2007年12月07日

M 64点(100点満点中)

を取ったら他人です。
公式サイト

馳星周の中編集『M』より、表題作をメインに他の収録作の要素を盛り込んで再構築された、廣木隆一監督作品。フリッツ・ラングの映画とは無関係

同監督による鬱病を題材とした過去作『やわらかい生活』と同様、自縄自縛に囚われる人間を描く主軸は近似しているものの、外界、他者との関わりによって更なる深みに嵌っていく本作の展開はそれと正対しているものだ。(主人公が美人なのも正対w)

売春によってヤクザと関わり泥沼に落ちていく平凡な主婦を主人公に、彼女の"マゾヒスト"としての資質が開花する事で事態がややこしくなっていく、原作『M』のストーリーをメインストリームとし、彼女の夫、子供を通じて彼女と関わっていく新聞少年の、主として3人の視点によるストーリーが平行交錯して進んでいく構成となっている。

主婦と少年においては、過去の記憶と実際の事実との混淆によって登場人物も観客も混乱させ、ドラマ展開への興味と感情の高まりに結びつける作劇と演出が、物語内にて有為に働いており、終盤のシーンを最初に少しだけ見せて、思わせぶりな興味を惹くと同時に物語へのヒントを与えているプロローグと、終盤にその時点に追いついて、当初は意味不明だった言葉がそこに至るまでのドラマを踏まえる事で意味をなして突きつけられる、時間と精神と感情とが絡み合って形成されていく構成は、原作とは完全に乖離した方向性ながら面白い。

キーワードの『M』を単にマゾヒスト、マゾヒズムだけでなく、マザー、マドンナ、そしてマーダーと、複数のイメージを観客に連想させて、人間の多面性に絡めているあたりも良くしたものだ。

だが一方の、主人公の夫視点でのドラマは、妻の変化を微妙に感じ取っていく夫、という描き方によって、主人公の変化を客観(夫なのに客観、というのもポイントか)視点で観客に回りくどく伝えていく狙いなのだろうが、演じる大森南朋の問題よりもむしろ、主演の美元演技素人なためか、対する夫のリアクションを変えていくだけでは肝心の"変化"を伝えるには不足しており、また、夫側のドラマが結局主人公側に回帰していかない事もあって、半端さを感じてしまう事となる。

だが、演技素人とはいえ美元は、『やわらかい生活』の寺島しのぶとは異なりミスユニバースジャパンに入賞した経験もある正統派の美女で、しかも胸は豊胸バレバレだがくびれから脚にかけてのラインが美しすぎるスタイルの良さも誇っており、そんな彼女が脱ぐだけでなく、ヤクザに真珠入りのチンコで犯された上に写真を撮られて感じてしまい、売春マゾ奴隷に堕ちていく、なんて役を演じているだけで、充分に観る価値はあると言ってもいいだろう。

エロ美女と平凡な主婦との二面性を撮り分けて視覚的に表現している撮影と演出のセンスも、作品を単なるエロ話に終わらせない後押しを充分に果たしている。

あらすじは今どきエロ劇画の世界でもお目にかかれない様な、ベタで単純な転落劇であり、原作が古いために劇中のエロサイトの描写まで古く、事象面でのリアリティは損なわれがちではあるが、登場人物達の意図的に類型化された表層的な有りようと、露呈していくネガティブな内面との描写は、それとは逆にリアルが追求されており、テーマと作家性は損なわれていない。

と言ってもやはり、なすび演じる新聞配達人が、少年にエロサイトを自慢げに見せる場面において、その顛末そのものは、社会の底辺に存在しがちな、少しでも自分より立場の低い相手に対して尊大にふるまい子分扱いしようとする、取るに足らない小者を"あるある"描写としてリアルに見せており、そうした"凡人"とは対極に位置する少年の存在を際立たせる狙いは果たされているが、二人がPC画面を見る引いたショットの次に、そのPC画面のアップが挿入されて画面に映っている画像が切り替わっているのを見せておきながら、再び引いたショットに戻ったら画面は切り換える前の画像のままだったりと、その時観客の視点はエロサイト画面に置かれているに決まっているのに、よりによってそこの映像的つながりを放棄しているといった、仕事の粗さが各所に見られてしまうのは、映画そのものの完成度を低下させる要因であり残念だ。

人物的な演出だけでなく、そうした細かいディテールにまでコダワリを徹底させてくれていれば、より作品世界をリアルなものとして感じられ、楽しむ事が出来ただろうに、勿体ない話である。

原作の方向性とは全く異なるので、原作ファンは不満に感じる点もあるだろうが、主演女優のエロスを引き出してリアルに捉え、それを単なるエロではなく作品そのものの意義として絡めている本作、機会があれば観ておいて損はないだろう。



tsubuanco at 15:44│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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