2007年11月24日

オフサイド・ガールズ 77点(100点満点中)

客観的に自分をみれねーのかバーカ
公式サイト

ドイツワールドカップへの出場を賭けた、イラン vs バーレーン戦の試合会場を舞台に、法律により会場での観戦が行えないため、男装して侵入した女性サポーター達に焦点を当てた、イラン人監督ジャファル・パナヒによる社会派エンターテイメント映画。

実際に当該試合が行われている会場で撮影を敢行し、出演者も全てアマチュアの市井人を使っている、ドキュメントとフィクションの境界を極限まで曖昧にしている事が、まず本作の大きな特徴として挙げられるものだろう。

そうした手法により、他のイスラム系国家とは異なる文化と歴史を持つイランの"リアル"を、観客自身がその場に立っているかの様に作品内へと没入させ体感させる事が可能となり、"演技"で見せられるメインのドラマでさえ、ドキュメントとして受容してしまう、作り手の狙いは充分に果たされている。

周囲の群衆とそこから物語に参加する人物、どこからどこまでが仕込みでリアルなのかすら曖昧な、あまりに自然な"試合当日のイラン"の様子をただ見るだけでも、サッカーと言う共通言語を介しながらもあくまでも異文化である、心情の共有と視覚の乖離のギャップが何とも楽しい。

序盤における会場に向かうバスや、終盤での街のお祭り騒ぎなどは特に、そうした楽しみは大きく、また、昼から夜へと時間軸と背景が変わりながらも、観点をバスの窓から見る光景と共通にして、試合前と試合後の対比、回帰構成を明確とした、場面配置の巧みさが感じられもする。

絶えず何らかの問題が起こり続け、一つが落ち着いたと思ったらまた新しいキャラが次々に登場して事態をややこしくする、シチュエーションを相互連続的に配置して観客を飽きさせない、娯楽性にこだわった脚本構成も見事。男装のレベルがどんどんグレードアップしていくあたりは、ギャグの教科書に極めて忠実だ。

各シチュエーションにおいては基本的に、ドツキ漫才や禅問答的な掛け合いで観客の興味を繋ぐべく作られているが、互いの噛み合なさをまず表層的なおかしさとして提示し、その中に込められているイラン社会の様々な問題を、決して噛み合させない事で矛盾や齟齬を浮き彫りとしていき、コメディ的なオチを付けて揶揄する、といった風に、脚本的にもかなり考えられている事は間違いなく、それを面白く見せてしまう演出力もまた素晴らしい。

1シチュエーションにつき1カットに近い、手持ちカメラによる長回しによって、リアル感、ライブ感を更に強調し、人物の移動に付き従ってカットを割らずカメラで追い続ける事で、同じく試合中のスタジアムにて行われている事を効果的に体感させている、カメラワークの巧みさも見逃せない。

トイレに行く女性と兵士にまつわる顛末の、延々と切られない超長回し場面などは特に、行っている内容のバカバカしさと反比例しての兵士の深刻さのギャップがあまりにもおかしく、それがやはり試合中の会場である事で時間感覚までもがリアルなものとして彼を追いつめていき、作品の特殊性が充分に活かされた名場面と評せるものだ。

特定の偏向した思想や主張を声高に押しつける事無く、あくまでも現実的な光景として社会問題を切り取り、抑圧される側、する側を共に悲喜劇として描き、つまるところ問題はどこにあるのかを観客に委ね、それを笑って楽しめる娯楽作品の体裁で作り上げてしまう、ジャファル・パナヒ監督のセンスと手腕はまさに秀逸。

同じワールドカップ予選でのイラン vs 日本戦にてイラン人観客の7人が死亡した、実際に起こった事故が背景となっている事など、日本のサッカー好きなら興味が湧くだろうが、サッカーや宗教、人権問題などの題材に興味が無くとも、良質な社会派娯楽作品である本作は映画好きなら必見の一本だ。機会があれば是非。



tsubuanco at 16:20│Comments(0)TrackBack(1)clip!映画 

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1. オフサイド・ガールズ  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2007年11月21日 20:21
 『"男装"してスタジアムに潜り込んだ少女たちの、 元気いっぱい青春ストーリー』  コチラの「オフサイド・ガールズ」は、女性がスタジアムで男性のスポーツを観戦するコトが原則として法律で禁じられているイランで、それでもスタジアムでサッカーが観たい!!!と、....

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