2007年10月02日

エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜 37点(100点満点中)

新春シャンションショー! ←言えてない
公式サイト

フランスのシャンソン歌手(という言い方もおかしいが)である、エディット・ピアフの生涯を描いた伝記映画。彼女の命日である10月11日に少し先回って公開されたのは意図的なものか。

『TAXi』シリーズなどで知られる美人女優のマリオン・コティヤールが、10代後半〜晩年までの彼女に扮し演じており、その役への入り込み、なりきり振りの凄まじさには終始驚かされ通しとなる。歌曲以外でのこの映画の見どころは、ほとんど全て彼女の演技そのものにあると評して過言ではない。

20代、30代、40代と、各年代のエディットの外見、動き、口調、など、多少ディフォルメ気味ではあるが、よく観察し解釈された表現は、単なるモノマネの域を超えており、まだ30代前半であり美しさを売りにしていたマリオンが、40代で既に死にかけの老婆にしか見えなくなっていたエディットの外見を特殊メイクで再現し、今にも倒れて死んでしまいそうな動作と、それに反しての口達者ぶりの両立をリアルに演じるその技量は素晴らしく、エディット本人とさえ思えてしまう程である。

日本における美空ひばり的な、国民的人気を誇る伝説の大歌手の役を与えられたとは言え、この気合いの入り様はただ事ではない。142cmと小柄だったエディット本人とは違い170cm近くあるマリオンだけに、その身長差による違和感がつきまとう事だけが残念だ。

が、そのあまりのリアルさ故に、奔放を通りこしてワガママ意のまま過ぎるエディットの、自分の事さえ考えていない破滅的な暴走人生には嫌悪を覚えるのみで、感情移入も共感も同情も出来ず、歌わないドラマ部では不細工な薬中ババアが鬱陶しいだけとしか感じられない状態にも繋がってしまい、リアルに演じすぎるのも善し悪しだ。

また、脚本および時系列の構成には難が多く、本国のみならず世界的に有名な人物の物語とは言え、あまりに省略、説明不足が目立ち、それを更に時系列をシャッフルして構成しているために、出来の悪い総集編を観させられている様な感覚に陥ってしまう事となる。

娼婦との別れや、サーカスを離れた時の父と女性との関係、裏社会とのつながりなど、場面場面の描写があまりに断片的すぎ、どう顛末を見せてくれるのかと思わせるだけ思わせておいて何のフォローも無く放りっぱなしの要素が多すぎる。

娼館で育った事は彼女の人格形成に大きく影響を与えただろうし、裏社会とのしがらみからどの様に脱却できたのか、恩人の殺人事件がその事にどの程度関わったのか、など、その場面で興味を惹かれる事項には回答を与えず、次へ次へと行かれては、伝記物語としても成立していない

不遇時代からの親友であったモモーヌとの、まず出会いすら描かれておらず彼女がどこの何者なのかすらハッキリしない状態で、引き裂かれるシーンを悲劇的に描かれても入り込めないし、その後何も無かった様に復帰していて、最終的に喧嘩別れする場面も素っ気なさすぎ、その後登場しなくなるのでは、どの程度重要な人物だったのかすらよくわからない状態だ。

全てを見せる必要は無いとは言え、描くべき部分とそうでない部分の取捨選択を誤っている事は確実であり、この状態では彼女がどのような人生を送ったのかさえが不明瞭なまま終わってしまうのだから、脚本構成は失敗していると言わざるを得ない。『Non, je ne regrette rien(水に流して)』をラストに持ってきて感動させようという狙いなのだから尚更、これまでの波瀾万丈を明確に観客に認識させておかなければいけなかった筈だ。

母親に関する描写も同様に、嫌っていた筈の母親と同じ様な人間に自らがなってしまっている事にどう思ったのか、などを、若い頃に産んだ娘を失うエピソードなどを交えながら展開すれば、人物像をより深く彫り込んで観客に訴えかける事は出来た筈だ。

音楽、特に歌が重要な要素となる本作において、エディットが大舞台に初めて上がる展開にて、歌う場面でその歌を流さず別の曲を被せて口パクだけを見せる、という演出は、これは完全な間違い。としか言い様が無い。

