2007年11月16日

犯人に告ぐ 40点(100点満点中)

悪い奴ほどよく眠る
公式サイト

雫井脩介の同名ミステリー小説を映画化。

主人公の娘が嫁に、孫が息子に変えられているなど、細かい部分の改変は見られるが、ストーリーの大筋はほぼ原作通りと考えて問題ない。

が、過去の事件に対するトラウマ的葛藤と克服、それを根底とした現在の事件に対する姿勢、といった、主人公・巻島の心情が丁寧に描かれていた原作とは異なり、事件の推移とそれに対する主人公を始めとする警察官達の動向を、表層的にしか描けていないために、事件ものとしても、心理ドラマとしてもどっちつかずな出来に終わったのは勿体ない。

ただ、原作でも印象的な脇役キャラクターとして記憶に残る植草警視に関しては、演じる小澤征悦のビジュアルと演技、演出の見事なハマり具合に拠って、より強烈に気持ち悪いキャラクターとして、一枚岩とはならない警察内部のドラマに興味を持続させる役割を果たしており、むしろこの話をメインにしてしまってもよかったくらいだ。

一方で、本来メインとなる筈の主人公と誘拐事件の展開、描写の側においては、脚本が『HERO』の福田靖なためか、シリアスなドラマにおいて生の人生を送っているとの背景が感じられる人間を描写出来ておらず、故に事件の推移やそれにまつわる各人物の動向が、全て紋切り型、どこかで見た様なものとしか感じられず、二時間ドラマの枠から突出する事が出来ていない。

犯人の動機や心理動向、あるいは具体的な犯行手口など、事件ものとして観客の興味の焦点となる部分が全くないのは『HERO』と同じく。『HERO』の場合はコミカルなキャラクタードラマとしての面白さは確立出来ていたが、それ以外のシリアス面においては弱すぎる、脚本家の欠点が本作において完全に露呈した形となっている。明らかにこの原作には向いていない人材なのだ。

過去の事件場面にて、ナンパ男を犯人と間違える顛末が原作そのままに登場するが、占部房子が演じる、明らかにブサイクなオバサンにしか見えない女性を、どこの兄ちゃんがナンパするというのか、説得力が無さ過ぎる。キャスティング合わせて内容を変えるか、内容に合わせたキャスティングにするか、当たり前の仕事がこうした部分で出来ていないのでは、マトモに作品を作る気があったのかすら疑わしい。

ライバル局キャスター役の片岡礼子にしても、警視庁のエリートキャリアがそこまで入れ込む相手であるとの説得力が、映画内での描写だけではあまりにも薄いだろう。

原作では、何故彼女に固執するのかを、植草の歪んだ心情を綿密に描く事で、彼自身の気持ち悪いキャラクターを強調する役割も果たしていたが、この映画版ではそうした心情描写がことごとく省略されているのだから、見た目だけで納得できるくらいの事はすべきなのだ。簡単に、井川遥と片岡礼子の配役を入れ替えただけでもそれは出来た筈だ。

ヒキコモリの母親を演じた根岸季衣の過剰演技など、本当に過剰なだけで却ってドラマからリアリティを奪っており邪魔でしか無く、まるで演出の不徹底を象徴している様だ。

ベストセラー小説を原作に出来さえすれば作りは適当でも構わない、本当に良い作品を作るのではなくとりあえず金が稼げればそれでいい、との、映画製作者の愚かな思惑が、そうした端々から簡単に感じ取れてしまうのだ。

それでも現場が頑張れば良い映画は出来るだろうが、脚本の時点で失敗しているので残念ながらこの有様である。

最後にカッと眼を見開く演出などは、映画冒頭とシンクロさせる事と、最後の最後に意味ありげな事をさせて驚かせたい、という、表層的な狙いに終わり、ストーリーやテーマとの絡みが何ら無く、やはり底が浅い。

冒頭の場面が過去であると最初には明かさず、携帯電話の形の古さなどで違和感を与えておいて、後から過去であったと観客に伝えて納得させる、といった部分では気配りが行き届いているのだから、全てを徹底させてほしかったところだ。

