2007年10月28日

象の背中 4点(100点満点中)

承知しねえぞこぶ平!
公式サイト

秋元康の同名原作小説を、役所広司主演で映画化。

不治の病で死ぬ人の話、というジャンルはベタながらも、自分にとって大切な人が死んでしまう、あるいは大切な人を残して自分が死ななければいけない、どちらにしても誰にでも共感が安易で、ある程度感動させる事が容易な、便利な題材である事は確かだ。実際に似た経験をした人なら尚更だろう。

おそらくは本作も、中年サラリーマンを襲う病魔の悲劇と、家族愛、男の生きざま死にざまなどをドラマティックに描いてみせて観客を泣かせようとの狙いの元に作られているのだろうが、それは完全に失敗していると断言出来る。

死ぬ側の視点で描かれている事もあってか、主人公の行いの全てを美化、正当化しすぎており、何一つ納得、共感できるところがないのだから、感動出来るわけがないのだ。

この主人公、全てが自分優先で自分のために生きて自分のために死ぬ自分勝手な男でしかなく、そんな男に何故か、家族も友人も愛人も精一杯に尽くしてくれる、そんな話があってたまるか。

4月の時点で「あと半年」と言われた後に、娘(南沢奈央)のチア大会が11月と聞かされながら、せめてそれまでは生かせてほしいと願うなど何もなく、ただ聞き流しただけ。やはり自分の事しか考えていない。

父の愛人を恨んでいながら自分に愛人がいる事には反省せず、むしろ最期まで都合よく依存しようとしている。そんな都合のいい女がいるとは何てエロゲ?

愛人の存在に気づいた妻も結局受け入れて許し、家族に残したい金が足りなくても、実家に頼めば何とかなる。何もかも、自分が死ぬ事以外は全てが都合よく進む、こんな話に誰が共感出来ると言うのだろう。

そりゃあ死にゆく人間に対して、出来る限りの事をしてあげたいと思うのは人情だが、それにしても都合が良すぎだ。これが主人公が死ぬ前に見た夢だというオチならともかく。

大企業のエリート管理職、嫁は美人で従順、子供もまっすぐ育って問題なし、美人の自立した愛人が母親の様に癒してくれる、いざとなれば実家にも財産がある、と、こんなネカフェ難民が寝る前に考える妄想レベルの設定で、メインの観客層として想定している一般大衆の大人の共感を得られると思っていたなら、愚かにも程がある。

現実にはあり得ないお話だからこそフィクションである意味があるにせよ、人間の心情、感情だけはあり得るべくリアルに描かなければ、それは単なる作り手のオナニーにすぎず、他人に見せる価値のあるものとはならないのだ。

自らの死期を知って尚、誰にも知られず一人で死のうとしている男(笹野高史)と主人公とを対比する事もなく、象のキーワードを残すのみの役割で、しかも主人公はその"象の死に方"に倣うわけでもなく、やはり都合よく自分勝手に死のうとしている。

娘が怪しんでいるのでどうする、と相談した事なども結局放置して先へ進む。物語としても構成も段取りも何もあったものではない。

そもそも、どんなに良好な家族関係を築いていようが、愛人の存在を隠しいてる時点で家族を根本から裏切っているのだから、共感できるわけもなく、むしろどの面下げていい夫、いい父親を演じてやがるのかと呆気に取られるばかりだ。この設定の段階で本作は失敗している

愛人がらみの顛末は、原作ではもっと共感出来ないが、それでも丁寧に描かれてはおり、映画では原作の要素を一通り満遍なく残したため、上辺だけの浅い話との印象が余計に強まっている。

トイレで苦悶する場面や、終盤の悟りきった表情など、役所広司がいい演技を見せてくれるが、それが余計にストーリーの浅さを際立たせているのは皮肉か。

せめて、自らが死ぬ事に対する苦悩などを、本人の主観で見せるなどの描写でもあれば、もう少し感情移入出来た気もするのだが。

あるいは、家族側の視点でのそれぞれの苦悩や葛藤を描く方が、主人公と同世代の中年男性であっても、わが事のように感情移入する事が出来た筈だし、愛人側の視点を説得力ある形でリアルな心情として描けば、その存在にも意味があったのかもしれない。現状では愛人の存在は作品の価値そのものを消しているだけである。

一般大衆を舐めくさっているのだろうとしか思えない、人を小馬鹿にした様な、子供騙しにもならない底の浅い設定とストーリーで大丈夫と考えた、作り手の底の浅さがありありと伝わってくる、実際にガンで亡くなった人や、家族や知人をガンで失った人をもコケにしているとすら感じさせられる、どうしようもない愚作。出演者のファンであっても、時間をドブに捨てた上に不快になる覚悟がなければ手を出さない方がいいだろう。


蛇足:
南沢奈央のチアリーディング場面も、衣装は露出しない様にガチガチにガードした上に脚も上げさせない事務所の徹底ぶりで、とても大会に出場できるとは思えない稚拙な演技にしか見えず、まるで彼女が寒いみたいに晒されて可哀相すぎる。




tsubuanco at 21:33│Comments(8)TrackBack(12)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by sheep   2007年10月30日 03:58
秋元お得意の「上から目線的フェイク」ですな。
役所広司を観に行こうと思いましたが、ちょっと考えます。
2. Posted by PERO   2007年10月30日 13:22
はじめまして、いつも楽しみにブログ拝見してます。
CMに惹かれて、感動目的で見に行くと痛い目を見る映画なんだとよくわかりました。すばらしい分析です。
でも団塊世代は食い付きそうですよね。
3. Posted by kame   2007年10月30日 16:51
役所さんと岸部さんのシーンは良かったです。それだけでしたかね。
チアリーディング部分は確かに彼女が寒いみたいで可哀想でした。(私は実際に彼女がヒドイのだと思っていましたが・笑)
4. Posted by つぶあんこ   2007年10月30日 17:40
いくらでも簡単に面白くなりそうなネタを、よくここまでつまらなく台無しにしたなという観点では一見の価値があるかもです。
5. Posted by     2007年10月31日 09:38
ガンの余命1ヶ月で喋って歩ける訳ない
6. Posted by つぶあんこ   2007年10月31日 22:46
特に胸から上のガンは、喋るどころか食事や呼吸も困難になりますからねえ。
7. Posted by 佐藤秀   2007年11月04日 20:55
よ、よ、4点・・・
み、み、見ないことにします。
8. Posted by kimion20002000   2008年03月21日 15:18
ハハハ。100点中4点ということは、ほぼ0点に近いですね。
こぶ平、今度は韓国にもこの物語を持っていくらしいから、反省の色はないですね(笑)

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