この場面は、大舞台で堂々と歌う彼女自身の高揚と幸福感と、彼女の歌を聴いて感動する聴衆の感動と高揚の両方を、観客が体感して我が事の様に感動出来ない事には意味が無い筈が、この演出では双方とも客観視してしまうだけで、何の感動も起こらないではないか。ここで歌を聴かせないでいつ聴かせるというのか。全く理解に苦しむこの場面に、作り手の誤った認識が象徴されている様だ。

だが一方で、エディットが目覚めてからマルセルの死を知るまでを、屋内を移動し続ける彼女を延々と追い続けワンカット長回しで見せきった映像は、脚本構成面での駄目さを(その場では)吹き飛ばす程の緊張感溢れるものだ。

マルセルと再会して(と思って)上機嫌なエディットが、時計を探し回るうちにどんどん感情を高ぶらせていき、彼女の周りに一人また一人と現れだす人物達の表情もどんどん沈んでいく事で、彼女の内面世界(夢)と現実の境界を曖昧にしながらも明確に移行させ、その"事実"をエディットと観客に突きつけておき、そのままカットを割らずに聴衆が待ち受けるステージへと場面をシフトし、非現実的な転換を用いながら、彼女の生きるべき"現実の場所"を表現した、このカットは、的確な帰結点へと視点と心情を導く事で、長回し自体に意味を持たせた秀逸なカットと大いに評価できる。

その様な、作り手の狙いが効果的に現れている部分がもっと多ければ、より楽しめる作品になっただろうに、その少なさが残念でならない。

エディット・ピアフの入門編としては説明不足過ぎるので問題があり、既知の人にとっても、あれが無いこれが無いと不満に感じるであろう本作だが、マリオン・コティヤールの熱演や、先述の長回し映像などは観ておくべき価値はあり、何より歌曲の素晴らしさは良い音響設備の劇場で聴くべきものではある。

