2007年10月25日

ヒートアイランド 72点(100点満点中)

いまだに誰も磯野貴理とは呼ばない
公式サイト

垣根涼介の同名小説を映画化。『花より男子』などTVドラマにてコンビを組んでいた脚本・サタケミキオおよび監督・片山修にとっては初の映画作品となる。

大藪春彦の再来とも評される事がある垣根涼介による原作は、その形容に相応しく、有り得なさそうな話ながらも事象のディテール描写にこだわってリアリティを与え、ハードボイルドな世界観を確立して読者の興味を惹きつける手法を用いているが、この映画版では、人物から生活感を排している事は原作と同じだが、リアリティそのものを当初より放棄し、現実に存在する風景を背景としながら架空世界を舞台とした絵空事として描き、コメディ的演出によりそれを更に助長している事が特徴だろう。

これは漫画原作や漫画的な物語を実写ドラマとして描いてきた両氏の得意とする手法であり、TVから映画へとメディアを移行させても尚、その手法を貫いているのは作家性としての自己主張だろう。

その自己主張として、原作からの改変が行われている部分は、先述のコメディ演出に始まり、ストーリー面においてもまた、在日ブラジル人マフィアの存在や、お宝の移動顛末など、原作に存在しないオリジナルの人物、シチュエーションとして現われている。

また、主人公メンバーの一人であるナオが女性(北川景子)へと変えられている事、地下格闘場のマスターもまた女性となっている事(伴都美子)、原作とは役割が大きく変えられている女性キャラ(伊藤千晃)などは、キャスティング的な都合による改変と見受けられる。

この、伊藤千晃演じるヨウコを、原作に準ずる部分とオリジナル展開との繋ぎ役として設定した事で、狭い地域内で複数のグループが相互に関わりつつ平行して行動する、作品そのものの物語構造をより強調して面白さを生み出しているのは上手い追加改変である。

タイトルの意味を視覚的に強調するために、黄色がかった画面で暑苦しさを表現している事を前提として、パパイヤ鈴木が演じるブラジル人マフィアの存在によって、より"暑苦しさ"を強調している事も見逃せない。そしてこのキャスティングが、決して受け狙いの出オチに終わらず、むしろ笑いとは無縁な、異物としての恐怖を醸し出している事も評価点だろう。彼なくして終盤の無常観は成し得なかった評しても過言ではない。

折田(松尾スズキ)が揉め事を起こしたバーに、入れ替わり立ち替わり各グループの人間が情報収集へと来る顛末など、地域と時間軸の同一性を強調しつつ同場面で近似したシチュエーションを繰り返す事によって、事態の推移を面白おかしく描写していく手法を多用し、意外なところで異なるグループに接点が生まれ、物理的にも思惑的にもいくつものすれ違いが生じて事態がどんどんエスカレートしていく様を楽しませる、シチュエーションを活かしたドラマ展開は良くしたもの。

お宝の移動劇が追加されながらも、大筋としては原作通りに進む抗争構図は、原作未読でもある程度の予想がつくものだが、コミカルでテンポのいい演出、作劇によってベタである事が却って功を奏し、また、各人物が知っている情報と観客が知る情報の差異あるいは同一性によって、それぞれのキャラクター同士が対面する度に緊張感が発生するべく設定された原作の狙いはそのまま生きており、飽きる事はない。

原作よりも出番を多く用意され、陽である主人公チームと対を成す"陰"の主人公として設定されたリュウイチ(高岡蒼甫)のドラマによって、アウトロー達が繰り広げる犯罪劇に対しての報い、裁きを象徴させ、登場人物達の誰をもヒーローとはしない仕掛けもまた、コメディとのギャップにより大きく活きていると言える。

軽率な行動によって多くの人間を死に至らしめ或はその危機に瀕させた、"諸悪の根源"となる人物に対し特段の"報い"が与えられないままハッピーエンド調に終わってしまうなど、人によっては得心のいかない部分もあるだろうが、それは原作からそうなのだから仕方ないし、下手に何かあっても、後味の悪さを増やしてしまう事にも繋がりかねない。

Vシネさながらの地味なキャストながら、原作を独自の解釈と表現によって独自の映画作品として昇華させた事で、出演者のファンならずとも観て損したとは思わないであろう、良質の娯楽作に仕上がっている。機会があれば。




tsubuanco at 15:59│Comments(6)TrackBack(7)clip!映画 

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2. ヒートアイランド  [ そーれりぽーと ]   2007年10月25日 23:36
この週末は観たい映画がゴロゴロしている中、あんまり注目もしていなかった『ヒートアイランド』。 ハシゴの都合で時間がピッタリ合ったので、とりあえず観てきました。 ★★★ 原作の小説が面白いらしいですね。 映画も脚本は良かったんじゃないかなと、若干思えた。 イラ...
3. ヒート アイランド  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2007年10月25日 23:50
意外や意外。面白いじゃないですか!
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6. ヒートアイランド  [ ケントのたそがれ劇場 ]   2007年11月02日 14:24
★★★☆  ジャンルはミステリーということになっているが、かなり毛色の違ったミステリアスドラマってとこかなあ。アクションありコメディーあり、そして終盤のパズルチックな展開も楽しかったな。 またオープニングの渋谷の風景、赤茶色の画面もなかなか渋いよね。そして
7. ヒートアイランド  [ 日っ歩??美味しいもの、映画、子育て...の日々?? ]   2007年11月04日 20:36
垣根涼介の原作を映画化した作品です。期待せず観にいくと、それなりに、楽しめる。そんな作品だと思います。 渋谷の若者たちを仕切る6人組、"ギルティ"のメンバーたちは、毎週、"Pink Pink"というバーにケンカの強い連中を集めて、ファイトパーティ...

この記事へのコメント

1. Posted by 爽泉   2007年10月23日 17:05
小説もいっぱい読んでるんですね。
2. Posted by つぶあんこ   2007年10月23日 17:26
本好きですから。
3. Posted by 爽泉   2007年10月24日 09:39
では書評もやってみたりしてください。
4. Posted by つぶあんこ   2007年10月24日 17:18
余裕があれば。
5. Posted by なりた   2007年10月26日 17:51
はじめまして。
『ヒートアイランド』勝手に応援ブログのなりたといいます。
わたしのブログで勝手に記事をご紹介させていただきました。

原作と映画を対比しつつの映画評、じっくり読ませていただきました。
6. Posted by つぶあんこ   2007年10月29日 17:57
どうもです。

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