WOWOW製作なので地上波では放送されないかもしれない本作、内容に興味があるなら原作を読んだ方が良いだろう。ただし小澤征悦のキモさだけは一見の価値ありか。自己責任で。



tsubuanco at 17:17│Comments(2)TrackBack(9)clip!映画 

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1. 犯人に告ぐ  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2007年11月20日 23:17
基本的な問題として、豊川悦司さんは最初の事件で個人的な決定的ドジ踏んでいないはずだし、被害者のお父さんが何で豊川さんだけを恨むのか分からない。警視庁と神奈川県警のメンツ争いだって豊川さんの責任ではなく、もっと上層部レベルの話だろう。
2. 映画「犯人に告ぐ」  [ 日々のつぶやき ]   2007年11月21日 11:59
監督:瀧本智行 出演:豊川悦司、石橋凌、小澤征悦、笹野高史 「児童誘拐事件で人質の子供が死体で発見された。警察のミスを指摘され、病床の妻子のことでも切羽詰った状況だった巻島はカメラの前で失態をしてしまう。地方に飛ばされていた巻島はそれから六年後、連続
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3 川崎で発生した連続児童殺害事件。警察の必死の捜索にも関わらずBADMANを名乗る犯人の手がかりは一向に得られなかった。警察はTVで捜査協力を呼びかける作戦を考案し、捜査指揮の責任者としてかつて問題を起こし僻地に飛ばされた刑事・巻島を呼び戻す。 トヨエツ...
5. 「犯人に告ぐ」  [ MEICHIKUえんため・ぶろぐ ]   2007年11月25日 19:34
この作品は、今年の秋に劇場公開される作品で、WOWOWが制作した劇場作品である。6/24夜に劇場公開に先駆けてWOWOWが一夜限りの先行放送ということで、劇場公開前に放送してくれたということで、これは映画館に行く必要は無くなったということでしょうか...?いや、感想や意見....
6. 【映画】犯人に告ぐ  [ 新!やさぐれ日記 ]   2007年12月25日 22:52
■状況 109シネマズ佐野にてサービスデー価格で観賞 ■動機 雫井脩介映像化企画第一弾 ■感想 原作を随分と大切に扱ったな、という感じ。 ■あらすじ 川崎で起きた連続児童殺害事件で“BADMAN”と名乗りテレビに脅迫状を送りつけた犯人が、3件目の犯行後、こつ然と...
7. 映画『犯人に告ぐ』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年01月03日 11:01
97.犯人に告ぐ■制作:東宝■製作年・国:2007年、日本■上映時間:117分■鑑賞日:11月25日、シネマスクエアとうきゅう(歌舞伎町)■公式HP:ここをクリックしてください□監督:瀧本智行□脚本:福田靖□原作:雫井脩介□製作:和崎信哉、春名慶□照明:蒔...
8. [映画]犯人に告ぐ  [ お父さん、すいませんしてるかねえ ]   2008年02月05日 09:56
横山秀夫のみならず、踊る大捜査線でももう少しちゃんと警察内部の事情を描いていたように思います。 あらすじを簡単に ノンキャリながら警視まで上り詰めた神奈川県警の巻島は、2000年に発生した誘拐事件捜査に失敗。 釈明記者会見の場で逆ギレし、田舎町の警察署に飛
9. 犯人に告ぐ  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年05月02日 19:55
 『幕は上がった。主役は、お前だ―― お前はもう逃げられない。 今夜は震えて眠れ――』  コチラの「犯人に告ぐ」は、雫井脩介の同名ベストセラー小説を映画化したサスペンス・ミステリーです。公開前にWOWOWさんでは放送されてたんですよね〜。  まぁ我が屋では加...

この記事へのコメント

2. Posted by 爽泉   2007年11月20日 10:33
原作にある植草に偽情報をつかませて罠にかけるところがカットされてましたね。
3. Posted by つぶあんこ   2007年11月20日 16:45
ましたね。

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