2007年10月10日

北極のナヌー 43点(100点満点中)

裏町裏通り名画館
公式サイト

近年氷が溶けつつあるという北極に棲息する生物達を、約10年に渡って撮影して作られた、地球温暖化啓発映画

似た目的で製作された『不都合な真実』にて、氷が溶けて無くなった北極海で白熊が溺死するCGアニメーションが見せられたが、本作はそれを実写で見せてくれる。

原題は『Arctic tale』、すなわち『北極物語』と言ったところだが、さすがにそのままではマズいと判断したにせよ、動物鑑賞映画としか思えない邦題もどうか。

そもそも本作、邦題や宣材などでクローズアップされている白熊のナヌーだけでなく、もう一頭、シーラと名付けられたセイウチもメインの対象とされており、地球温暖化による氷床の減少によって、本来出会う筈も無かった両者の運命が交錯する、という内容であり、子供の白熊の可愛さを目当てに来た客は、すぐに成長して可愛くなくなってしまうのでガッカリだろう。これは宣伝の罪。

それはともかく、生まれて1年経たない仔熊が可愛い事は確かで、序盤でまずその可愛さを存分に見せつけておく事で、観客の感情移入を果たす狙いである事も間違いなく、ただ歩いているだけで可愛い姉弟の二頭の仔熊が、氷の斜面をもつれ合って滑り落ちたり、巣穴から出ようとして滑って落ちたりと、悔しい程の愛らしさを存分に楽しむ事は可能。

だが一方のセイウチの場合は、生まれたての状態から既にゴツくて(メスなのに)ヒゲも生えているのであまり可愛くはない(控えめな表現)ため、ナヌーと等質の感情移入がし難く、だから宣伝ではいない事にされているのだろうが何とも可哀相である。

エンドロールに流されるメイキング映像にて、被写体に対しかなり近距離まで近づいて撮影している事が判明し驚かされるのだが、それだけの無理を敢行しただけの意義はある、臨場感を重視しつつ安定した画角の映像で見せられる、様々な生き物の映像は見どころとして機能している。

氷の上を歩く白熊を、氷の下の水中から撮影しているアングルなど、普通では目にする事すら不可能な視点を提供してくれる、撮影スタッフの挑戦的姿勢は大いに評価出来るだろう。

別個に撮られた映像を編集で繋ぎ合わせて、任意のシチュエーションを作り出す、動物ドキュメントにはありがちな手法が本作でも多用されている事は瞭然だが、対峙する二頭の動物を切り返しのカット割りで見せてドラマ展開を作り出すなど、単調な風景で視覚的に飽きられがちな舞台である事を考慮したのか、明らかに作りすぎな局面が多々目立ち、作り手の"意図"が強く感じられてしまうのは問題に感じる。

ナヌーが生まれた時には一面真っ白だった雪洞周辺が、ナヌーが出産する10年後には、地面が露出していると見せる事で、気温の上昇を視覚的に提示するといった、地球温暖化の実情を観客に訴える様な演出が後半のメインとなり、そしてこのまま進めば○年後には北極の氷は全て溶けてしまう、と、脅迫じみた言葉で結ばれる本作だが、それが「まだ6月なのに暑いな〜。このまま行ったら12月にはどれだけ暑くなるんだろうな!」なる古典的ベタギャグと同じロジックである事に気づかない大人はいないだろう。子供ならともかく。

北極の氷がどうやって出来たのか、氷河期と間氷期、過去にも北極周囲の氷床が溶けた時代があって、白熊やセイウチはその時には、本作後半で見せられる状況と同じく地上で生存していた、学術的事実、など、いわゆる"地球温暖化論"の妨げとなる事項には全く触れず、可愛い動物を客寄せパンダにして偏向した主張を恣意的に刷り込もうとする姿勢は、ドキュメントとしてはあまり褒められたものではない。

姉にはナヌーという名前があるのに、弟の呼称は単に"弟"のみな時点で、この"弟"がどうなるかは推測出来てしまい、実際にその通りとなる。特定の存在を中心に描くのはいいとして、それ以外の存在を、その生き死にさえも傍流として扱う恣意的な偏向は、この種の動物ドキュメントを見ていていつも気にかかるところだ。その"生き死に"が、特定の人間の商売のネタとされているのだから尚更。

密着して撮影していながら、捕食される瞬間は見せず、間を飛ばして死骸を食べているところは映している事もまた、引っかかりとなる部分である。

子供も観る事を配慮したのかもしれないが、だからこそ、命が別の命の犠牲のもとで維持されている、食物連鎖の意味を明確に伝える必要がある筈であり、本来の環境保護の意義とは、その食物連鎖、生態系を保持するところにあるのではないのだろうか。これでは本末転倒である。

これは日本語版のみの問題だが、稲垣吾郎によるナレーションが、映像とのシンクロや強調したい部分に対する抑揚のない、与えられた原稿をただ読んでいるだけとしか感じられないものである事も、作品に対する印象を貶めがちな要因の一つだ。声質自体は悪くないのだから、もう少し気持ちを入れてほしかった。

主張や構成などは特に評価出来るものではないが、年月をかけ苦労して撮影された映像そのものの価値は充分にあり、過剰な期待や間違った期待さえしなければ、動物ドキュメント好きならば、観て損したとは思わない出来ではある。自己責任で。




tsubuanco at 16:06│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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