2007年12月02日

童貞。をプロデュース 90点(100点満点中)

雑草という名の草はない
公式サイト

二人の童貞青年をそれぞれ二部構成で捉えた、松江哲昭監督によるドキュメント映画。

ドキュメント作品『あんにょんキムチ』にて評価を受け世に出た松江哲昭、その後、『ほんとにあった!呪いのビデオ』の様なフェイクドキュメント作品やAV、ピンク映画など、メインストリームから逸脱した作品を様々に撮り続け、本作は、それらの蓄積が現時点で結集されたものと位置づけられる。

実際に実在する人物をターゲットに、周囲の家族関係、人間関係までもガチンコで捉えていく事で、リアルドキュメントとしての本作の基本的方向性を押さえつつ、そこに本人(二人の童貞)のあずかり知らぬところに演出と仕込みをプラスする事で、それに対する当人のリアクションから更なるリアルを生み出す、リアルとフェイクとが絶妙に混成された世界から、リアル以上にリアルを感じ取る事が出来るのが本作の特異性であり評価点である。

このスタイルは、筋書きと役割が確固として存在しながらも、行われている行為そのものはホンモノであり、その中から幾分かのリアルを感じ取る事が出来る、AVに見られるリアルとフェイクの曖昧な境界にも近似したものである。

AVとは、通常では人目に触れる事はないが現実として誰にでも存在しうる事象を、障壁を取り払って開陳し公開する、一つの究極的な作品ジャンルであり、人間そのものに対する観察と理解なくしては、優れた作品を作る事は不可能なのだ。(実際、巷に溢れるAVの大半は、作品と呼ぶに値しないレベルだ)

松江監督は、自身の仕事からそうした人間のリアルを捉える能力を磨き、AV以外の作品にもそのセンスを投影する事に成功し、キャリアが有用に本作の完成度を高めている。

ただ素の人間を撮るのではなく、より深い素を引き出すために様々な仕掛けを用い、観客を楽しませる、仕事の確かさは、本作の端々から感じ取る事が出来る。

例えば、第一部序盤において、堀北真希のDVDを何度も手に取る加賀(第一部主人公)に、「だからそれはAVじゃねーよ!」と何度も突っ込んで手放させておいて、ラストカットではカメラ前に積み上がったエロDVDの一番上に、件の堀北真希DVDが乗せられている。

この様な、狙ったオチをさりげなく気づかせる巧みな演出、構成が各所に配置されて、無意識化で観客は自身の観点、心理を操作されているのだ。

長々と撮影される素材の、どこをどう切り取って見せれば面白く、興味深くなるのかを完全に計算した、編集センスの確かさもまた、本作の完成度を大いに高めている。

AV撮影現場を一時抜け出し、廊下で監督に説教される加賀の場面ラストで、加賀の頬を監督が平手打ちした瞬間にシーンを切り換える転換などが、比較的わかりやすい好例として挙げられる。テンポやリズムをコントロールする事で、同様に観客の興味や感情をコントロールする事に確実に成功している。

そうした確かな手法によって捉えられた二人のターゲットの、"童貞""オタク"を共通素材としながら対称的な人物像を作品構成そのものの対比構造に利用し、作品テーマを作品内容そのものに混成させた、構成における認識、理解力も秀逸。

第一部の童貞・加賀は、自意識過剰な自己拘泥により童貞であり続ける、一般的な童貞の象徴とも言える存在として見せられており、彼の姿から、非童貞の観客はかつて童貞だった頃の自身と、現役童貞は現在の自分自身と、それぞれ共通する、痛々しい自意識と無意味なプライドを感じ取って、ある意味で自虐的な笑いの感情にとらわれていく事となる。

第一部の結末に用意されているシチュエーションが、一般的認識におけるハッピーエンドである事も、彼がオタクではあるがメンタリティとしては一般人に共通するものがあると示している。

一方で、第二部の童貞・梅澤は、精神的には未成熟な一般人であった加賀とは対称的に、デリヘルや風俗大好きな素人童貞であり肉体的な童貞は既に捨てているものの、メンタリティ的な面においての生涯童貞である事に何ら迷いのない、選ばれし童貞であり、両者の差異が強烈なインパクトとなっている。

童貞である時期が少し長かっただけの、ごく普通の成人男性であった加賀が、ごく普通の幸福としてのハッピーエンドを迎える事が出来た第一部は、だがしかし、童貞をプロデュースすると童貞でなくなってしまう、というジレンマをも生んでしまっており、このジレンマに対する監督の解答が、選ばれし童貞の幸福な日常を捉え続ける、第二部の構成スタイルに如実に現われ、その意図が、被写体兼撮影者である梅澤自身の希有なキャラクターによって支えられる事で、第一部を前フリとした"童貞である事の結論"として提示されているのだ。

二人の童貞を通じて、人としての幸福とは果たして何なのか、と、笑わせながらも考えさせられる、監督のセンス・技量と被写体の個性が極限まで相乗した、良質のヒューマンドキュメントである本作、童貞・非童貞、または処女・非処女を問わず、人として観ておくべき一本と断言できる。機会があれば是非。

追記:
それにしても、第一部のAV撮影現場の顛末は、あの場の男女構図を逆転させて考えてみれば、その行為が当人にとって如何に屈辱的なものかが瞭然となり、更に笑わされてしまう。奥が深い。

オマケ:島田奈央子(元:島田奈美)公式サイト




tsubuanco at 17:56│Comments(7)TrackBack(0)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ぴーかん   2007年11月29日 23:08
自分も結構前ですが見ました。内気なキューピッド。妙に頭に残る良い歌ですよね。それを歌う梅澤君の幸せそうな顔といったら……個人的には本編始まる前に流れた「そんな無茶な!」の予告編で爆笑しました。
2. Posted by 爽泉   2007年11月30日 09:06
梅澤君が撮った自主映画観たくてたまんないっす。
3. Posted by つぶあんこ   2007年11月30日 17:42
あの自主映画が、本当に梅澤くんが作ったものなのか、という疑問もありますが。
4. Posted by 涙目   2007年12月02日 01:12
AV撮影現場は引きました。
けど、一号の「気持ちいいけど気持ち悪い」は名言です。
ところでつぶあんこさんは「国道20号線」は観ないの?
「童貞をプロデュース」と「国道20号線」が私の今年観た映画では、素晴らしさで抜きん出ています。
是非レビューが読みたいんだが。
もちろん辛口で。
6. Posted by つぶあんこ   2007年12月03日 17:31
今のところ地元で上映される予定がありませんので。
7. Posted by 旅人   2007年12月19日 23:17
あるBBSでみたんですが、島田さんは
拒否したのに無断使用されたのが
とても不快で怒ってるみたいですね。

アイドル時代も外見とギャップのある
堅い言動で、ファンがふるいに掛けられる
ことが何度もあったようです。
今後モメるようなら、それもドキュメント
にしてくれると、ちょっとみたいかも。
8. Posted by つぶあんこ   2007年12月21日 17:35
あれだけの美形だと性格悪くても通っちゃいますからねえ。沢尻エリカも同様。

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