2007年10月31日

自虐の詩 37点(100点満点中)

里中静流=堤幸彦か?
公式サイト

業田良家の同名4コマ漫画連作より、そのメインとなる『幸江とイサオ』シリーズのエピソードに絞って実写映画化。

客観的には不幸に見える女性の人生を描いた中谷美紀主演映画としては、『嫌われ松子の一生』が既に存在するため、既視感は否めない上に、『松子』の監督である中島哲也と本作の監督・堤幸彦の、両者のクリエイターとしてのセンスが、方向性は似ているが本質的な部分が明らかに異なるため、どうしても見劣りしてしまう事となるのは不幸か。

原作は、整理されたシンプルな絵柄ながら、4コマ内でフリからオチまでを完結させないといけない制約により、1コマに内包される情報量は通常の漫画の何倍にもなっており、それゆえに奥深く完成された印象がより強まっているのだが、そうした原作の出来の良さもまた、この映画にとっていい方向には働いていないだろう。

画面の端々に紛れ込ませた小ネタや、戯画化されたキャラクターによるボケとツッコミの掛け合いなどが、堤幸彦のコメディ作品における持ち味だが、そうした表層的な娯楽性と、原作の面白さの本質とは正対するものであり、そもそもこの企画自体がミスマッチなのだ。

映画オリジナルで加えられている展開、特に後半への転機として幸江が事故に遭い重態となるあたりに、明らかな原作との方向性の乖離、あるいは作り手の原作への不理解が強く感じられる点などからしても、ミスマッチは明白である。

ディフォルメされながらも人間の隠したい心情をリアルに露呈させ、それをオチのある4コマとして見せている事が、原作の大きな特徴でありながら、この映画における事故シーンには"オチ"がなく、ただドラマティックな"不幸"を演出したいだけに終わっているのでは、あまりに志が低すぎる。

現代と過去の二層構造を成している原作の構成を、どの様に映画に持ち込むのか、を考えた上で、生死の境をさまよっている時に見た走馬灯的回想、という手段を選択したのだろうが、そこまでキャラクターを追い込んでしまっては、韓流映画並にベタなお涙頂戴に堕してしまい、その奥にある心情へと繋がっていかないのだ。

そんな小細工を弄せずとも、現代と過去の場面が平行して描かれていって、母親の顔を思い出して悟りを開いた時点で、心情的な帰結点となる、原作そのままの構成でなんら問題なかった筈だ。余計な自己主張が裏目に出た典型だろう。

また、少女時代の極端なマイナス思考と現代の極端なプラス思考とのギャップの理由付けとしてラストの結論があるのだから、両者の差異をしっかり対比させておかないと意味が活きてこないのだが、それを行えていないために、過去編が単なる過去の説明と不幸自慢になってしまっているのはいただけない。

回想の手段として極限状態での夢を用い、母親の顔を思い出す場面まで再現しながら、そこから続いて作品テーマへと発展する、"産む、産まれる"事の本質を幸恵が理解する、原作における重要箇所を丸々カットしているのでは、原作の意味をまるでわかっていない、と言わざるを得ない。

エンドロール後に見せられる陳腐極まりないハッピーエンド的映像に至っては、もはや"わかっていない"どころの騒ぎではない。特にイサオが笑顔を見せてしまった時点で、本作は原作に遠く及ばない、安っぽい"涙の感動作"であると決定づけられてしまったと断じて問題ないだろう。

客観的に"幸せそうに見える"状態ではなく、自分自身が心の中で"幸せだ"と感じられる事が大切だと結論づけた、原作ラストの意味を理解していないのか敢えて曲解したのか、とにかく堤幸彦に人間の心情は描けない事は再確認出来た。

元が4コマなので、どうしても短いエピソードの羅列になってしまうのは当然としても、キャラクターの心情までもがブツ切りで脈絡が無いのは問題だろう。

先述の事故展開や、現代編でのヤクザや警察絡みのエピソードなど、映画オリジナルで挿入されている要素が、ことごとく不要物でしかない上に、そちらに尺を取られたせいで、原作における重要なエピソードや人物がいくつも省略されている事もまた、作品の印象をより底の浅いものにしている。

特にファーストシーンの"死んだと思ったら寝ていただけ"などは、いったい何十年前のギャグなのかと、のっけから寒さに震えてしまうもので、しかもそれをオチまで予告で見せてしまっては余計に寒いではないか。

