2007年12月03日

壁男 23点(100点満点中)

「さようなら、みなさんさようならー…」
公式サイト

1995年から1996年にかけて発表された、諸星大二郎の短編連作漫画を実写映画化。今回の映画化に際して表題作としての短編集が発売されている。

壁男に取り憑かれる仁科(堺雅人)と、その恋人響子(小野真弓)の、主人公二人の存在は同じながらも、短編を長編映画にするべく、ストーリー的にはかなり改変されている。

都市伝説を題材として扱い、噂話がメディアによって社会現象化していく様と、それに翻弄される者達の変容を描いている本作だが、何故仁科と匿名希望の池田の二人だけが壁男に取り憑かれたのか、と誰もが抱く疑問に対しては、二人とも響子に関わり彼女に好意を持っていた共通項こそあれど、では響子と壁男の間に何かがあるのか、の関係性には全く触れず、終盤になっていきなり力技で関連させるのは乱暴すぎる。

不条理なる言葉を劇中でも連呼していたが、思わせぶりに投げっぱなしにしているだけでは、それは不条理ではなく逃げているだけだ。

写真家である仁科が個展のテーマに挙げた"内と外"を、仁科自身のイコンとし、その内と外の間として、中庸=ミディアムの複数形であるメディアという言葉の存在を語らせて、その言葉には媒体としての意味とそこから派生して巫女霊媒の意味も含まれていると考えを及ばせる事で、マスメディアに籍を置く響子が、仁科の内と外を媒介する=壁を越える役割を果たしたのか、とも、後から読み取る事は可能だが、その結論に至るには、あまりにも響子側の描写および響子と仁科の関係性描写が足らなさすぎ、池田と響子の関係性に至っては、池田側からの一方的な片思いに過ぎないのだから余計にわからない。

また、老夫婦や母子家庭(?)の描写が意味ありげに挿まれるが、これが壁男と関係があったのかどうかも不明瞭なままで、オチも何もなく中途半端に投げ出されて放置である。響子を乗せたタクシー運転手が事故死した事からも、響子と関わる事で何かが起こる事を示唆しようとしているのかもしれないが、関わっても何も無い人達がいるのでその構図は成立しない筈だ。

不条理ホラー、サイコサスペンスとして、観客を怖がらせたり驚かせたりするシチュエーションの作り方にも問題がある。

TV局の廊下に立つ響子の背後から手が伸びてくる場面では、彼女が一人になった時点で背後から何かが現われると、前段としてカニ男マスクを使っている事からも容易に予想がつく。だから、そのまんま背後から手が現われるだけでは観客を驚かせる事は難しく、完全に予想外かあるいは予想から少しズレた現象を見せないといけないのに、ただ手が出てくるだけなのだから、工夫のなさに呆れてしまう。

その見せ方としても、最初は響子の顔を左側から撮っていたのに意味もなく右側からの同サイズのショットに切り替わるなど、観客の視点を誘導して注意を引く、または逆に注意をそらす、あるいは何者かの視点と気づかせて期待させるといった意図が何も感じられないカット割りなため、全く驚きも怖がりも出来ないのだ。

ただ手が出てくるだけで観客を飛び上がらせる事が出来る、中川信夫中田秀夫らの卓越したホラー、ショッカー演出センスに比べると、その拙さは一目瞭然である。

簡単に予想がついて案の定そのまんま、というフリとオチが、終盤の重要なショックシーンでも同様なのだから困る。響子の手に傷がある事を早い段階から強調し続けた上で謎の手首を見せられたら、この後この手に傷がある事を見せて、実は響子の手だったと驚かせようとしているのだな、と、誰でも考える顛末をそのまま見せられて驚ける筈がない。

また、恐怖展開を盛り上げるべく配置されているキャラクターである、池田や老管理人の演技があまりにも下手すぎるため、盛り上がるべきシーンも完全に興醒めとなっているのは致命的である。

当初、響子がレポーターを務める番組に素人として出演している段階では、素人が打合せ通りに喋らされている事を意図した演出なのかと思っていたが、本編ドラマ部に登場しても同じく素人演技を見せられ続け、単に下手だっただけと判明し、せっかく堺雅人や小野真弓が迫真の演技を頑張っているのに、相手が棒読みでは台無しで気の毒な限りだ。

原作からして、都市伝説が広がっていく現象とその正体、それに関わる人々といった各々要素を上手くまとめ切れていなかった感があり、短編集の表題作とするのには本来そぐわない出来だったが、この映画版はそれに輪をかけて狙いが散漫でオマケに冗長に尽き、いろいろと残念な気持ちだけが残ってしまう作品に終わっている。

それにしても、諸星大二郎は他に沢山傑作と呼べる不条理ホラー漫画を描いているのに、何故よりによってこれを選んだのかが、壁男の謎よりも謎だ。

主演二人のファンまたは諸星大二郎ファンなら、期待せずに一応チェックしておいてもいいかもしれないが、そうでもないなら特に観る必要はないだろう。自己責任で。



tsubuanco at 17:33│Comments(0)TrackBack(1)clip!映画 

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1. 映画「壁男」プレミア上映会  [ 日々のつぶやき ]   2007年12月06日 10:17
監督:早川渉 出演:堺雅人、小野真弓 道新ホールにてプレミア上映会。行ってきました?? 上映終了後には監督&出演者のトークもあり見応え十分。 この作品は札幌在住の監督と主演のお二人と数人のキャストを除くとほぼ北海道のスタッフで作り上げた札幌発信の映画

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