2007年11月23日

呉清源 極みの棋譜 2点(100点満点中)

これ違うよ塩素だよ
公式サイト

昭和の棋聖とも称された、中国出身の棋士、呉清源の自伝的書籍『中の精神』を原作とした、田壮壮監督による中国映画。

散文詩的な文芸映画の作り手である田壮壮だけに、オーソドックスな伝記映画の類にはならない事は想定の範囲内だったが、出来上がった作品は、これでは実在の人物である呉清源を扱った意味さえ希薄に感じられる、完全な失敗作と呼んで差し支えないものに終わっている。

何も、殊更に感動させる様なドラマチックな演出や、囲碁の勝負をエキサイティングに煽って見せる様な映画である必要は無く、田壮壮にそれを求めるのはお門違いだ。

だが、呉清源という人物に対する概略的な知識がないと全く意味がわからず、知っていたとしても呉清源の物語として楽しむ事は難しい、こんな有様ではお話しにならない。

監督は、棋士としてより求道者としての呉清源を描きたかったらしく、実際、璽宇教との関わりが中盤にクローズアップされるあたりからは、そうした意図を汲み取る事も可能と言えば可能だが、全体としてはどうか。

始まりから終わりまで、エピソードのブツ切りと箇条書きの羅列に過ぎず、事象も心情も、背景となる激動の近代史においても、繋がりと言うものが全く見当たらないのでは、そもそも実在の人物の人生を描く事すら出来ていないではないか。

とにかく一切説明が無く、映像や演出、演技から推し量れるだけの情報すら完全に不足しているのだから、ストーリーを楽しませる事は最初から放棄しているのだろうか、いや、だったら合間合間に説明的に差し挟まれるテロップは必要なかった筈だ。狙いがあまりにも中途半端に過ぎる。

誰が誰で何がどうなったのか、何を考えてどう行動したのか、経緯も心情も何も伝わって来ず、呉清源が日中の間をどう揺れ動いたのか、社会的な位置づけ、扱いはどうだったのか、どんな風に強かったのか、それどころか、どんな人だったのかすら全くわからないままである。

中盤にウエイトが置かれている、璽宇教絡みの展開もまた、同教団や教祖・璽光尊=長岡良子の、歴史的な足跡を知っていれば、それを踏まえて再現した場面の、そこで行われている事の意味はわかるとして、ではそれが、求道者としての呉清源の心情にどんな影響を与えたのか、が、これまた全く描かれていないのだから、監督の思惑は失敗しているのだ。

長岡良子(南果歩)がいきなり天照大神を自称しだす場面などは、その前段として昭和天皇のいわゆる人間宣言を踏まえさせておけば、璽宇教の事を知らない観客でも行動の意味は理解出来ただろうし、昭和史を背景として描いて作品に奥行きを与える事も出来た筈だ。

そうしたディテールを整える、あるいは切り取った場面の前後を想起させる、といった仕事が何らなされていないのだから、ブツ切り、箇条書きと言われて当然である。

場面場面での演技、演出も、対局中にいきなり相手が鼻から血を流して倒れるなど、どう反応していいのか意味不明なものに終始し、これもまた、前後のつながりを断ち切っている事が大きな要因となっているのだ。(その後「一番の激戦だった」とのテロップに至っては、笑わそうとしているとしか思えない)

結局、呉清源とはどんな人だったのか、いつ頃に何をどうしてどう生きたのか、"偉人"として扱われるだけの凄さがどこにあるのか、この映画だけを観てわかった人がいたなら、その人の方がよっぽど偉人である。

碁に興味がある、近代史、昭和史に興味がある、などの人が観たところで、まず呆気にとられて次第に怒り出す事確実なので、全くオススメはしない

ただし南果歩演じる教祖様の演技はある意味面白いので、彼女主演のスピンオフで璽光尊を主人公にした映画でも作られたなら、是非観たいところだ。



tsubuanco at 16:34│Comments(0)TrackBack(3)clip!映画 

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