2007年09月04日

あるスキャンダルの覚え書き 81点(100天満点中)

危険な恋をWowWowWow しちゃいけないぜ
公式サイト

アメリカで女性教師と13歳の教え子との肉体関係が発覚した、実在の事件を着想に書かれた、ゾーイ・ヘラーの同名小説を原作としたイギリス映画。

タイトルにある"あるスキャンダル"は物語内での重要存在ではあるが、主軸はその事象顛末を描く事ではなく、それをひとつの基点として歪みが露呈していく、二人の女性の心理動向こそが、本作の特徴であり見どころとなっている。

基本的には老教師バーバラ(ジュディ・デンチ)の視点を中心に描かれつつも、入浴シーンなどで吐露される表層的な面より深い部分にある本心、感情は客観的にしか表現されず、観客自身がそれを読み取り理解していく事を要求されるため、考えれば考える程、人間の業の深さを痛感させられてしまう、リアルな人間描写の数々は秀逸。

周囲の人間がバカに見えて、人気者の粗を探して勝った気になり、それに群がる者達を嘲笑う、序盤でのバーバラのモノローグは、全て自らのコンプレックスの裏返しであり、詳細な日記を欠かさず書き続け、良かった日には金の星シールを貼付けるなどで、偏執、執着の強さを予感させ、高所から他人を観察し、操っているつもりが自分が振り回されている様を、初めてのお呼ばれで浮かれる場面などで表現しているなど、彼女の有りようが最初の段階から描かれている事を理解していれば、その後の展開に際しての彼女の心理動向は全て理に適ったものとして、納得し楽しめる筈だ。

孤独である事の哀しさ、それが人を更なる孤独へと貶める悪循環をシニカルに描き、人と寄り添っているから、結婚して家族がいるからといって孤独が癒されるわけではなく、むしろ人と関わらずにはいられないタイプの人間の愚かしさをリアル且つディフォルメしてドラマを紡いでおり、自分や周囲に思い当たる人物は誰にでもいて当然だからこそ、作品世界に没入させられる事となる。

仲間、友達を作って自分のポジションを確認したがる、女性に顕著な帰属意識が"元凶"となっている事で、同性愛や異常者などの単純な図式ではない、軽度の境界性人格障害にも感じられるバーバラの思考回路とその行動は、身近な嫌悪や恐怖として感じられ、ひょっとしたら自分もこんな風に思われているかも、とさえ悩まされてしまうものだからこそ、恐ろしさがは増幅される。

彼女の"ターゲット"となる美人女教師シーバ(ケイト・ブランシェット)側での心情的歪みが頂点に達するのは、事が発覚して以降の狂乱場面だろうが、バーバラ側の歪みのクライマックスとなるのは"愛猫の死"にまつわる顛末だろう。

一度は拒否した安楽死を、決意に満ちた表情で再び獣医へ足を運び、泣き崩れながらそれに同意する様は、彼女自身が自らの真意を自覚していない事を示す描写であり、だからこそその場面から言い知れぬ恐ろしさを感じさせられてしまう。

その真意は当然、シーバとその"悲劇"を分かち合いたいという歪んだ願望に他ならず、それが果たされなかったからこそ、表向きにすら両者の関係が破綻していく端緒となっているのだ。

バーバラの"操縦と観察"(しているつもり)の自意識をビジュアルとしてわかりやすく表現している、少年の親の乱入で揉める夫婦を階段から眺めるシーンは、彼女の"勝ち誇った"余裕すらも、子供達を誘導する動作にて感じさせると同時に、「あなたも教え子だった私と結婚したでしょ!」と、思わず笑わされてしまうシーバの台詞によって、彼女が抱える歪んだ被害者意識を強調し、両者共に人間的に問題がある事を見せ、それによって誰しもが歪みを抱えているのだと突きつける、秀逸な場面と言える。

ただ、シーバは実際には大変な仕打ちを受けているのだが、バーバラ側に拠った視点のためにその受難が今ひとつ伝わり難いため、シーバサイドのドラマの締めは甘く感じられ、一方バーバラサイドでは、彼女をモンスターの域にまで持ち込んでしまった感のある締めは、あまりに戯画的、安直すぎる様にも感じられてしまう。

タイトルから期待される様な、直接的なエロスは少なめではあるが(デンチの入浴シーンは衝撃的すぎる)、ケイト・ブランシェットの醸し出す強烈な熟女フェロモンがストーリーへの説得力を存分に増している本作、興味があるなら観ておいて損はない一品である。

ただし人間関係に悩んでいる時に観ると、余計に悩みを深めてしまう畏れがあるので注意が必要。



tsubuanco at 16:50│Comments(0)TrackBack(13)clip!映画 

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