2007年11月29日

肩ごしの恋人 28点(100点満点中)07-330

お前のものは俺のもの
公式サイト

直木賞受賞作である唯川恵の同名小説を韓国にて映画化。当然ながら舞台は韓国に、登場人物は全て韓国人へと変えられている。

20代後半(ドラマ版は30歳、今回の映画版では30代半ば)の二人の女性の、女の理屈女の都合を各々の視点で緻密に描き、そこから無自覚な愚かさが内包されている事にも気づかされ、一方の観点からの他方への理解と誤解をそれぞれに対比させるなどして、一面的でない人間個人の有りようと相互関係を綴っていくスタイルで、外面的な事象はその内面を描くためのギミックであるところが、原作小説の主軸であり面白さである。

が、本年に日本で連続ドラマ化された際には、主人公の一人、萠(米倉涼子)の視点をメインにほぼ固定し、そちら側の観点で事象を描く形式へと改変され、普通のドラマに比べればモノローグを多用しつつも、本来の作品の特色であるべき緻密な内面描写はやはり原作に比べれば薄味となり、結果としてありがちな女の欲にまみれたスイーツ物語でしかなくなってしまった事も併せ鑑みるに、原作小説の方向性は映像作品向けでは決して無いのだろう。

これは、本原作と似たスタイルである、恋愛、セックス、自分らしさにまつわる女の内面語り作品が乱立するレディースコミックが、漫画の段階ではそれぞれ傑作と呼びうる作品がいくつもありつつ、それが実写映像化された途端に陳腐なスイーツ物語に堕してしまう現象からも明らかである。

それが製作者側のセンスや営業の方向性の問題だけでは無く、言葉を文字として読ませるメディアと声で聞かせるメディアとの差異が、移植に際しての大きな障壁となっていると考えるべきだろう。

今回の韓国映画版においては、ドラマ版以上にモノローグを排して主観的心情描写が大幅に減少しただけでなく、主人公達のそもそものキャラクター自体が外的にも内的にもかなり変えられているため、いくつかの事象は原作と同じながら、その事象に際しての主人公達の思惑や感情は全く異なるものとなり、もはや原作とは別物と呼んで問題ない状態である。

日本人と韓国人のものの考え方の差異や、いわゆる韓国映画、韓国ドラマ的な演技、演出スタイルが、そのギャップを更に押し広げている事は言うまでもない。

そして、全くの別物として鑑賞した場合、トレンディードラマ全盛期にいくらでも見かけた様な、ありがちな女がありがちな人間関係を繰り広げる、ありがちな三流ドラマでしか無く、もともと原作にあった面白さが薄れた代わりとなるものが何も無い状態の本作は、何ら特色の無い、見なくても何も困らない作品でしかなくなっている。

ただし、主人公ジョンワン(原作における萠)を演じるイ・ミヨンの、とても30代後半には見えない可愛さと、自然体を自然に見せる演技、表情の上手さにより、この映画版としてのキャラクターを好演していると評価出来る。

だがもう一方の主人公であるヒス(原作でのるり子・ドラマ版では高岡早紀)を演じたイ・テランは、「男に好かれて女に嫌われるタイプの美女」という設定から明らかに乖離した、サザエさんみたいな髪型のセレブ気取りのオバサンにしか見えず、こちらは明らかにミスキャストだろう。

彼女が美人でない事で、彼女が旦那の浮気相手を「若さ以外何のとりえも無い女」と評するくだりが、若くてそこそこ可愛くて魅力的なその浮気相手に対する、単なる負け惜しみにしか感じられず、本来の意味を損なってしまっては、ストーリーの方向性が変わってしまうのだから、これは大問題だ。

何より、見た目が魅力的である事が最大のアイデンティティであるからこそ、モテないタイプの旦那が固執する事にも説得力が生まれるのに、見た目がコレで性格も悪い女に何の価値があるのか、話が成立しない

後半に脱ぐシーンがある事から、キャスティングに制限があったのかもしれないが、だったら特に必要の無いそんなシーンを削除して、ツートップ美女主人公として誰もが納得できるキャスティングを優先すべきではないか。まさに本末転倒だ。

ドラマ版は出来があまり良くないと思っていたが、この映画を観ると、まだドラマ版の方が原作の良さを表現しようと努力していた事に気づかされもするが、目糞鼻糞か。

出演者のファンならとりあえず要チェックだろうが、内容に興味がある場合は原作を読む以外の選択肢は有り得ない、特に鑑賞価値の無い作品である。自己責任で。


余談:
本文中、似た様な作品がレディコミに乱立していると書いたが、原作小説の特異性はもちろん文章表現の巧みさや心理描写の説得力も評価点ではあるが、これが漫画ではなく小説である、という一点こそが最大である事は間違いない。

かつて景山民夫の『遠い海から来たCoo』が、明らかに『のび太の恐竜』そのままの内容ながら直木賞を受賞してしまった事なども併せ、同賞の選考委員がいかに、小説以外の"文化"に疎いかが丸わかりである。芥川賞も似た様なもんだが。



tsubuanco at 15:49│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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