2007年11月30日

ヴィーナス 83点(100点満点中)

優しさだけの 言葉はいらない
公式サイト

『ノッティングヒルの恋人』で知られるイギリスの映画監督ロジャー・ミッシェルによる最新作。

ピーター・オトゥール演じる主人公モーリスの役柄である"往年の大スターであった老俳優"が、そのまんまなキャスティングなだけにリアル過ぎる程にハマり役である事が、本作の演技、演出面での基盤を支えている事がまず印象的。

友人役として各所で主人公との掛け合いを行い、メインである主人公とヒロインの物語に対するインターミッションとなる、イアン(レスリー・フィリップス)とドナルド(リチャード・グリフィス)のキャラクターおよび演技、演出もまた、老人のキャラクターパターンを戯画化して分担させ、ヒロインに対するそれぞれの観点を多角的に見せる事で人物像に深みを与えつつ、老人あるあるネタ的なコメディとして単純に楽しませる、気の利いたダイアローグと演出の妙が楽しい。

病院で家族に囲まれて息を引き取る老人の役、をモーリスが演じている場面は、場面切り換えの唐突さによって劇中劇と劇中現実の境界を不明にさせておいてオチとする、その場におけるコメディトリックとしてまず観客に印象づけておいて(日本人の視点では、「ベタな泣かせドラマ」は万国共通な事に苦笑させられもする)、だがそんな陳腐な絵に描いた様な死に様は、本当に普遍的幸福なのか、と、モーリスの最期の場面へ対比する大いなる伏線となっているなど、コメディとしての仕掛けとストーリーやテーマの構成とが、様々な局面で絡み合っている事に気づけば、更に楽しめるだろう。

開かれたドア越しに、その奥の室内にいる人物を観客に見せる事で、画面内に更なるフレームを配置し、作り手の表現したい画面のかたちを様々に変えて、観客の視点、観点を誘導する、映像手法が全編通して多用されている事が、視覚的に印象に残る部分である。

そうして、視覚的なトリックとしてまずドアや建造物を用いておいて、続いてドアそのものを物理的な境界として用い、視覚によって人物の内面や相互関係を表す演出としている、映像と演出を相乗させ、そこに気の利いた台詞をプラスして更にシチュエーションの意義を高める、狙い済まされた構造構築が素晴らしい。

モーリス宅の玄関ドアが、開かれたり開かれなかったりする事で、ジェシーと彼との距離感、障壁を表現している事は言うまでもなく、この仕掛けは、終盤、後悔して駆け戻ってきたジェシーがドアを叩くも開かれない場面に集約されている。

更には、喫茶店のドア越しにイアンとジェシーがドナルドを介して和解する場面へと繋がり、額縁に収まったヴィーナスの絵画へ帰結して、作品世界の風呂敷を完全に畳んでしまう。あるいはガラス窓や鏡を用いて、反射、投影といった物理事象からを心象を表現する手法もまた秀逸。

それらの映像演出を支えているのが、先述の通り主人公を始めとする老人達および、本作が映画初出演となるジョディ・ウィッテカーの、ディフォルメ(または記号化)とリアルのバランスが取れた演技によるものとは言うまでもない。

美(=若さ)あるいは性(=生)に対する、男性視点における果てない憧憬を、ウィットやユーモアを基調としつつ、時にネガティブな心情を交え、そのギャップで観客の感情を揺さぶる、老いを題材とした青春映画という、一風変わった作品である。

映画好きなら一見の価値あり。機会があれば。


tsubuanco at 16:41│Comments(0)TrackBack(7)clip!映画 

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