知らないけど興味があるのなら、彼女の生涯についてある程度の知識を予習してからの方が、混乱無く鑑賞出来るだろう。自己責任で。



tsubuanco at 18:00│Comments(4)TrackBack(14)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 真・映画日記『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』  [            ]   2007年10月02日 22:04
9月30日(日)◆579日目◆ 「SRナイト」の打ち上げが終わったのが朝の5時。 7時半に帰宅。 しばらく寝て、起きると午後1時半。 外は雨。 今から外出して銀座で映画を見るとすると 帰宅は9時ころかあ。 なんか、かったるいなあ… そうだ!先週の日曜日に行った...
2. エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜  [ ★YUKAの気ままな有閑日記★ ]   2007年10月05日 22:44
誰でも一度は耳にした事があるであろう『愛の讃歌』を大画面で聴きたくて鑑賞―【story】『愛の讃歌』など、数々の名曲で世界中を魅了した伝説の歌姫エディット・ピアフの生涯を描く伝記ドラマ―歌手を目指す母アネッタ(クロチルド・クロー)の娘エディット(マリオン・コテ...
3. 映画:エディット・ピアフ 愛の讃歌  [ 駒吉の日記 ]   2007年10月11日 15:53
エディット・ピアフ 愛の讃歌(TOHOシネマズ六本木ヒルズ) 「歌わなければ人生じゃないわ」 美○ひばりさんのようなかんじ?と想像していったのですが、見た目は(故)美白の女王っぽい。 晩年と生い立ちが交互にでてくるのですが、苦労人の割には悲哀をそそられな...
4. エディット・ピアフ??愛の讃歌??  [ 空想俳人日記 ]   2007年10月18日 17:13
ばら色に 人生染める 我が血かな   最近のCMでのおすぎさんのコメントは反作用。他の映画と同じく仰々しい感動のコメントに、なんぼのもんかな、そう思ってしまいます。だから、ほんとは、この映画観ていなかったかもしれません。この映画を観て、まず言いたい一...
5. エディット・ピアフ 愛の讃歌 映画のご紹介です!  [ 人気 ドラマ 映画 最新情報!! ]   2007年10月22日 13:19
「エディット・ピアフ 愛の讃歌」オリジナル・サウンドトラック商品価格:2,500円レビュー平均:0.0エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜 [Movie]映画 「エディット・ピアフ 〜殮.
6. ★「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」  [ ひらりん的映画ブログ ]   2007年10月23日 03:50
フランスの伝説的シャンソン歌手エディット・ピアフの伝記映画。 主演は最近よくお目にかかってるマリオン・コティヤール。
7. エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜  [ C'est Joli ]   2007年10月23日 21:19
3 エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜’07:フランス=チェコ=イギリス ◆監督・脚本:オリヴィエ・ダアン「クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち」「いつか、きっと」 ◆出演 :マリオン・コティヤール、ジェラール・ドパルデュー ◆STORY◆1915年にパリのベルヴィル...
8. エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜  [ Akira's VOICE ]   2007年11月02日 16:38
愛と歌で駆け抜けた生涯。
9. エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜−(映画:2008年17本目)−  [ デコ親父はいつも減量中 ]   2008年02月19日 23:43
監督:オリヴィエ・ダアン 出演:マリオン・コティヤール、マノン・シュヴァリエ、ポリーヌ・ビュルレ、シルヴィー・テステュー、エマニュエル・セニエ、ジャン=ピエール・マルタンス、マルク・バルベ、ジェラール・ドパルデュー 評価:73点 公式サイト 「愛の....
10. エディット・ピアフ 愛の讃歌  [ 銀の森のゴブリン ]   2008年04月28日 12:16
2007年 フランス・チェコ・イギリス 2007年9月公開 評価:★★★★☆ 監
11. エディット・ピアフ 愛の讃歌  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年05月27日 21:08
 コチラの「エディット・ピアフ 愛の讃歌」は、シャンソン歌手エディット・ピアフの波瀾万丈な47年間の人生を描いた伝記映画です。  主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞で主演女優賞を獲得したことでも話題になりましたね〜。なワケでやっとレンタル出来たので...
12. 独断的映画感想文:エディット・ピアフ??愛の讃歌??  [ なんか飲みたい ]   2008年10月30日 21:53
日記:2008年10月某日 映画「エディット・ピアフ??愛の讃歌??」を見る. 2007年.監督:オリヴィエ・ダアン. 出演:マリオン・コティヤール(エディット・ピアフ),シルヴィー・テステュー(モモーヌ
13. 「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」  [ 或る日の出来事 ]   2008年12月27日 22:22
ピアフを演じたマリオン・コティヤールが、アカデミー賞主演女優賞などを受賞した。 著名なシャンソン歌手エディット・ピアフの生涯を追った...
14. エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜  [ Blossom ]   2009年02月26日 20:18
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜 LA MOME 監督 オリヴィエ・ダアン 出演 マリオン・コティヤール シルヴィー・テステュー     パス??.

この記事へのコメント

1. Posted by kame   2007年10月04日 11:14
確かに脚本の構成に難がありましたね。もう少しなんとかならなかったのかと残念です。
彼女の生き様に共感出来ないのでどのエピソードも「なんだかなぁ」とため息が漏れるばかりでしたが、2時間半以上も退屈せずに見られるのはひとえに主演女優の熱演の賜物だと思います(もちろんピアフの歌声も)
ただ、マルセルの死からピアフがステージに立つまでのカットはちょっと鳥肌が立ちました。あそこは素晴らしい。
2. Posted by つぶあんこ   2007年10月05日 00:18
この長回しにどうオチつけるんだろう? と首を傾げていたら、廊下の先にステージが見えてゾクゾク来ました。
3. Posted by みるきぃ   2007年10月18日 19:58
2 美輪明宏さんもコンサートでおっしゃってましたが、この映画の内容にかなりご不満のようでした特にラストが中途半端に終わってると。

きちんとしたピアフが描かれてないと私も思いました。
4. Posted by つぶあんこ   2007年10月22日 17:28
梅ちゃんのコメントも聞きたいところです。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments