2007年10月08日

サウスバウンド 21点(100点満点中)

わざとだよ! ついだよ!
公式サイト

奥田英朗の同名小説を映画化。監督は『模倣犯』で賛否両論を起こし昨年『間宮兄弟』が小ヒットした森田芳光。

彼が脚本まで手がけた作品においては、原作との乖離が良くも悪くも取り沙汰される事が多いが、今回に関しては、原作の改変に失敗していると言わざるを得ない結果である。

失敗の要因は、息子と父親、双方の視点を行き来する構成が上手くい機能していなかった事をはじめ、物語中での人物の立ち位置がことごとく不明瞭であったため、ストーリー自体が極めて散漫となってしなった事がまず挙げられる。

これは長い原作を二時間弱の映画に移行させる上で、情報の取捨選択を誤った事が理由であり、祖母のエピソードなどは、あの程度の半端さなら無い方が話がまとまったし、謎のアメリカ人の存在もまた、そのスタンスの推移描写が不確かにも関わらず、いつの間にやら重要な場所に配置され物語を構成させられていたりと、話の芯がどんどんブレるため余計に散漫な印象を強めてしまっている。

東京におけるいじめっ子がらみの展開で、自分より強い相手でも、理不尽な力とは戦わなければいけない事を主張し、戦った上で西表島へと"逃げる"顛末を見せておいて、沖縄における立ち退き騒動では、それと相似した構図を父親が受け持つ、という物語構成の大枠からして伝わり難くなっているのだから、そもそもお話にすらなっていないのだ。

登場人物の"会話"が重要となる作品において、言葉を大切に扱っていない事もまた、失敗の要因と言える。「ナンセンス!」をはじめとする左翼用語の数々の、時代遅れの恥ずかしさは意図的なものとしても、それ以外で用いられる通常会話の不自然さ、恥ずかしさは意図したものでは無い筈だ。今時「ベイビー」などとギャグではなく素で中学生に言わせるセンスが信じられない。

そうしたダイアローグ自体の不自然さ(脚本の問題)と同時に、その言わせ方の演出にも問題がある事で、失敗を更に助長している。この人達はこんなに演技が下手だったのか?と首を傾げざるを得ない会話のいちいちには呆れる他無く、むしろ話さないで黙っている時の方が、役者の魅力を素直に感じる事が出来る程だ。

妹が長台詞で状況説明をする終盤の場面などは、その乱暴さから、本作の作り手がいかに言葉を大切にしていないかがありありと伝わってくる、象徴的な場面と言えるだろう。

無駄に間延びしてテンポの悪い演出は、コミカルであるべき空気すら停滞させ、島の老人の棒読み台詞が、シュールを狙って寒いだけの典型として完全に逆効果となり、そのテンポの悪さを更に加速している始末だ。謎のアメリカ人の片言も同様。

憎めない変人であるべき父親が、単なる自分勝手な変人としか描けておらず、作品テーマの象徴となり得ていない事もまた、原作の魅力を殺し、それに替わる良さを生み出せなかった"失敗"でしかない。

資本家や体制に反発する一方で左翼プロ市民を揶揄するキャラクターは、自己の確立と言えば聞こえはいいが、要するに自分勝手なだけであり、ただ文句を言ってその場限りの反発を繰り返すだけでは何の解決にもならず、親に養われながら親に暴力を振るうガキと同レベルだと、"自分の頭で考える"人間なら思う筈だ。

誰が決めたかわからない権威に従う必要は無いと主張しつつ、サンラーとかいう同じく不確かな権威には依存しきっているのでは、結局のところ理屈ではなく個人の好き嫌いでしかないのにも拘らず、上辺の屁理屈を並べて自己正当化に終始しているのでは、滑稽にも程があるというものだ。

個人がそれぞれ自己主張のみを推し進めれば、そこに待つのは争いであり、強者が弱者を排除する結果にしかならない。これでは権力と財力による地上げを肯定しているのと変わらないではないか。

と、突っ込まれてしまっては作り手の狙いもヘッタクレもなくなってしまうのだから、そう思わせないだけの魅力を表現出来ていなければいけない筈が、それが特に無いのだからどうしようもない。

もはや楽しみどころは、子供達が見せる良くも悪くもリアルな"子供っぽさ"と、南島の風景で彼らが遊ぶ様の楽しさを眺められる事くらいである。それだけに次郎を演じた田辺修斗と桃子を演じた松本梨菜の好演が印象深くなっているのは皮肉か。

だがその楽しみさえもぶち壊してしまう父親と、子供を守るよりも夫に付き従う事を選んだ母親の自分勝手さによって、それも台無しだ。自由と好き勝手は違うし、好き勝手が原因で周囲に害が及ぶのなら、それは悪でしかない。

子供達の演技には救われるが、それ以外は特に見るべきところも無く、内容に興味があるなら原作を読んだ方がいいだろう。自己責任で。



tsubuanco at 17:10│Comments(1)TrackBack(17)clip!映画 

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1. Posted by kimion20002000   2008年05月02日 16:19
僕は、原作はわりと好きでした。
映画としてはご指摘のようにいろいろ粗雑な面がありますが、僕は、トヨエツの演技は好きでした。「愛ルケ」「犯人に告ぐ」「サウスバウンド」と、それぞれまったく異なるキャラをよく演じられる役者さんだなあ、と、単純に〈笑)

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