2007年10月26日

サルバドールの朝 6点(100点満点中)

カネヲダセ、サモナクバ、カネヲダセ
公式サイト

1970年代初頭、フランコ軍事独裁政権末期のスペインにて、左翼活動家であるサルバドール・プッチ・アンティック25歳が死刑に処せられた、実際に起こった出来事を再現した映画。

『パンズ・ラビリンス』でも描かれていた、スペインにおける独裁政権との闘争を題材としているが、『パンズ〜』はその黎明を、本作は終末期を舞台としているところに、時代以上の大きな差異がある。

『パンズ〜』の時代には武力闘争が現実的な手段として健在だったのに対し、本作の時代においては、日本の左翼活動と同様に、自家中毒を起こして衰退死に至る過程にあった、この背景を踏まえて観るべきだろう。

最近の日本映画『幽閉者 テロリスト』などもそうだが、本作もまた、左翼活動に対する体制の迫害、暴力を、活動家側に同情的な視点で描き、滅びの美学的ドラマによって観客を感動させようという意図で作られているのだろうが、それが成功しているとは考え難い。

主として前半で主人公・サルバドール達の左翼活動の実態を見せ、後半では逮捕から処刑に至るまでを見せる構成となっているが、まず前半の活動場面において、その活動の正当性あるいは体制側の問題点をハッキリ描写して、観客の共感と感情移入を生んでおかない事には、後半の"悲劇"に感動する事は出来ないのだ。

だが、本作で見せられる活動はやたらと銀行強盗ばかりで、これでは政治活動家ではなく単なる無法者ではないかと観客に思わせてしまうハメとなっている。

確かに銀行強盗は資本と結びついた体制と戦うには一石二鳥の手段ではあるが、その結果としてどの様な政治活動、あるいは資本・体制側への具体的なダメージとなったのか、といった、行為の持つ意味までもフォローしない事には描写が不足すぎる。

あまつさえ、銀行強盗で声明文を吹き出しながら読み上げ、ついには途中で読むのをやめて強盗を優先させるといった演出が強調されているに至っては、革命の理念そのものに彼ら自身が懐疑的ではないのか、とさえ感じさせられる程で、これでは『俺達に明日はない』などにも似た、馬鹿な若者が暴走しているだけの光景としか映らないのだ。

そもそも、軍事独裁政権下で反政府活動を行ったらどうなるかは重々承知ではなかったのか、だからこそ隠れてコソコソ活動していたのだろう。

にも拘らず恋人の住所を連絡に利用するなど、周囲の人間が自分の活動により迷惑を被る可能性など全く考慮せず、いい様に利用し都合のいい逃げ場所としているのでは、崇高な理想を並べ立てておいて、結局は自分の事最優先でしかない醜態、としか見えない。

あるいは左翼活動家の典型とも言える、そうした自覚のない愚かさを嘲笑する目的で作っているとしたらわからないでもないが、どうやらサルバドールの運命を悲劇として観客を泣かせようと本気で作っているのだと後半で気づかされるに至っては、もう呆れる他ない。

こんな描き方で主人公に共感して感動出来ると思っているのなら、作り手は当時の活動家と同レベルのおめでたい頭の持ち主なのだろうとすら考えさせられる程だ。

そうして全く共感も同情も出来ない土壌が前半に確立されるため、後半の"泣かせ"展開のクドさには心の底から辟易するハメとなる。

この後半もまた、左翼人のテンプレートとも言うべき、自己愛、自己憐憫、自己正当化、自己陶酔、および責任転嫁に終始し、自分の行いが引き起こした結果ながら現実に向き合おうとせず、獄中でも読書に耽ってますます頭でっかちとなり現実から逃げ続ける、そんな様子が延々と続き、感動どころか気分が悪くなるばかりである。

ただ、ブランコ首相暗殺場面の、爆破された車が跳び上がる映像は、左翼のオナニーに辟易していた観客の眠気もスッキリ醒める迫力で、本作の数少ない見どころとして評価できる。

左翼革命の滅びの美学で感動させたいのなら、雁屋哲&池上遼一の『男組』などの様に、理想の体現に命をかけて憚らない闘志を描いて受け手側を昂らせない事には、同じ穴のムジナ同士で傷を舐め合っているだけの、狭窄した世界しか作れない事は明白であり、この出来ではノンポリ一般人が感動させられる筈もない。

世界どころか自分すら見えず過去ばかり見ている、現代左翼人のレベルを知る事が出来る存在意義はあるが、映画作品としては特段に鑑賞の価値はない。



tsubuanco at 17:03│Comments(0)TrackBack(3)clip!映画 

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