イサオとヤクザ絡みの展開は、原作過去編の描写を彷彿させはするが、それはあくまでも過去の事であり且つ4コマギャグとして笑わせるからこそ意味があったのだ。過去と現在とのギャップを表現する事も無く、無意味に過去を引きずらせて顔芸以外で笑いの無いヤクザ芝居を見せる意味は無い。明らかに余計な追加でしかない。

そんな時間があるなら、現代編ではもっとダメ人間ギャグを特に前半に盛り込んでおくべきだし、過去編では熊本さんや藤沢さん(加藤瑠美)との人間関係を、誰にでも思い当たるネガティブな心情をディフォルメしてオチとする展開を重ね蓄積させておけば、より感動へと結びつけただろうに、勿体ない話である。

結局、いつもの堤幸彦作品のごとく、テキトーに笑えて泣けて小ネタを見つけて、といった、表層的な娯楽性は得られるものの、良質の原作を充分に活かせたかと言えば厳しく、むしろ上辺のみを喰い散らかした様にしか感じられない。

そもそも、この監督にこの原作を与えた事に無理があるのだ。タイトルに『あいのうた』などという、恥ずかしさ爆発なルビを振ろうとした作り手に、何かを期待する事自体が間違いなんだが。

ただ、主演の中谷美紀以外のキャスティングは概ね良好で、現代編での阿部寛、西田敏行、遠藤憲一、カルーセル麻紀と、出ているだけで面白く感じてしまう人達を上手く配置しているのは、堤幸彦のいい部分と言えるだろう。主人公は木村多江が薄幸メイクをして演じるべきだったが。

そして、過去編の幸江、熊本さん、藤沢さんらのキャスティングは、ネームバリューを考慮せずともよかったからかビジュアル的には完全なハマり役と評価でき、だからこそ、もっと突っ込んだ展開を見せてほしかったと残念でならない。

今回の映画化によって原作を読む人が増えてくれれば嬉しい限りだが、映画作品そのものの出来はあまり嬉しくない本作、原作と切り離して堤幸彦作品として観ればそれなりには楽しめるので、TVなどで放送される機会があれば、観ておいても損はしないだろう。期待は禁物。



tsubuanco at 17:24│Comments(10)TrackBack(17)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by うつ   2007年10月30日 20:30
自分がうすぼんやりを感じていた不満が的確な言葉になって書かれていて、頭が整理できました。ありがとうございます。
2. Posted by 咲太郎   2007年10月31日 01:04
うーむ原作がとっても読みたくなりました。
私は堤作品が好きなので
かなり贔屓目で観ていることは間違いありません。
でも楽しめました。
3. Posted by kame   2007年10月31日 10:02
見終わった後、ジャンゴと似たような印象を受けました。(もちろんストーリーではなく)
もっと面白くなりそうなのに、ズバッと来ないもどかしさと言うか。
ただ、特に過去編のキャストは良かったですね。熊本さんがかなり好きです(笑)
4. Posted by sheep   2007年10月31日 21:21
すみません。
知人からパグの子犬を貰おうとするほどの宮崎あおいファンで、「ただ君」はDVDを相当な回数見て、その都度、落涙しております。
サブタイトルの意味は映画の中にあるんでしょうか?
5. Posted by つぶあんこ   2007年10月31日 22:45
原作は文庫ならブックオフとかで100円で売ってると思います。

里中静流の名前が脚本にクレジットされてるので、堤幸彦のPNかなあと。
6. Posted by sheep   2007年11月01日 21:29
レス、ありがとうございます。
脚本ですか。じゃあ、自分のような民間人には目にする機会は無いですが、映画のどこかに静流の影を見つけられないかと、力一杯観に行く気になっている意外な自分の姿を発見して一人で驚いております。
スレ汚し、すいません。
7. Posted by てしがわら   2007年11月04日 21:59
ああ、そんなデキなんですか。残念。
原作の熊本さんファンとしては観たいような観たくないような。
う〜〜む。
8. Posted by つぶあんこ   2007年11月06日 19:08
熊本さんは割と良かったと思いますが。
9. Posted by しげと   2007年11月15日 19:28
赤ちゃん出ましたね。
かわいいー
10. Posted by キャサリン   2008年06月09日 20:31
4 予備知識無、退屈覚悟で見たせいか、見終わった後、結構感動し、少しだけ胸を熱くして帰途に着いた。
自分の中に共鳴できる何かがあったのだろうか?

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