である。また、イタリアンホラー映画の巨匠、ダリオ・アルジェントの娘であり、子役時代より彼の作品で酷い目に遭わされ続けたアーシア・アルジェントが主演でしかも、予告編の映像で、何やら怪しげな宗教儀式めいた場面で頭から白い液体をぶっかけられている映像などを見せられるに至り、また彼女が大変な目に遭いまくるオカルト映画なのか、と勘繰らされた人は少なくはないと思われる。

が、あくまでもトニー・ガトリフ作品である事を留意していれば、そんな間違った期待は抱かない筈であり、宗教、オカルトめいた描写が少しあり、ヒロインが大変な目に遭いまくる事は確かだが、オカルトやホラーといったジャンルの作品では全く無いので注意が必要。

トニー・ガトリフ作品であるから例によって、ストーリー自体よりも映像や音楽、演技といった面で観客の感情に訴えかける方向性は変わらず、今回はチャウシェスク独裁政権崩壊後の混沌のルーマニアを舞台とする事で、主人公達の内面的な混沌と重ね合わせ、更に彼らの流浪をジプシーの流浪に当てはめて描写する、ドキュメント的手法を多用したロードムービーに仕上がっている。

そこにジプシー音楽を流し続ける事で、その場での状況あるいは心情をより明確なかたちで観客にイメージさせ、テーマを伝えていくやり口も変わらず。BGMと現実音楽の使い分けによって場面の意味をも変えていく演出も上手い。

ただ問題は、求めていた愛を失って以降、ひたすらに逃避を続けるアーシア演じる主人公と、彼女によりそって旅をする男、の両者とも、延々と"逃げ"の動向ばかりがクローズアップして描かれるため、それらには全く共感も感情移入も出来ない、根本的な部分にある。

そもそも序盤から愛を求めて異郷の地にやって来た事自体が"依存"による"自己からの逃避"であり、友人に依存し浮浪児に依存し、最終的には自ら作り出したものに依存する、こんなどうしようもないダメ女を、アーシア・アルジェントは文字通り体当たりで演じ切っており、その事には感服するが、物語には入り込めないのだから勿体ない話だ。

祭りや市場など、圧倒的な群衆による喧騒の中で主人公の"孤独"と"不安定"を表現する、手持ちによるフォロー映像と、街から一歩離れた平原での、同じく孤独を表現する風景など、ドキュメントを見ている様にも思わされる、背景に人物を自然に配置する上手さ、カットを切り換えず長く追う事で、リアリティを追求する意図の的確さ、と、映像的な作り込みと計算は完璧に近く、それだけに見せられるのがダメ人間では、何と贅沢な使い道だと大いに不満に感じる。

終盤にパニック状態の主人公が発する「三人の魔女」の言葉などは、ジプシーの設定と交えつつ、ダリオ・アルジェント作品へのオマージュの意味もあるのかと、ニヤリとさせられたりもし、その場面でのアーシアの発狂演技、演出の臨場感には目を奪われるのだが、その時の男のダメ人間演技があまりにもリアルにダメすぎるせいで、また引いてしまって入り込めなくなる、と、それが狙いだったら凄いがそうでもないだろう。

あるいは、独裁から解放され自由を得たと思いきや、変わらず閉塞した状況にあるルーマニアの社会情勢を、主人公達の後ろ向きな有りように暗喩させる様な意図があるのかもしれないし、自転車で走りながら旧国歌を歌うシーンなどにそれが象徴されているのかもしれないが、それは残念ながら日本人には実感し難いものだ。

子役時代からアーシア・アルジェントを追い続けているファンや、トニー・ガトリフ作品のファンなら観ておくべきだろうが、そうでない一見さんには取っ付き辛い作品だろう。自己責任で。



tsubuanco at 17:57│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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渋谷駅より徒歩8分。宮益坂上がり先、右手入る。イメージフォーラムの道案内です。映画の新聞広告を見ても上映しているのは、「幸せのレシピ」とか「厨房で逢いましょう」とか、「ミス・ポター」とか、予告編で観たもので、わざわざ映画館に足を運んで観たいとは思わない

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